先日の記事、「グリーフとはどんなもの?」では、グリーフについて、皆さんからよくあるご質問にお答えしました。
今年も残りわずかとなり、忘年会やクリスマスパーティーなどのイベントが盛りだくさんのこの季節。グリーフ(深い悲しみ)の過程にある人々にとって、年末年始はとてもストレスがたまりやすい時期です。
アメリカで有名なクリスマスソング、 "It's the most wonderful time of the year" は、この季節が1年中でもっとも素晴らしい、と唄っていますが、それは誰にとってもそうでしょうか?
もし、あなたの家族や友人が病気の場合、年末年始の予定をたてたり、イベントに参加したりする気分になれないかもしれません。そのひとつの原因として、アンティシパトリーグリーフ (anticipatory grief)というものがあります (→「グリーフはどんなもの?」)
アンティシパトリーグリーフとは、大切な人の死が差し迫ったとき、それを予期して起るグリーフのことを指します。つまり、最愛の人が亡くなる前から、グリーフははじまっているわけです。そのため年末年始は、特に精神的に参ってしまうかもしれません。
また、今年身近な人の死を体験した場合、その人がいない初めての年末年始は、とてもつらいでしょう。そんな時、亡くなった人のことを思い出して苦しくなったり、孤独な気持ちになるかもしれません。
私の人生で最もつらい1年は、兄が突然死んだ年でした。両親にとっても、息子を失うということは言葉では言い表せない苦しみだったと思います。
しかし、少なくとも私たちは、新年のお祝いをする心配はありませんでした。 日本では、家族が死んだ年に新年のお祝いをしないからです。その代わりに喪中はがきを送って、まわりに家族の死を知らせると同時に、新年のお祝いをしないことを告げます。この習慣には、遺族から新年のお祝いをするというプレッシャーをとり除く役割があります。
残念ながら、欧米ではこのような習慣はなく、家族が亡くなった年でも例年のようにサンクスギビング(11月に行われる感謝祭)やクリスマス、ニューイヤー(お正月)、といったお祝をするのが一般的です。そのため、グリーフの過程にある人々にとって、この季節は耐えがたいものなのです。
アメリカのホスピスで働いていた時、遺族の方々から何度も聞いた言葉があります。
「サンクスギビング(感謝祭)の前日に床について、1月に目を覚ましたい」
年末年始を逃れるためです。あなたは今まで、そのように感じたことがありますか?
先日「Dealing with grief during the holiday season (ホリデーシーズンにグリーフを乗り越える)」という記事を読みました。
大切な人を亡くした方、介護にあたっている方、家族や友人がグリーフになっている方に役立つ情報が載っていましたので、記事の中のいくつかのヒントをご紹介します。
1.気持ちに素直になって、やりたいと思ったことだけをする
やりたくないことを無理にする必要はありません。忘年会やクリスマスパーティーに出席するかしないかを決めるのはあなた次第です。
グリーフを乗り越えるには時間がかかります。一番重要なことは、健康に気をつけて、1日1日を乗り越えることです。それを第一に考えましょう。
2.自分の気持ちを受けとめる
グリーフの最中に感じる気持ちは、ひとりひとり違います。どれが正しいとか間違ってるとかいうことはありません。
中には悲しい気持ちを避けようとする人もいますし、逆に涙が止まらない人もいます。年末年始を楽しむ気持ちになれない人もいれば、それを楽しんだことに罪悪感を感じてしまう人もいます。
どんな気持ちであっても、それを受けとめることが大切です。
そして、気持ちの浮き沈みも普通のことだと認識しましょう。穏やかな気持ちになったと思えば、次の瞬間、突然悲痛な思いになるかもしれません。
真実と向き合い、気持ちを受け入れることで、他人を非難することなく年末年始を過ごすことができると思います。
3.家族や友人にサポートを求める
自分の感情を、家族や友人に打ち明けてみるのもひとつの方法です。
あなたが今年、どうやって年末年始を過ごす予定なのか、素直に言うことが大切です。そして、もし亡くなった人の話をしたければ、してもいいのです。それによって相手も、故人の話をあなたとしても大丈夫だと感じるはずです。
それから、パーティーや忘年会などに、友人を連れて行くのもいいアイディアです。そしてもし早めに退席したい場合、どうやって早く抜け出すかという、いわゆる「避難プラン」をたてておくと便利です。
4.専門家の助けやサポートグループを求める
専門家の助けを求めたり、サポートグループに参加したりすることも重要です。同じような経験をした人たちと知り合うことが、心の支えになるでしょう。アメリカの多くのホスピスでは、サポートグループやカウンセリングなどのサービスが受けられます。日本の場合はどうでしょうか。
5.子どもに焦点を当てる
子どもたちもグリーフになっていることを理解し、色々な面でサポートしてあげることが大切です。また、子どもたちが自分の気持ちを安心して表現し、死やグリーフについて質問できる環境をつくってあげましょう。
亡くなった人の話を避けるのではなく、その人のことやグリーフについて子どもと話しあうことこそ、まわりの大人の役目です。
(→『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)参照)
6.前もって計画する
行事の何週間か前から、心の休まる活動を計画することによって、楽しみを増やしましょう。何か新しいことを計画してもいいですし、馴染みのあることを計画してもいいいのです。 とにかく、あなたがしたいことをするのです。
また、ポジティブな人と接することはとても重要です。
7.縮小 する
年末年始の行事が重荷に感じたら、そういった行事に参加する数を減らすると、楽になるかもしれません。現実的な目標をたてることと、自分に優しくすることが大切です。
8.寄付をしたり、ボランティア活動をする
驚くことに、グリーフの時私たちの心を安らげてくれるものは、他人に何かをしてあげることです。
悲しみ、絶望感、無力感 によって、感情が麻痺してしまう場合があります。そんな時、人のために何かをしたいと思うことがあります。
例えばアメリカでは、亡くなった人の名前で遺族が寄付をしたりすることがよくあります。また、亡くなった人にとって意味のあったものを買い、それを恵まれない人達に寄付したりもします。そういったことにより、グリーフが癒される場合があるのです。
9.大切な人が亡くなったことを認識する
大切な人の死を受けとめ、その人のためのリテュアル(儀式)を行うのはいいアイディアです。
ここでいうリテュアルというのは宗教的なものではなく、個人で創り出すセレモニーのことです。いくつかのアイデアとして、キャンドルに火をともす、故人の話をする、木を植える、手紙を書く、写真を飾る、などがあります。
10.何か別のことをする
今年の年末年始は、例年のようにいかないことを認識した上で、新しいことを計画してみてはいかがでしょうか? 例えばボランティアをしたり、友人と食事に行ったり、旅行をしたりして、新しい思い出を作るために外出してみるのもいいかもしれません。
11.行事をスキップする
年末年始の行事が重荷の場合は、今年は参加しないことにして、それを家族や友人に知らせて下さい。
その代わり、心が安らぐことをしてみて下さい。好きな音楽を聴たり、美味しいものを食べたり、ハイキングに行ったり、日記を書いたり、ゆっくりお風呂に入ったり。
無理をせず、あなたの気持ちが楽になることをしてみてください。
(「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)
著書: 『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)
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