【まとめ】
・新聞の発行部数は16年連続減少、広告費は11年間でほぼ半減。
・新聞はアーカイブと人材を利活用できておらず、人材流出に歯止めがかからず。
・読者が本当に知りたい情報を報じておらず、ウェブメディアの猛攻を許している。
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昨年の新年特集【大予測:メディア(新聞)】で私は「伝統メディアが反転攻勢に」と書いた。結論から言うと、反転攻勢は無かった。それどころか新聞の凋落は止まらなかった。
- 深刻な部数の減少
新聞協会によると、2017年の一般紙の発行部数は38,763,641部で対前年比2.7%減であった。2001年の47,559,052部依以来、連続16年間部数を減らし続けている。
発行部数は朝夕刊セットを1部として計算
図1)Japan In-depth編集部作成(新聞協会のデータに基づく)
発行部数の減少より衝撃的なのは、新聞広告費の減少だ。2005年に1兆377億円あったのが、2016年は5431億円だ。11年間でほぼ半減したことになる。広告主にとってもはや新聞は魅力的な媒体ではないことを意味する。
当然座して死を待つわけにはいかない、ということで色々なチャレンジをしているが、デジタル戦略では日本経済新聞の独り勝ちの状況だ。しかしそれはビジネスマンにとって日経以外選択の余地がほとんどないからであって、高い購読料に二の足を踏む消費者も多いだろう。
その日本経済新聞社は2017年11月1日から月ぎめ購読料を朝夕刊セットで4509円から4900円(消費税込み)に、全日版を3670円から4000円(同)に値上げしたのには驚いた。セットで約9%、全日版では約9%の値上げである。目を疑った読者も多いだろう。正直その値上げ分の付加価値を感じない。
- 新聞が失った2つの付加価値
付加価値と言えば、新聞が媒体としての魅力を減退させ続けている理由として2点あげたい。それは、"コンテンツ(アーカイブ)"と"人材"の利活用が上手くいっていないことだ。
まずコンテンツ(アーカイブ)の利用に関していえば、インフォグラフィックス含めとても成功しているとはいいがたい。昨年の予測で私は既存メディアの強みはその膨大なアーカイブの存在だと書いた。その利活用を上手くやれば読者を引きつけることが出来ると今でも考えている。
しかし、新聞のウェブ版のトップ画面はごちゃごちゃしていて、どこに面白いデジタルコンテンツがあるのか全くわからない。動画も含め手間暇かけてコンテンツを制作しても、見てもらえなければ意味がない。
その動画だが、私は終始一貫して活字媒体が動画コンテンツを制作することに反対だ。1つには制作コストが高い事。もう1つは活字の人は映像に慣れていない、ということに尽きるだろう。新聞記者の解説リポートやインタビューなどは正直誰も見ないだろう。
一方でブレーキングニュースで、現場からの映像、特に空撮映像などをトップに配信できるのは新聞社ならではの強みではあるが、読者はそもそも新聞に映像の速報性を求めていない。テレビやSNSに上がる映像の方がはるかに速いのだ。したがって新聞社が苦労して映像をウェブ版に貼り付けてたとしても、これまた誰も見ないという憂目を見ることになる。
人材活用だが、これはもっと深刻だ。優秀な記者のウェブメディアへの流出が止まらない。「BuzzFeed Japan」の編集長古田大輔氏は元朝日新聞だ。
読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」編集長だった岩永直子氏も去年「BuzzFeed Japan」に参加した。調査報道ウェブメディア「ワセダクロニクル」(2017年2月創刊)の編集長も元朝日新聞の渡辺周氏だ。
朝日新聞のAERA前編集長の浜田敬子氏は、「ビジネス・インサイダー・ジャパン」の日本版統括編集長に去年4月に就任した。
なぜか朝日新聞社からの流出が多いが。やはり既存大手メディアの中ではやりたいことが出来ないという閉塞感があるのではないか。組織が硬直化したままでは、変化の激しいウェブメディアの世界に対応できないのは自明の理だが、それに経営者が気づかず人材を活かしきれていないとすれば残念なことだ。
以上2つの新聞不振の原因に加え、さらに深刻な問題がある。それは、一部の新聞報道が読者のニーズと乖離していることだ。
- 読者ニーズとの乖離
