「理系女子」は差別表現か?

論文に関する疑義については自分の専門とかけ離れているので言及するつもりはない。週刊誌で話題になっている小保方晴子さんや理化学研究所に関する下世話な話題も興味はない。今回論じておこうと思うのは、理系女子という表現が許されるのかどうかだ。

3月14日、理化学研究所が記者会見を行った。STAP胞に関する論文に間違いや意図的なねつ造があるのではないかという指摘に対するものだ。

論文に関する疑義については自分の専門とかけ離れているので言及するつもりはない。週刊誌で話題になっている小保方晴子さんや理化学研究所に関する下世話な話題も興味はない。今回論じておこうと思うのは、理系女子という表現が許されるのかどうかだ。

自分はブログの記事を多数のメディアに配信するほか、商業メディアで執筆をしたり、ウェブメディアの編集長として書き手に指導する立場でもある。添削・指導の段階で問題のある表現を指摘して修正させる事もある。このような表現に関する問題は自分の業務にも直接かかわる話だ。

■「理系女子」が大手メディアでも使われる理由。

理系女子という表現については研究内容が発表された当初から一部で問題視されていた。偉業を成し遂げた女性を理系女子と呼ぶのは失礼ではないか、と。

まずは理系女子という言葉をマスコミが現在どのように扱っているか確認してみると、新聞・雑誌・TV・ウェブメディアと大手メディアで一切の制限なく使われている事が分かる。つい先日も地上波のニュース番組でキャスターが使っていた。

マスコミは表現について自主規制を行っている。放送禁止用語についてはかなり厳しく制限され、間違って生放送でゲストがうっかり喋ってしまうと司会者はすぐに謝罪をする。

では理系女子が放送禁止用語にならないのはなぜか。まず理系と女子という言葉自体に問題が無い事が挙げられる。NHK・Eテレで放送されている「Good Job!会社の星」という番組は毎回働く若者を取り上げているが、女子という言葉が大好きなようで、回ごとのタイトルに「海系女子」「試作系女子」「ガテン系女子」「働き女子」など繰り返し使っている。

■「理系男子」の存在。

この問題で更に重要な点として「理系男子」という言葉の存在もある。新聞記者のバイブルと言われる「記者ハンドブック」でも、女性差別に関する項目では「対になる言葉が無い場合は使うべきではない」と説明されている。逆に言えば対になる言葉があれば差別的と言えない可能性が高い、という事だ。

放送禁止用語までいかないケースでは、TVで外人という発言があっても字幕では外国人と表示される。外人という言葉は現在グレーゾーンの表現なのだろう。アナウンサーや司会者レベルではすでに使われていないはずだ。

では理系女子はどうかというと、放送禁止用語にはなっていないし、「理系の女性」と字幕で言い換えられる事もない。そして放送禁止用語であってもこれはあくまで各種メディアの自主規制であって、法律でメディアが使ってはいけない言葉として規定されているわけでもない。

メディアの判断が必ずしも正しいわけではないが、表現のプロである各種メディアが現状ではこのような判断をしている事は大前提として押さえておくべきだ。

■理系女子は「不快表現」だ。

では放送禁止用語として指定された言葉以外なら何を使ってもいいのかというと、決してそうではない。記者ハンドブックでも特定の単語を使わなければ良いわけではなく、使われた側が不快に思うかどうかが重要、と説明されている。

何ら問題のない単語であっても、組み合わせ方によって極めて不快になる場合もある。放送禁止用語も、あくまで視聴者が不快に思うから使わないことにしよう、と決まったものだ。

どんなメディアであっても他人の権利侵害は許されないし、表現の自由は他人の権利を犯さない範囲でしか認められない。また、理系女子という表現を不快に感じる人がいることは間違いないし、不快に感じる事をおかしいなどと言うつもりも一切無い。

■「女子」という言葉の意味。

言葉は時代によって使われ方が大きく変わる。現在では女子会や女子力など、大人の女性を差す場合であっても女子と呼ぶことは珍しくない。おそらく10年前であれば、女子=子供という意味で使われていただろう。多少広くとっても女子と呼べる上限はせいぜい大学生くらいだったと思われる。

今回の問題も、理系の大学に通う学生を理系女子と呼んでいるのなら、さほど問題視されなかったに違いない。

ただし、現在女子といった場合、従来よりもかなり上限が上がっている。例えば女子会であれば20代の社会人が参加しても違和感はないだろうし、30代でも個人的には特に違和感はない。つまり現在理系女子という言葉は「理系の若い女性」くらいの意味でしかないという事だ(このように書くと若いとは何歳までを指すのか?という質問が飛んで来そうだが)。

「男子」についても、料理男子とか弁当男子という言葉がある。50代の男性に使ったら不自然だろうが、20代・30代なら特に違和感はない。自分は料理が趣味なので料理男子と言われる事がある。もう男子という年齢じゃないんだけど、と苦笑いしてしまうが不快感を感じることもない。なぜなら男子や女子という言葉が、今までよりかなり広い意味で使われ始めていると認識しているからだ。つまり現在は過渡期と言えるのではないか。

■サイエンス・ガールはクレイジー?

