「この国には何でもある。本当にいろいろなものがあります。だが、希望だけがない」
これは、2000年7月に発売された、村上龍氏による小説「希望の国のエクソダス」にある言葉だ。
「希望の国のエクソダス」のあらすじ
「2002年秋、80万人の中学生が学校を捨てた。
経済の大停滞が続くなか彼らはネットビジネスを開始、
情報戦略を駆使して日本の政界、経済界に衝撃を与える一大勢力に成長していく。
その後、全世界の注目する中で、彼らのエクソダス(脱出)が始まった。」
(文春文庫の紹介より)
もう15年以上前に発表された小説である。
中学生が大人を見捨て、そして日本を見捨てていく。
しかしそこには、暴力的なテロリズムや熱狂も、起業家のような高揚感もない。非常に静かに、大人を見捨てて行くのである。
日本のことを「ゆっくりと死んでいる」とも言っている。
そんな中学生が、沈み行く豪華客船からこっそりと逃げ出すように、日本を捨ててゆく。
日本ではいつからか「子ども」は社会の端に追いやられ、豪華客船のねずみのように無視されている。
この小説は、大人の都合を甘んじて受けてきた中学生の、静かな、本当に静かな反乱の物語である。
そして、発売当時から15年の時を経て、日本の子どもを巡る状況はさらに急速に悪化している。
現在、日本の子どもの貧困率は16.3%、およそ6人に1人が貧困という状況である。これは先進20ヵ国で上位4番目というという不名誉な状況である。
他の国にくらべ圧倒的に少ない子ども若者への税の再分配、労働政策の失敗による子育て世代の非正規雇用化と所得の減少、男女の賃金格差などが原因である。
ー勉強部屋はおろか勉強机もなく布団の上の御盆で大学受験の勉強をする。
ーインターネットもパソコンもなく調べ学習の宿題を「忘れたふり」をするしかない小学生。
ー給食のない夏休みには体重が減ってしまうほど切り詰めた食費。
ー低賃金長時間労働で心身ともに疲弊し倒れるシングルマザー。
ー優秀な成績なのに経済的事情で大学進学をあきらめ商業高校に進む15歳の少女。
ー家計を助けるため、小遣いや部活の費用を稼ぐため、進学費用を蓄えるために、早朝から深夜までコンビニや居酒屋でアルバイトをする高校生。
すべて 今の日本の子どもたちに現実に起こっていることである。
一方、政府の調査によれば、日本では1年間に99人の中学生が「自殺」している。
1週間に2人の中学生が日本のどこかで「自殺」している。
学生生徒というカテゴリーで見れば、年間に835人が「自殺」している。10時間に1人だ。
平和な今の日本で、「生きる希望」を持てない子どもがたくさんいる。
私は今、貧困状況にある子どもたちのために給付型奨学金の創設を求める署名活動を行なっている。
「ママを困らせたくないから、勉強したいけど、私働く」をなくしたい。給付型奨学金の創設を!
日本は、大学の学費が大変高く、かつ給付型奨学金がない先進国唯一の国である。世界では大学の学費は無料または低額、そうでな給付型奨学金制度が整っており、借金をせずに大学に行ける。
先進国の中で、日本だけが唯一,お金のない家に産まれた子どもが大学進学の「希望」を持てない国なのだ。もしお金のない家に産まれた子どもが大学に入ろうとすれば、18歳で貸与型奨学金という名の莫大な「借金」を背負わなければならない。
私が代表を務めるNPO法人キッズドアでは、貧困状況にある子どもたちのための無料学習会を2010年より開催している。
活動の中で、成績優秀で本当は大学に行きたいのに、家の事を考え大学進学をあきらめ、高校のランクを落とし商業高校に進む15歳の子どもを何人見ただろう。
「大学に行きたい。奨学金をたくさん借りるのは怖いから高校のうちにバイトで稼ぐ」
と夜中まで、テスト前にもバイトをし、大学どころか進級すら危うくなる高校生を何人見ただろう。
こんな世の中はおかしくないだろうか?
子どもは,貧困な親を選んで産まれてきた訳ではないのだ。
「努力をすれば、誰もが借金の不安におびえずに高等教育を受けられる」
そんな日本以外の国なら当たり前の「希望」を作るためには給付型奨学金は絶対に必要だと確信している。
しかし、署名への賛同は残念ながら現状あまり広がっていない。5万人の署名を集めたいと思っているが、まだ3300人(5月14日現在)しか集まっていない。
さらに給付型奨学金の導入に対して、いろいろな人がネットで反論を書いている。
--(お金がないのなら)働きながら大学に行くという道がある。
--大学進学をすれば生涯所得が増加する。十分元はとれるのだから貸与型で十分だ。
--大学に行くだけがすべてではない。高卒で立派に働いている人もたくさんいる。
--給付型奨学金は、格差解消にはつながらない。
--海外の事例から、給付型奨学金には貧困改善の効果はない
なんとか、署名を集めようと、ひとつひとつに返信を書きながら,心が折れそうになる。
--働きながら大学に行く道がある。
それは正社員の職を得て夜間や通信の大学で学べということですか。低所得の子どもは、自分の好きな大学で好きな学問を学ぶ自由はなくてもしょうがないのでしょうか?
