エコに生きる社会へ - 実験都市に未来はあるか?

現代社会の"箱から出る"ためには。

1989年の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー Part II」で、タイムマシーンに乗った主人公がたどり着いた2015年10月21日が遂に到来。

作品の中で使われていたホバーボード、空飛ぶ車、ハイテクスニーカーなどの未来グッズは、30年後の未来を推測する対象とし、当時映画を見ていた人の心を踊らせていたはず。そんな未来到着の日を記念すべく、テレビや大手ブランドは映画をテーマとしたプロモーションを行うなど大きな盛り上がりを見せていましたが、正直な話、「たいして生活変わってないな」と、改めて"今"を実感していた人が多かったのではないかと思います。

過去30年間で私たちの生活を大きく変化させた文化の一つといえば、便利なスマートフォンやパソコンの普及ですが、その傍ら、都市化の急速な進みにより、地球温暖化や水質汚染などの環境問題に直面しているのも事実です。

実は、今から45年前、このネガティブな部分の未来を予想し、人々がエコロジーに生きられる実験未来都市を計画した一人の男性がいました。

パオロ・ソレリは、アーキテクチャー(建築)とエコロジー(環境対策)を掛け合わせた"アーコロジー"という理論を提唱した、イタリア人建築家。環境を破壊せずに、自然を上手く利用しながら、人々が快適に暮らすことのできる近未来的な巨大都市の研究を行いました。1970年、ソレリはグッゲンハイム財団から授与された奨学金を利用し、アリゾナ州に「アーコサンティ」とよばれる都市建造物の建設をスタート。広大な砂漠の大地に建てられた"未来都市"には、現在も100人弱の住民が存在しています。

先日、アーコサンティを訪れる機会がありました。建物の中には幾何学的な図形や模様が多々見られ、色・形、設計内容といい、まるで70年代のサイエンス・フィクション映画「2300年未来の旅」を思い起こさせるかのようなフューチャリスティックで美しい内部です。ですが、環境保護を目的としているというだけあり電力の使用は最低限。気候、地形、風力、自己発電を十分に活用できる設計となっています。

45年経った今、アーコサンティの建設はまだ終了しておらず、現状は最終形態のほんの10%。建設が始められた70年代当初には、ソレリの概念に影響されたたくさんの人が移り住み、ボランティア団体も意欲的に建設に参加していたそう。しかし、その後世の中ではデジタル化の発展により人々の興味を失い、金銭面でも苦労をしたため、建設が思うように進まなかったようです。

現在も建設計画を実行中の住民と会話をするチャンスがありました。20年以上も滞在している人や、他国から移り住んだ人など、そのバックグランドは様々ですが、みなさんがアーコサンティでの生活を満喫しているようでした。移住する主な理由に、一般社会から離れストレスフリーで暮らせることや、テクノロジーに支配されずのびやかなマインドを保てることなどが挙げられています。

ソレリが他界し、現在はコミュニティメンバーのみでの設計活動となっていますが、この場所を訪れ、私は一つの疑問を抱きました。それは、在住者があまりにも"自然へ帰れ"的思想に執着し過ぎ、本来ソレリが目的としていた、環境と人間のための近未来都市の開発・拡大というアーコロジー精神が薄れているのではないかということです。

在住者には施設内での労働が義務づけられており、交代でブロンズや陶器でできた風鈴のようなベルを日々生産しています。そのベルの販売で得られるお金でコミュニティーを運営しているわけですが、それではあまりにも不得要領。もしも、彼らが都市の完成へ尽力し、存在を広めようとするのならば、他にもアプローチの方法があるのではと感じてしまいます。住民がそれぞれのんびりとした暮らしに喜びを抱いているといえども、元々、ソレリは自然との共存以上に、環境と文明の両立が可能な都市の"拡大"を目的としていたはず。元来の野心はどこへ、とついつい感じずにはいられませんでした。

環境問題が重視される今、ソレリの都市計画には、私たちが現代社会で生活する上で見直さなくてはならない、エコロジーを意識した工夫がたくさんあること気付かされます。個人的に良い影響を受けましたし、人々が参考にできる素晴らしい生活習慣が見られる場所だと思いました。さらに、ソレリの信念が45年間も生き続けていることも大変感慨深いです。ただ、現在の住民が自然や自由思想だけにとらわれず、 大規模な行動によってアーコロジーという理念を多くの人々に知ってもらえるようにアクションを起こせたらなとも考えてしまいました。

住民の一人の会話に、印象的な内容がありました。

「現代社会では、人間があまりにも小さな"箱の中"に入り浸りすぎる。会社では大きなビルに、ビルの中ではオフィススペースに、オフィススペース内ではパソコンの画面の中に、そして、しまいにはスマートフォンの中に収まってしまう。箱はどんどん小さくなり、マインドも小さくなっていく。だけど、角張った箱から出てきて思い出してほしい、人間が住む地球とは、大きくて美しい、丸い球体であることを。」

住民の考え方は、60年代後半〜70年代前半にあった文明否定の思想と実に似ており、もちろんソレリ自信も当時の文化影響を受けながら研究を開始したことでしょう。しかし、"箱から出る"という本来の意味は何でしょうか。ある特定の場所でデジタル社会とは関わらずに大地の上で自由に生きることなのか、それとも決められた制度の中でテクノロジーを利用し多文化を学びながら視野を広げて行くことなのか。ソレリが近代化と環境保護の同時進行を重視していたように、どちらにもバランスが必要なのではと思います。

山々に囲まれた大自然に広がるアーコサンティは、ソレリの近未来的な建築デザインが映える平和で美しい場所です。施設内では、観光滞在できる部屋も用意されており、住民が行うツアーに参加し内部を見学することも可能。アーコサンティは、まるで異次元に存在している未完成のユートピアのようです。

アーコサンティ 

Arcosanti, HC 74, Box 4136, Mayer AZ 86333

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