不思議なポケットとセレンディピティ

「キミねー、こんなカフェなんてやっていも、儲かりゃしないでしょ。そりゃそうだ。いくら頑張ってやったもだな、珈琲だけでは儲かるはずがない。いーかい。世の中というのはね、そのなんていうかなぁ、カラクリ。それを活用したヒトだけが成功するんだ。それをオイドンが教えてやろう」

「キミねー、こんなカフェなんてやっていも、儲かりゃしないでしょ。そりゃそうだ。いくら頑張ってやったもだな、珈琲だけでは儲かるはずがない。いーかい。世の中というのはね、そのなんていうかなぁ、カラクリ。それを活用したヒトだけが成功するんだ。それをオイドンが教えてやろう」

先週の木曜日、雨の降る静かな店内で、ボクは突然、西郷隆盛にこう言われました。マメヒコというボクが始めたカフェを開店当初からよく知る彼は、西郷隆盛に似た風貌の豪快な実業家で、いつもボクに指南してくれます。

 以下、彼の指南。

「コノ仕組ハ、複雑デ説明ハ、マコトニ難シイ。ダガ、マズハ安心シテモライタイ。信頼デキル特別ナ筋ニ、キミノ用意スル1千万円ヲ運用シテモラウ。スルトダナ、ナント1年後ニハ2千万円、2年後ニハ3千万円トナル、ソウイウワケダ」

ボクは、この話しを聞きながら、ずっと不思議なポケットという子供の頃の歌を口を閉じて歌ってました。

もひとつ たたくと ビスケットは みっつ

たたいて みるたび ビスケットは ふえる

こ~んな不思議なポケットがほしい

こ~んな不思議なポケットがほしい

「君ねぇ、疑うのは勝手だけどね、ワシはキミを応援しとるんだよ。キミは若いからなにも知らんだろうが、世間というのはキレイ事だけではできていないんだ」。

世間というものは、汚いものときれいなものが、それはミックスサラダのような形で存在している。商売をやっていれば、そのミックスサラダの中から、グリーンオリーブやケッパーが嫌いと避け、ゆで卵やトマトだけ食べるようなことはできない、そういうことですね、とボクは言いました。隆盛は「そうだ」と短く言いました。そして「サラダはグリーンオリーブと食べてこそ美味しさが増します、わかります」とボクは付け加えておきました。「まったく、そのとおりだ」と彼は言いました。

とにかく月末までに1千万円を用意するんだ、とボクに何度も念を押し、犬と上野に帰って行きました(それは嘘)。

ボクは20代の後半、ニューヨークで働いていた経験があります。

若ハゲの先輩から、ニューヨークにある関連会社で働いてみないか?と誘われ、ボクは二つ返事で行きたいと言いました。行ってみると、その会社は程なくして自然消滅、その後はハチャメチャワンダーランドで、英語もろくに喋れないボクがマンハッタンで食いつなぐそのストーリーは、必聴です。(長いとハフィントンポストに叱られるので今回は割愛します。)

あとから聞いてみると、声をかけられたヒトたちはみんな断ったらしく、ボクだけが手を上げたみたいでした。

帰国した30代の前半。今度は目が怖い山猫に似た先輩から、会社を興してみないか?と持ちかけられました。そのときもボクは二つ返事でやりますと言いました。始めてみたら、案の定、思い描いていたものとは大きく違いました。

そして30代半ば。小さなカフェを始め、今日この日にいたる道筋もまた、到底ブログでは書ききれません。

自分でよくよく考えて決めたことなんかではなく、たまたま起こってしまったこと。

それが本当に大事なことなのだ。

よくよく考えてやったことは、自分が思っているほど大事なものではない。

ボクは常日頃、こう考えて生きています。

ワタシはこうして成功したというホニャララ談やゴニョゴニョ論は、どれもなにか原因があって結果がこうなったとなっているけど、実のところそんなのわかりゃしない。

中学1年生のある春の日を思い出します。その日、ボクは放課後の図書室でその本と出会った。たまたま、ほんとうにたまたま。ボクはその本を手に取り、パラパラっと指でページをめくりました。ほんとうに、それだけのことなんだけど、その本はボクにこう語りかけてくれました。

「君は君の欠点を気にすることない。そのまま好きに生きたらいい。君みたいなオッチョコチョイは、散々苦労するだろうけど、それがいい。そうして世間の当たり前を疑いながら生きていきなさい」と。

あの図書館の光景を思い出すと、いまでも胸がキュッとなります。桃色のカーテン、ザラリとした頁をめくる指先の触り、光線が差し込む本棚、そして長い影。

外山滋比古先生が書かれたその本の中に「セレンディピティ」という言葉がありました。本当に大事なことは偶然起こる、それはセレンディピティ。しかし、それはけして偶然ではない。

(たしか、そんなようなことが書いてあったと思います。あれからその本を読んでいないからわからないけど)

まもなく東京の桜は満開を迎えます。みなさんも、お花見に出かけてくださいね。あなたのセレンディピティがみつかるかもしれません。

ただし、くれぐれも不思議なポケットを歌いながら探してはいけませんよ。

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お知らせ

4月4日(金)の20:00からと4月5日(土)の17:30から、

カフエ マメヒコ宇田川町店で、「カフエ式雑誌の作り方」として、

マメヒコで作っている雑誌、エムヒコについてボクが話しをします。

参加希望の方はinfo@mamehico.comまで。

そろそろいっぱいですよ。

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