大人の女性に理系女子なんて使うのは日本だけだからおかしい、という海外との比較も意味がない。「こんな事をやるのは日本人だけだから辞めるべきだ」と言い始めたら、日本独自の習慣が全て無くなってしまうので、何かを止めるべき根拠にはならない。そもそも万国共通・人類普遍の価値観がそうそう沢山あるとは思えない。特に表現に関する問題はその国特有の文化的背景を抜きに語ることはほとんど意味が無い。

以前執筆した「小保方さんと羽生結弦さんと佐村河内守氏の共通点に気がつかない人がヤバイ件について」では、マスコミはそういう表現をした方が売れるから使っているだけ、問題は理系女子とか割烹着とか現代のベートーベンという言葉に強く反応する読者の側であってマスコミはそのレベルにあわせて商品を提供しているだけだ、と説明した。

この記事には海外では実績を出した研究者を「女子」なんて言わない、海外の友人は皆呆れている、と予想通りの批判コメントをもらった(理系女子は英語だとサイエンス・ガールとでも訳すのだろうか?)。ただ、その友人にこのように説明すれば納得するのではないだろうか。

「日本でいう女子は子供ではなく若い女性くらいのかなり広い意味で使われ始めている。30代の女性同士の飲み会を女子会(ガールズ・パーティ?)と呼ぶこともある。若い男性を男子と呼ぶことも珍しくない。奇妙に感じるかもしれないが、国や時代によって言葉の使われ方が変わることくらい、日本人じゃないユーだって理解できるだろう?」

■「料理男子」は差別表現か?

実際には先ほど例に挙げた弁当男子や料理男子という言葉の方がよっぽど差別的と言われかねないニュアンスを含んでいる。弁当女子や料理女子という対になる言葉は全く使われていない事や、料理は女性がやるもの、という女性蔑視につながりかねない価値観が根っこにあると取られかねないからだ。

しかし、料理男子や弁当男子は好意的に使われることの方が多い。なぜならこれらの言葉の意味は料理をする若い男性、お弁当を作る若い男性、くらいの意味でしかないからだ。そこには性差を強調するような意味合いはほとんどない。「あの人は料理男子だ」と「あの人は料理が趣味の男性だ」の間にはほとんど違いはない。

このように、理系女子や料理男子という表現が大人の男女に使われる状況を、お国柄や時代による変化と考えるか、そのお国柄や時代の変化も含めて性差別に関して鈍感な駄目なモノと考えるか、結局人それぞれで正解は無いとしか言いようがない。

理系女子と聞いて不快になる人がいるのは確かだろう。しかし、不快に思う人が少しでもいると使ってはいけないのであれば、メディアを運営できないほど多くの表現が使用禁止になってしまう。

ニュース番組で司会者が「バカヤロー!」と言えば大問題になりそうだが、アニメやドラマの登場人物が言えば問題にならない。言葉の意味は使われ方によっても大きく異なる。かといってフィクションなら何をやっても良いわけではないのもまた当然の話だ(つい最近もTVドラマ「明日、ママがいない」が大きな問題になったばかりだ)。

このように、不快表現の境目はあいまいな部分もかなり多く、結局はどこで線を引くのか?という問題でしかない。不快表現=差別表現ではないし、不快表現=放送禁止用語でもない。

■働き方に関する深刻な女性差別の方が問題だ。

自分は過去に「日本の不景気は女性差別が原因だ」という記事を5回も書いている。それくらい女性差別は下らないと思っているし、クオータ制で企業の管理職や政治家など責任ある地位に強制的に一定数の割合の女性を配置すべきだと考えている。女性だからといって昇進や採用で差別されるのは国を問わずおかしいと思うし、現在の状態が男女間で平等な競争が行われた結果とは到底考えられないからだ。

例えば管理職は本来男女半々くらいになって良いはずが、実際には1:9となっている。これを「女性は昇進を望んでいない」とか「男女間の能力差が表れているだけだ」など、自然な結果だと思う人は統計を入門書から勉強し直した方が良い。誤差の範囲と言える水準を大きく超えているからだ。「ヤバい経済学」的に考えれば、実態を詳細に調べるまでもなくこの数字自体が「八百長」の証拠だ。

今回の「理系女子騒動」を見ていて思う事は、女性差別の話をするのなら、こういった女性の管理職が極端に少ないとか、出産・育児で女性の半数が退職してしまうM字カーブの問題とか、そちらの方が重要な問題なのでは?という事だ。

メディア関連については以下の記事も参考にされたい。

■フィギュアスケートの羽生結弦さんも理系女子の小保方さんも「現代のベートーベン」も、みんな同じだ。

■小保方さんと羽生結弦さんと佐村河内守氏の共通点に気がつかない人がヤバイ件について。

■ウクライナで米露衝突?と言われる中、佐村河内守氏の記者会見で大騒ぎしてる日本が平和過ぎて頭痛が痛い。

■女性差別で経済成長は可能か?

■就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。

■日本の不景気は女性差別が原因だ

今回書いた考え方が正解だというつもりは全くないが、「理系女子」に違和感がある人、「理系女子に違和感がある人」に違和感のある人、双方とも参考にしてもらえればと思う。

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