または、バイトをしながらということでしょうか?普通の時給でバイトをしても精々稼げるのは月10万円。高い学費と生活費を賄うには足りません。時給の高いキャバクラで働かざるを得ない女子大生は、彼女たちが悪いのでしょうか?
--大学進学をすれば生涯所得が増加する。十分もとはとれるのだから貸与型で十分だ。
確かに統計上は、大学進学をすれば十分元はとれるかもしれません。しかし、年収150万円、200万円で暮らす家で、毎年100万円の借金を背負う勇気が出ません。病気がちな母親を抱えていたり、借金の返済に負われる親を見ながら、奨学金を借りてまで進学しようとは思えません。
借金ではなく、給付であることが重要なのです。
−給付型奨学金は、格差解消にはつながらない。
−給付型奨学金は貧困の解消改善の効果はない。
−大学に行くだけがすべてではない。
・・・わかっている
私にだって十分わかっている
給付型奨学金が直接に子どもの貧困率を改善するわけではない事も、誰でも彼でも大学に行けばいいというわけではない事もわかっている。給付型奨学金のかわりに貧困家庭に現金給付を増やしてくれるのなら是非やって欲しいし、大学の学費を無料にしたり半額にしたりしてくれるのなら大賛成だ。
でも、いつ、それは実現されるのか?
今から検討して、5年後? 10年後? 20年後?
その間に、何千人、何万人の子どもが、社会に絶望して自殺していくのか?
10時間に1人づつ学生が自殺し、1週間に2人づつ中学生が自殺しているのだ。
あなたたちは、その事に気付かない振りをして、机上の空論をのんびりと議論していくのか?
給付型奨学金で作りたいのは、「この国の希望」なのだ。
貧困に喘ぐ子どもに、一条の希望の光を作りたいのだ。
今回の署名活動で求めているのは、毎年100万円の奨学金を1万人に給付する、総額100億円の奨学金だ。今年度景気対策として一人3万円配られる高齢者向け給付金の予算は3000億円を超える。そのお金で30年は奨学金を給付し続けられる計算だ。
残念ながら、最近は毎年100万人の子どもしか産まれない。ベビーブームの半分以下だ。毎年1万人の給付型奨学金は、つまり100人に1人が貰える。大学の進学率が50%、またそのうち半分は奨学金を借りずに大学に行ける層である。乱暴な計算をすれば25倍の競争率。
25人のクラスで1位をとれば、1学年250人の学校なら学年10位以内に入れば、給付型奨学金を貰える。
宝くじよりはずっと信じられる「希望」だ。
貧困に苦しむ子どもたちに、「小さいけれど確実な希望」を作るための給付型奨学金、そのための署名キャンペーンである。どうか一人でも多くの人にご協力いただきたい。
「希望の国のエクソダス」では、最後に中学生が北海道に事実上の独立国家を作る。経済破綻しつつある日本から脱出する。
小説の発表から15年を経て、小説のように大量の中学生が日本からエクソダスするような事にはなっていない。
しかし、10時間に1人自殺していく子ども、本当は3人子どもが欲しいけど経済的な不安で1人しか産まないカップルの、産まれて来なかった2人の子どもは、日本からの静かな静かなエクソダスだ。
この国の最大の課題である「超少子化」は、子どもたちの無言のエクソダスだと私は思う。
今、この国に必要なのは、子どもたちが、そして子どもを持とうとする若者たちが信じられる「小さくても確かな希望」だと思う。
そして大型の給付型奨学金は、今すぐにできる確かな希望なのだ。
最後にもう一度、
貧困の中で苦しむ子どもたちに、希望を作るために、どうかあなたも,インターネット署名にご協力をお願いいたします。そしてもし、ご賛同いただけるのなら、回りのお友達にも署名の協力をひろげてください。
あなたの署名は、確実に、この国に希望を作ります。
「ママを困らせたくないから、勉強したいけど、私働く」をなくしたい。給付型奨学金の創設を!
http://chn.ge/1SXUiez
【ご参考】
給付型奨学金の必要性についてNPO法人もやい 理事長 大西蓮さん