ロシア空軍がスウェーデンへの核攻撃を想定して軍事演習を行っている。北大西洋条約機構(NATO)が先月末に発表した年次報告書で明らかになった。
この報告書では、2013年3月にロシアがスウェーデンのストックホルム群島の東端で実施した軍事演習は、実際にスウェーデンへの核攻撃を想定したもので、北欧地域でのロシアの攻撃的な姿勢を指し示す、懸念される動きだと見ている。事実、この演習では、スウェーデン領空の境界付近までロシア空軍の爆撃機と戦闘機が急速に接近した。
これに対し、スウェーデン政府は、NATO非加盟国であるにも関わらず、NATOに戦闘機の派遣を要請、NATO加盟のデンマーク空軍の戦闘機2機が、ロシアの演習に対応して現場空域に急行した。
NATOの目的はスウェーデンのNATOへの加盟、軍事増強か
一方、ロシアのNATO大使はこの報告書をNATOの必要性をアピールするための宣伝キャンペーンだと批判した。
これは、自分達の必要性をアピールし、欧州に『鉄のカーテン』を再び作りだそうとする方針を正当化し、さらに軍事的潜在力の拡大とロシア国境への接近に向けた同盟諸国の努力を根拠づける目的で、NATOが行っている攻撃的プロパガンダ・キャンペーンの一環に過ぎない
また、2014年10月にロシアの潜水艦がストックホルム群島近くのスウェーデンの領海に侵入した目的もスウェーデンがNATOに加盟するのを防ぐためだという見方もある。
実際、ロシアに対してNATOは包囲網を築こうとしている。今月10日、NATOはブリュッセルで国防相理事会を開き、ウクライナ危機で対立するロシアへの抑止力を強め、ロシアと接する東方の加盟国の防衛力を高めるため、東欧やバルト3国に交代で派遣する部隊を増強することで合意した。また、米国は2017年度の国防予算で欧州向け軍事費を前年度比4倍に拡大している(関連記事:米国防総省の来年度予算概要が明らかにー対ロ路線が鮮明)。
こうした中でスウェーデンは、昨年2月にフィンランドと軍事協定を、同年3月にはNATO加盟国のデンマークとも同様の協定を結び、NATOとの関係性を強めている。さらに、スウェーデン国内でもNATO加盟を望む声が強まっている。昨年9月に実施された世論調査では、回答者の41%がNATO加盟を支持、13年に実施された世論調査と比較すると、10ポイントも上がっている。
だが、スウェーデンのペーター・フルトクビスト国防相は、上記の協定をNATO加盟に向けた一歩とみるのは誤りだと強調した。こうした協定はあくまで地域の安全保障の強化を目的としており、非同盟中立国の立場は変わらないとしている。
高まる警戒心
それでもロシアを警戒し、スウェーデンが軍事を増強しているのは事実だ。スウェーデンは軍事費を2014年約432億クローナ(約5800億円)から2015年446億クローナ(約6000億円)に増加。2016~2020年の間に軍事予算を106億クローナ(1440億円)増やすことを決めた。スウェーデン軍は、昨年からバルト海に浮かぶ冷戦時代の要衝ゴトランド島に部隊を再配備している。昨年8月にはウクライナでのロシアの動きを批判し、スウェーデン駐在のロシアの外交官1人を国外追放し、それに対する報復としてロシアもスウェーデンの外交官を追放している。
また、スウェーデン軍参謀本部長は、「ここ数年のうちにスウェーデンは、戦争状態に陥るかもしれない」との予想を明らかにし、スウェーデンやデンマークなど北欧諸国のロシアに対する警戒感は冷戦以降で最高レベルに達している。ノルウェーやフィンランドも軍事費を増大させている。
欧州政策分析センター(CEPA)が昨年公表したバルト海の安全保障に関する報告書では「ロシアのシナリオは、ノルウェー北部、(フィンランド領)オーランド諸島、スウェーデンのゴトランド島、デンマークのボルンホルム島を迅速に掌握することだ」と、指摘している。
ロシア経済が疲弊している中で、ロシアが北欧諸国やバルト3国に戦争を仕掛けることはないと思われるが、いやむしろ疲弊しているからこそ軍事的に暴走するのかもしれないが、実際にウクライナを一部占領し、シリアでも多くの市民を空爆で殺害しており、今後も緊張が高まっていくのは間違いないだろう。
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(2016年2月13日「Platnews」より転載)