過去2回にわたって最近注目を集めている瞑想に関する研究をご紹介してきました。
今回は少し趣向を変えて、睡眠をテーマにしてみようと思います。
突然ですが、昨晩の睡眠時間は、昨日の疲れがしっかり取れるくらいに十分でしたか?
この質問に「はい!」とはっきりお答えになれる方は意外と少ないのではないでしょうか。
毎日忙しいでしょうし、今よりも長く睡眠時間をとることはなかなか大変だと思います。
それならばせめて、睡眠の時間ではなく、質だけでも改善してみませんか?
今日はある遺伝子研究が明らかにした睡眠の質を上げる方法をご紹介します。
結論から言ってしまうと睡眠の質の向上のカギは、なんと、朝一番の行動、朝食にあるんです。睡眠と朝食との間には「体内時計」という仕組みが介在する、密接な関係があることがわかってきました。
みなさんも体内時計という言葉は聞いたことがあると思います。
でも、私たちの体には2種類の体内時計があるということはご存知でしたか?
1つは「主時計」と呼ばれる、私たちが一般的に想像する体内時計。
もう1つは、 (ぐぅ~っ) そう、腹時計!
冗談を言っているわけではないんです。(笑)
正式には「末梢時計」と呼ばれます。
「主時計」は身体のリズムを作る司令塔となる時計で、【光】によって調節されます。
毎朝、朝日を浴びることで一日のはじまりを正しく認識し、体内の時間を調整します。
一方、「末梢時計」は身体の各組織がもつ時計で、主時計からの指示は受けつつも、【食事】による刺激で独自に調節されます。そのため、「末梢時計」は【食事】のリズムに左右されながら、独自に一日のリズムを作り出してしまいます。
つまり、【光】と【食事】という2種類の刺激が同じリズムを刻まなければ、「主時計」と「末梢時計」という2つの体内時計は簡単に異なるリズムを刻んでしまうということです。
2つの体内時計が狂ってしまうと、私たちの体は混乱してしまい、しっかりとした睡眠リズムを作ることができなくなるので、睡眠の質が低くなってしまうということです。
現代社会を生きる私たちは、非常に明るいオフィスやコンビニの光を夜遅くまで浴び続け、深夜まで飲食を続けてしまいます。こんな不規則な【光】と【食事】の刺激を受け続けていれば、当然2種類の体内時計は完全に混乱してしまい、睡眠リズムはもうぼろぼろです。
これが現代人の睡眠の質が低くなってしまう最も大きな要因です。
では、どうすれば狂ってしまった2つの体内時計を同調させて、睡眠の質を高められるのでしょうか? そこで出てくる救世主こそが、さきほどの【朝食】なのです。
まず、朝起きると「主時計」が【光】の刺激を受けて一日の始まりを認識します。
そして、このときに合わせて朝食を食べることで、【食事】のリズムによって調節される「末梢時計」にも一日の始まりを正しく認識させることができます。
このようにして【光】に左右される「主時計」と【食事】に左右される「末梢時計」の調整を同時に行い、2つの時計が刻むリズムを合わせることができるのです。
このような朝食による体内時計の調節は、飛行機に乗った時の「時差ボケ」の修正にも応用することが出来るそうです。
毎朝一日の始まりに2つの体内時計を調整して同調させることで、体内のリズムが整い、しっかりとした睡眠リズムを作り出すことができるのです。
睡眠の質に朝食が深く関わっているということは理解していただけたでしょうか。
それでは、「朝食」にはいったいどのようなものを食べたらよいのでしょう?
次回は「朝食」の摂り方のポイントについてお話したいと思います。
Mendoza J: Circadian clocks: setting time by food: J Neuroendocrinol 19(2): 127-137, 2007
Kathryn Moynihan Ramsey, et al. The Clockwork of Metabolism: Annu Rev. Nutr 27: 219-240, 2007.
Kuroda H, et al: Meal frequency patterns determine the phase of mouse perioheral clocks: Sci Rep 2:711, 2012.
女子栄養大学出版部『時間栄養学』香川靖雄