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どこでもない、南カリフォルニアの灼熱砂漠のど真ん中。永遠に続くかのような砂色の先に、きらきらとした不思議な光景が見えてきます。「ボトル・ツリー・ランチ」と呼ばれるこの場所は、まるで殺風景な荒野にぽつんと現れるオアシス。放たれるカラフルな光は、ルート66を行く旅人達をゆらゆらと導いているかのようです。
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中に足を踏み入れると、そこは静寂とした七色の樹海。青空にとけ込んだ色とりどりのガラスが太陽の光に反射し、それは美しい空間を生み出しています。
鉄パイプで作られた風鈴が、熱い風に揺られからんからんと音をたて、さびた鉄製のからくり人形は、時々何かを思い出したかのようにきーこきーこと動き出し、アルミで作られた風車があちこちで不定期に回転しています。とにかく静かで、なぜか暖かな幸福感の得られる不思議な場所。
これらは全て、ガラスの空瓶で制作された「ボトルの木」の庭園。リサイクル箱の中に見慣れていたガラス瓶だけに、外の世界で変貌を遂げたこれらの摩訶不思議な光景に驚きながらも、その夢幻的世界にうっとりと引き込まれてしまいます。
この並木道の奥には、ちょっと古ぼけた木製の平屋が。ノックをすると、ようこそ、と言いながら出てきたのは気の良さそうな長い白ひげのおじいさん。彼がこのボトル庭園を作った人物、アルマー・ロング氏です。なぜ、こんな砂漠の真ん中にガラス瓶の樹海を作り上げたのでしょうか。
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「私はね、コレクターなんだ。この庭は15年をかけて集めたガラス瓶の集大成なんだよ。物集めが趣味であるコレクターだが、ある程度の数をコレクションしたその先はどうなる?と考えてね。きれいな空き瓶を集めても、物置に眠らせて置くのはもったいないだろう。だから、こうしてこの子達にも晴れ舞台の場を作ってあげたんだよ。」
その時、そう語るエルマーおじいさんの声をかき消すかのように、ルート66のツーリング中であるバイクの団体が大きな音と共に近づいてくる姿が見えます。彼らは重厚な音を上げるハーレーのエンジンを止め、この七色の光にゆっくり魔法をかけられたかのように、ふらふらきょろきょろと園内に入ってきました。
「このガラス瓶の庭を作ってからは、たくさんの国の人々が毎日のように立ち寄っていく。フランス、スウェーデン、ドイツ、そして日本からも、みんな私のコレクションを見にやってくるんだよ。こんなに関心を持ってもらえるなんて、うれしいことだね。」
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どうしてエルマーおじいさんは、街から遠く離れたある意味不便ともいえる砂漠の中に住もうと思ったのでしょうか。
「なぜ砂漠のど真ん中に住み始めたかと言えば、平和が好きだから、というのが理由なのかもしれないな。ここには1973年から住んでいるが、当時は今以上に殺風景で、本当に『どこでもない場所』だったんだ。高層ビルやたくさんの店舗、多くの近所に囲まれるよりも、静かで広々とした場所のほうが良い。人嫌いと言う訳ではないよ。今はこうやって、君みたいな人が日々訪ねてくれて、みんなと話したりするのは本当に楽しいからね。」
エルマーおじいさんは続けます。
「この先も、妻と一緒に美しい空き瓶や骨董品をコレクションしていきたい。まだまだ、やることはいっぱいあるからね。」
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そう言ったあとに、フランス人の若者のグループがちょっと不安そうに近寄って来ました。エルマーおじいさんはみんなと握手を交わし、楽しそうに彼の庭を案内し始めました。
熱く焼けた白い砂色の大地で、神秘的な七色の光を放つ「ボトル・ツリー・ランチ」。足を踏み入れた時のあの不思議な幸福感は、エルマーおじいさんの暖かい人間性と、彼の平和に対する思いの反射だったのかもしれません。
「エルマーおじいさんのボトル・ツリー・ランチ」
Elmer's Bottle Tree Ranch:National Trails Hwy, CA, 92368