「基本的に米政府の決定であり、わが国の対ユネスコ政策に影響を及ぼすことはない。米国は引き続きオブザーバーとしてユネスコとの関係を存続していくとしており、ユネスコにおける米側との協力を継続してまいりたい」
脱退する米国とユネスコ内で協力していきたいということは、脱退を支持するとも受け取れない発言である。国連での発言力強化のために多大なお金を費やしている日本が、国連の正統性自体を歪めかねない米国のこの行為に対し、なぜ反対の立場を示すことができないのか。2013年、米国は安倍首相の靖国神社参拝に対し「失望した」と表明。以降、首相は参拝を控え、その話題自体がメディアから消え去った。日米同盟を強化することは賛成だが、対等な関係が前提で進められるべきなのに、肝心なところで米国に対して何も言えなくなるところが情けない。
イギリスがEUから離脱し、米国は国連の気候変動枠組み条約から離脱し、国連の主要機関であるユネスコからも脱退を表明。これまで培われてきた国際的枠組みが形骸化していくなか、日本は必至に安保理の常任理事国入りを目指し、国連内での邦人職員を増やし、昇進させようと躍起になっている。
そのために力を入れている事業の一つがJPO制度というもので、毎年日本人の若者を数十名選抜し、2-3年間、国連機関に派遣する事業だ。派遣期間の人件費は日本政府が出し、その後、派遣された人たちが国連機関内で出世していくこと目指している。年間20億円の予算が組まれ、ここ5年で倍に膨らんでいる。
私は2013年度に選抜され、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のジュネーブ本部へ2年間派遣された。派遣前の東京での研修では、他の30名の派遣者を前に、外務省の人から「もし派遣後、国連に残れない方には、派遣費用を返してもらうべきだと言う国会議員さんもいる」と強くプレッシャーをかけられ、元国連幹部の日本人の方からは「皆さんの中から国連機関のトップになる人が出てほしい」と言われた。在ジュネーブ国際機関日本政府代表部で国連の邦人職員が集まることが時々あり、ある会合では、代表部の伊原純一大使(元外務省アジア太平洋局長)が「湾岸戦争の時、日本は多額の寄付を出したのですが、クウェートが出した感謝対象の国リストに日本が含まれませんでした。金だけでなく人的な貢献がなければいけないのだと思いました。だから国連で働く日本人の皆さんには頑張っていただきたい」と激励を受けた。
国連への拠出金額では世界でもトップクラスで、これだけ人材派遣に力を入れているにも関わらず、国連全体で邦人職員が占める割合は3パーセント程度。私が派遣されたUNHCRは緒方貞子さんがトップを務められたことで知られるが、生え抜きの邦人職員が局長クラスまで上がった例は2015年まで皆無だった。
2015年、当時の潘基文事務総長が中国の「抗日戦争勝利70周年記念式典」に出席した際、日本政府は国連は政治的中立を維持すべきだと非難した。しかし、国連が中立なんてことはありえない。特定の幹部ポストは特定の国籍の人しかならないし、そのほとんどがアメリカ人だ。UNHCRもナンバー2は必ずアメリカ人がなる。派遣前研修では、ある講師が、緒方貞子さんがUNHCRのトップを退く際、日本政府内ではそのポストを日本人専用ポストにしようという動きがあったという。しかし、それも実らなかった。だから、日本だって国連を政治的に利用しようとしているし、だからこそ、国連での職員数を増やし、発言力を高めたいと思っている。特に、近年国連での中国の影響力が強まっているのならなおさらである。
これだけ国連、国連言っているのに、拠出金トップの同盟国による主要機関からの脱退を支持するとも受け取れるコメントを出すのは意味がわからない。今後、日本政府が国連に「邦人職員を昇進させてくれ」と言っても、「いや、あなたたち、米国のユネスコ脱退を支持したじゃないですか」と言われたら、何と答えるのだろう。
国連で邦人職員が増えないのも、米国と対等なパートナーになれないのも、結局、日本の外交がぶれまくっているのが一番の原因なのかもしれない。これでは北朝鮮に「国連決議を尊重しろ」と言っても空砲になるのも仕方ない気がした。