政治報道でいえば「もりかけ問題」。安倍政権打倒に血道を上げているか如くの偏った紙面に多くの読者が違和感を持ったであろう。しかも問題の本質を分かりやすく報道したとはとても思えない。法的にどのような瑕疵があったのか、今もって国民の多くはよく理解できていないのではないか。この問題を去年あれだけ追求したのだから最後まで責任をもって継続報道してもらいたいものだ。[大川聖1]
北朝鮮の挑発があれほど激化した2017年だったが、安全保障の議論を深めることなく国内問題に終始した報道に辟易した人は多かったろう。
そして2017年10月の衆議院総選挙だ。あれほど世界中でフェイクニュース問題が取り上げられているのに、「ファクトチェック」に大手新聞は全く熱心ではなかった。選挙前に立ち上がった、日本国内のファクトチェックの推進・普及を目的とした団体「ファクトチェック・イニシアティブ」の呼びかけに応じて、選挙期間中の政治家の発言や報道の内容を精査して報じたのは、「BuzzFeed Japan」と「ニュースのタネ」、「GoHoo」と「Japan In-depth」だけであった。
実際にどのようなファクトチェックが行われたかは、「ファクトチェック・イニシアティブ2017総選挙プロジェクト」を見ていただきたいが、今回我々がチェックした幾つかの例を読むと、普段目にしている、もしくは耳にしている政治家や識者・コメンテーターの発言をチェックする大切さを思い知ることになる。そして本来は新聞こそ、こうした取り組みをするべきなのだ。が、新聞のファクトチェックの取り組みは鈍いの一言に尽きる。
読者ニーズとの乖離といえば、新聞の「報じない自由」も際立った年だった。その一つが、筆者も長年情報発信している「子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)」の問題だ。副作用の問題を取り上げるテレビ、新聞は多いが、ワクチンの有用性を記事にすることはほとんどない。結果、子を持つ親はワクチンを受けさせるべきなのかどうか、判断できない状態が続いている。そして今現在日本では、HPVワクチンを打つ少女はほとんどいないという異常事態となっている。
そうした中、HPVワクチンの安全性を検証する発信を続けてきた医師でジャーナリストの村中璃子氏が2017年11月30日、イギリスの一流科学誌「ネイチャー」元編集長の功績を記念したジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞した。同賞は科学界のピューリッツァー賞に相当するくらい権威あるもので、日本でのワクチン接種率が大きく落ち込んだ原因となった情報キャンペーンを厳しく批判している。
しかし、大手新聞・テレビは村中氏の受賞を積極的に報じようとはしなかった。一方で詳細な記事を書いたのはやはりウェブメディアだった。Japan In-depthチャンネルでも村中氏を招いてネット放送したが、こうしたニュースこそ読者にとって知りたい情報であろう。一度、ウェブメディアでこうした報道に触れた読者は既存メディアに対する信頼を失うのではないか。このことこそ、最も深刻な問題であると考える。既存メディアがこの問題を取り上げない背景を村中氏が受賞スピーチ「10万個の子宮」で述べている。興味ある方はぜひ読んでもらいたい。
- ネットメディアの攻勢止まず
こうした既存メディア、特に新聞のもたつきを尻目に、ウェブメディアの攻勢は止まらない。直近では、「#Metoo(私も)」報道が記憶に新しい。火が付いたのは去年の秋のこと。ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタイン氏によるセクハラについて、女優のアリッサ・ミラノ氏が10月15日にTwitterで、「過去にセクハラや性暴力を受けた経験のある人は、この"#MeToo"ハッシュタグで声を上げて」と呼びかけたのだ。
そして日本においてこの「#Metoo問題」に火をつけたのは、ウェブメディアだった。「BuzzFeed Japan」が去年12月に作家のはあちゅうこと伊藤春香氏が過去に受けたセクハラについての記事、「はあちゅうが著名クリエイターのセクハラとパワハラを証言 岸氏「謝罪します」を配信したのだ。
伊藤氏の問題を後追いの形で新聞も報じたが、それに先立ちジャーナリストの伊藤詩織氏が去年、元TBS記者からの性暴力被害を告発した問題も含め、ネットメディアの報道が質、量ともに目立った。ここでも新聞は読者の知る欲求に迅速にこたえているとはいいがたい。
漂流する新聞はどこにいくのだろうか。その先がナイアガラの滝つぼでないことだけを祈る。