文学者の荒井裕樹さんは、震災を振り返って言う。
7年前震災が起こったとき、私たちは言葉を失った。被害を受けた人々に何と言ったらいいのか...。適切な言葉が見つからず、ようやく出てきた言葉が、
「頑張って」
「負けないで」
「早く復興して」
などだったと思う。しかし被災地の人たちにとっては、このような「励ましの言葉」は逆に負担になったかもしれない。
私はホスピス音楽療法士として死に逝く人々と接する中で、どんなに心の奥底を探っても適切な言葉が見つからない、という状況を何度も経験した。実際、「何と言っていいかわかりません...」と、何度患者さんに伝えたことだろうか。
ホスピスケアにおいて大切なことは、"doing (何かすること)"ではなく "being(寄り添うこと)"だ。患者さんやご家族が必要としていることは、何かをしてあげることでも言葉でもなく、あなたの思いやりのある存在そのものなのである。
ただ、困るのが実際に自分がその場にいないときだ。遠く離れている家族や友人が困っているとき、一緒にいて寄り添うことができない。そんなときはやはり言葉で気持ちを伝えたいと思うのだが、日本語だと適切な言葉を見つけることが難しい。
先日、フェイスブックの投稿で、遠くに住む友人の家族が亡くなったことを知った。そのとき何とコメントしたらいいか迷った。彼女の悲しみやショックは想像できたし、手を差し伸べたいと思った。でも、そんな気持ちを表現する言葉って何だろう? 唯一思いついた「ご冥福をお祈りします」という言葉も、あまりにもフォーマルで距離感がある。
このような場合英語では、次のような言葉をよく使う。
"I'm thinking of you(あなたのことを想っています)"
"My thoughts are with you(私の想いはあなたと共にいます)"
"I'm sending you my thoughts(私の想いをあなたに送ります)"
"My heart goes out to you (私の心はあなたに向けられています)"
とてもシンプルなフレーズだが、相手を想う気持ちは伝わる。日本語訳にするとまるで恋人への言葉のように聞こえるかもしれないが、実はこれは相手の心に寄り添う、〈共感〉を伝える言葉なのだ。
そして共感こそ、苦しいときに誰もが求めていることだと思う。あなたにもこんな経験はないだろうか。つらいことがあったとき、誰かの言葉で苦しみが和らぐことはないかもしれないが、自分ひとりではないということや、誰かがあなたのことを想っていると知ることで、安心する。
三陸の被災地で支援を続けている音楽療法士の友人は、「忘れられていない、ということがとても嬉しいです」と語った。震災から7年目、被災地の人々を励ます言葉はないかもしれないが、彼らのことを想っている。
(2018年3月11日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)
佐藤由美子(さとう・ゆみこ)
ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院を卒業後、アメリカと日本のホスピスで音楽療法を実践。著書に『ラスト・ソング』『死に逝く人は何を想うのか』。