少し前のことになるが、先輩から「マッサージ屋さんは、どうやってお客さんを獲得しているのか」という話を聞いた。
結論からいうと、その秘訣は、「奥さん」にあるらしい。つまり、主婦らしきお客さんに対して、特に念入りにサービスを行うと、「いや~、本当に気持ちよかったわー。これはぜひ、私の家族にも受けてもらわなきゃ!」ということになって、次々とその奥さんのご家族がマッサージ屋さんに送り込まれるのだという。
「それは面白い!奥さんに影響を与えると、家族全体に波及していくのか!なんか色々応用できるかも!」と盛り上がっていると、いつも大人しい後輩が、ボソッとつぶやいた。
「・・・お恥ずかしい話ですが、僕の母親は、まさにその極端な例かもしれません」
「どういうこと?!」
「たとえば母が歯医者に行くと、お医者さんに向かって、"私をちゃんと治療してくれたら、患者さん100人紹介するから、しっかり診てね!!"というようなことを、平気で言うんです・・・」
「それは、なんていうか・・・すごいな(笑)」
――といつもこんな感じで、私たちは仕事の合間に盛り上がっている。
「一体、何をしているんですか?!」と思われる方も多いと思うが、これは私たちなりの頭の体操なのである。
「半径3メートルの人類学」と勝手に命名しているのだが、身近で見聞きした面白いコトについて考察を深めていくことで、人間の深い理解に至るのではないか、と試行錯誤している。
継続は力なりというが、これまでにも様々な身近な事例を取り上げ、その現象を一般化していくことで、「人間って、実はこういう生き物なんじゃないのか?」という面白い仮説がいくつもうまれてきた。それらについては、いずれご紹介できればと思うのだが、そもそもこんなことをやることになったのは、友人の生物学者S君から聞いた話がきっかけである。
S君曰く、「人類が何かを理解する方法って、実はデカルトの"方法序説"以来、400年間変わってない」のだそうだ。簡単に言うと、
1.問いを立てる
2.例をあげる
3.一般化する
という3つのステップを踏んではじめて、人はものごとを"理解した"と言えるそうである。
私自身は、恥ずかしながら方法序説を読んだことはないし、そもそもS君にこの話を聞いたときはだいぶ酔っぱらっていたので、本当に上記の3ステップであったのか、もはや記憶が定かでないのだが(笑)、とても印象深かったので始めてみたのがきっかけである。
たとえば、冒頭の「マッサージ屋さん」であるが、そもそも何でそんな話を始めたかというと、「社会の中で口コミはどのように広がっていくのか?」という問いを立てた後輩がきっかけだった。さっそく面白がった私たちは、一例としてマッサージ屋さんの例をあげたり、あるいは他の事例を出したりする中で、段々と「口コミの広がり」に関する一般的な仮説が出来上がっていくことになった。
もちろん、それはあくまで素人が、「半径3メートル」で起きた出来事から類推したことにすぎない。そこで解答をチェックするという意味で、私たちは最新の研究成果にアクセスし、論文をざっと読み漁ることで、「口コミは、どのように広がるのか?!」という問いに対する一般解を得ることになった(余談だが、「世論を作る10%の人たち」という記事は、今回のマッサージ屋さんの事例を突き詰めていった結果うまれた一般解である)。
・・・といった具合に、「半径3メートルの人類学」をやって私たちは頭の体操をしているのだが、私たちの身近な現象から類推した仮説が、アカデミアの最新知見と一致したりすることもあるので、その時の私たちの興奮は、筆舌につくしがたいものがある(笑)
もしご興味がある方がいれば、ぜひご一報を!!