ある会社の社長から「社員に1人、問題児がいる」との相談があった。問題児自体はどの会社にもいるのでさほど珍しくない。そこで
「どんな問題を起こすのですか?」
と聞いたところ、「周りの意見を聞かず、勝手に仕事を進めてしまう」と仰っていた。
そのお話を聞き、私はひとつの疑問が浮かんだ。
社長は普段から、「社員がなかなか自分から動かない」と言っていた。「もっと指示を待たずに、自分から動いてくれるといいのに」とも言っていた。
しかし、実際にそのような人が出てくると、今度は「周りの意見を聞かず、勝手に仕事を進めてしまう」という。発言は矛盾しているが、社長はその時その時で、正直にそう思うのだろう。
では、その境界はどこに存在するのか。これはぜひ聞いてみたい。私はその社長に、
「自分から動いてくれる人」と、「勝手に仕事を進めてしまう人」の差って、何なんですかね。
と聞いてみた。
社長は言葉につまったが、少しずつ話しだした。
「うーん、はっきりとした言葉にするのは少し難しいんだけど、こちらの安心感があるか、無いかのちがいかな」
「というと?」
「指示を待たずに自分から動いてくれ、というのはもちろん条件がある。ひとつはその人に与えられている権限をきちんと理解しているか。勝手に契約などされてはやっぱり困る。この人は権限をきちんと理解している、という安心感があれば、こっちの指示を待つ必要はない。」
「なるほど。それはそうですね。」
「あとは、周りの人への配慮が出来る人かどうか、かな。勝手に動く、ということは人によっては反感を持つ人もいる。これは社長がどんなに「自分から動いてくれ」といっても、一定数は保守的な人がいるもんだ。そういう人へ配慮しつつやってくれるといいんだが。揉め事を起こせば、周りからその人が孤立してしまう。それは困る。」
なるほど。
「ということは、結局「自分から動いて欲しい人」と、「勝手に動いてほしくない人」がいるということですね?」
と聞くと、
「そのとおりだが、そのように社内にアナウンスはできないだろう。平等という観点からは」
確かにそのとおりだ。
このように、「自分から動け」を真に受けないほうが良いことは、賢い大人なら誰しも知っている。
ただ、自分が「自分から動いて欲しい人」にカテゴライズされているか、「勝手に動いてほしくない人」にカテゴライズされているかを知るのは難しい。大人は人にハッキリ物を言わないからだ。
さらに、「勝手に動く人」はそういうことを気にするほど繊細ではない。
ということは、
賢い人は、その賢さ故にリスクを回避して「指示待ち」となり、勝手な人はその鈍感さ故に空気を読まず、「問題児」となる。
結果的に「指示待ち」が増え、一部の問題児が浮き彫りになるのは必然だ。
だから、「指示待ちになるな」とは、実際にはあまり意味のないアドバイス(?)だと思う。
経営者や管理職は、社員に「指示待ち」になってほしくなければ、やはり適切な人に明確に権限を預けなくてはいけない。
「うちの会社には自分から動ける人が少ない」と経営者や管理職が嘆くのは、殆どの場合原因は本人にあるようにも見える。
(2014年1月26日Books&Appsに加筆・修正)