平成28年3月3日、ひらた中央病院では東京電力福島第一原子力発電所の事故から5年が経過するのに合わせ、これまでの内部被ばく検査結果を公表しました。
当院は民間病院としては最も早く、震災後の平成23年10月に内部被ばく検査を開始しました。当初は、子供や双葉郡8町村(広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村)の住民を優先的に検査していましたが、それ以外の市町村からの問い合わせで電話回線はパンクし、連日夜遅くまで検査に追われた日々でした。
その当時は、「もしセシウムが検出された場合はどうなるのでしょうか。お薬はあるのですか。」「もう何時間も待っているのに、なんでまだ検査ができないんですか!」など検査にくる方々からは不平不満が爆発し、スタッフも死にものぐるいで対応していました。そんな中、この5年間に当院で行われた内部被ばく検査者数は、これまでで延べ46,401名に上ります。(当院の二瓶事務長の手記もご参考下さい。http://medg.jp/mt/?p=6579)
今回の結果には、平成26年2月から平成27年11月までに検査を行った延べ7,617名(成人用WBC(通称:Fastscan):5,607名、乳幼児専用WBC(通称:Babyscan):2,010名)が含まれています。検査結果は、当院のHPでも公表されています。
結果としては、7,617名中、放射性セシウムが検出されたのは3名のみ、その他は全員検出限界未満でした。年々放射性セシウムが検出される方は減少傾向にあります。もう福島県内の内部被ばくは十分に低い。そのことは「コンセンサス」になりつつありますが、今回は結果だけでなく、検査から見えてくるそれ以外の事情についても説明したいと思います。
【検査結果】
今回の検査期間中、Fastscanによる検査で放射性セシウムが3名から検出されました。しかしながら、その頻度も量も減少傾向にあります。放射性セシウムの検出率は、平成23年度が8.3%と最も高く、それ以降は年々減少傾向、平成26年からは0.1%と低い状態を維持しています。Babyscanによる検査で放射性セシウムが検出される方はいません。今回検出した3名はそれぞれ7.2, 5.4, 5.4 Bq/kg、1年間に被ばくする放射線量に換算すると0.01mSv程度になります。
この0.01mSvというのは、皆さんが毎年受ける健康診断の際に撮影する「胸部レントゲン検査」で浴びる放射線量の約1/6程度であり、健康に影響を考えるレベルにはありません。検出した3名の食生活も、いわゆる汚染しやすい露地の「キノコ」や「山菜」などを未検査で継続的に食べ続けていたことが問診からも確認されています。検査を受ける方によっては、あえて未検査の「キノコ」を、内部被ばく検査を受けにくる1週間前から食べ続け、当日検査を受けた結果、自分の体内から放射性セシウムが検出されるのを確認する方もいらっしゃいました。
【県民の放射線への関心】
「福島県」に対する、県外の方々のイメージは「今も福島県民は放射能汚染で不安な日々を送っている」といったものかもしれません。実態は全く逆です。放射線に対する関心は急速に減退しています。内部被ばく検査への受診者数は年々減少し、検査を開始した平成23年度は14,111名、平成24年度が21,089名と最も多かったのに対し、その後、平成25年度は6,035名、平成26年度3,582名、平成27年度1,584名でした。年を重ねるごとに受診者の数は減少しています。
検査を開始した年は、電話受付担当者は最大7名でしたが、現在では専門のスタッフ1名で十分に対応できます。電話内容も初年度は、「私の方が早く電話したのに、後から電話した人が早く検査できるのはどういうことか」「そちらではいつまで検査を待たせるんですか。その間に体に影響がでたら責任取れるんですか」など、検査を受けることに対する怒り、健康被害への不安なども多く含まれていましたが、現在はそのようなことはまずありません。
検査室内では、当時は神妙な面持ちで検査を受ける方が少なくなく、子どもの結果が心配で保護者が検査室内まで入り、検査状況やパソコンの画面をじっと見つめるということありました。年を重ねるにつれ、徐々に笑顔が見られ、現在では談笑しながら検査を受ける方もおられます。検査室に入る保護者も少なくなりました。
また、当時は多くが検査結果の説明を希望し、内部被ばくや外部被ばくの健康被害について、説明に一人あたり最低でも30分はかかるという状況でしたが、最近では「セシウムは出ないでしょ。」と、検査結果の説明を希望される方はほとんどおらず、聞いても5〜10分程度で終わるようになっています。県外と同様、よくも悪くも、福島県民の「放射線への関心」は薄れているのです。
【食品アンケート結果】
食品アンケートの結果では、福島県内産を忌避する方がまだまだいらっしゃる一方、場所によってはその頻度がかなり異なることも分かってきています。平成25年2月から6月のFastscan受診者のうち、主に郡山市やいわき市などを含む福島県内在住の方では「福島県内産を避ける」方が全体の約5〜6割でした。
一方、平成26年7月から平成27年11月までの主に福島県三春町の住民を含む福島県内の受診者では、「福島県内産を避ける」のは2〜3割、「スーパーで購入するが、産地にこだわらない」と回答される方が全体の5〜6割を占めるという結果でした。三春町を主に含む群と含まない群では、福島県内産の食品を「避ける」「避けない」の結果が正反対となり、福島県内でも、地域によって結果が異なることがわかりました。
郡山市やいわき市などの都市部に比べ、三春町のある田村郡では専業・兼業農家の方が多く、自宅で作った米や野菜を食べる機会が多いことも関連していると考えています。逆に少数ではありますが、「自宅で米を作っているが、作った米は全て売り、そのお金で県外産のお米を買って食べている」という方々もおりました。
Babyscanの受診者では、「スーパーで購入するが、福島県産は選ばない」と回答された方がFastscanの受診者よりやや多い傾向でした。大人が食べる物より子ども達の食事に気をつけ、より安全と思える福島県産以外の食品を選んでいるという結果です。実際に、自宅で米を作っても、「スーパーで福島県内産以外の米を買い、子ども達だけは別に炊いて食べさせています。」や、「祖父母が作った野菜を自分達は食べるが、子どもには心配だから食べさせないし、食べさせたくない。だから夫の実家にはあまり行きたくない。」などのお話を伺ったこともあります。
茨城県大子町を対象に行ったアンケート結果では、「産地にこだわらない」と回答した方が全体の約半分以上を占める一方、「福島県産を選ばない」と回答される方が2割程度おられました。県外にも情報を伝える努力がもっと必要なのだと思います。もちろん、流通している食材について県内、県外産問わず内部被ばく検査の結果に差はありません。
今回の結果から、当院に内部被ばく検査を受けにこられた多くの方から放射性セシウムは検出されないこと、そして放射線への関心は減少傾向にあると考えられます。一方で検出される方が少なからずいること、食品に対して非常にシビアに考えていらっしゃる方がいることも忘れてはなりません。私達は日々検査を行い、その結果を科学的な事実として説明し、受診された個人個人が今後生きていく中での良い判断材料になればと考えています。
1) 医療法人誠励会 ひらた中央病院
2) 公益財団震災復興支援放射能対策研究所
(ひらた放射能検査センター)
(2016年4月14日「MRIC by 医療ガバナンス学会」より転載)