産後から育児に携わる男は「偽イクメン」だ!

「育児」は子どもが生まれてからでないとできないのだろうか?

先日、ネットで「イクメンスピーチ甲子園2016」というコンテストを見つけた。私は、ヨルダンで働く国連職員の妻に主夫として寄り添い、来月には第一子が生まれる予定だ。

女性が当然のこととしてやっている育児・家事をやって「イクメン」と威張る男性があまり好きじゃないが、コンテスト主催者の「男性がもっと積極的に育児に関わることが出来る一大ムーブメントを巻き起こす」という目的には賛同できる。コンテストでは、育児休暇取得体験がある男性会社経営者、研究者、官僚やNPO関係者が推進メンバーとなって、男性の育児体験エピソードを募集していた。

しかし、応募用紙を見て唖然とした。

応募者は、「お子様」という欄に、性別ごとに、それぞれ何人の子どもがいるかを示さなければならなかった。子どもが生まれていなければ応募資格がないようにも受け取れる。さらに「育児と仕事の両立に関するエピソードを800文字以内でご記入下さい」とある。

私は仕事はしていない専業主夫のため、「育児と仕事の両立」はしていない。妻の妊娠期間中に仕事を辞めた専業主夫は、主催者の「イクメン」の定義に当てはまらいようだ。

「イクメンとは、子育てを楽しみ、自分自身も成長する男性のこと」とサイトには定義されている。

それなら、なぜコンテスト主催者が「仕事と育児の両立」にこだわるのかが理解できない。私は夫婦どちらか片方の給料で経済的に困らないのなら、もう片方が育児に専念することは、子どもにとっても、親にとってもいいことだと思う。

数週間前、私はオーストリアの国連機関から仕事のオファーがあったが、妻の給料の方がいいし、この大切な時期に離れ離れにはなりたくないので、丁重に断らせてもらった。

次に、「育児」は子どもが生まれてからでないとできないのだろうか?

私は、妻のお腹の中にいる子の「育児」を心から楽しんでいる。今年3月まで夫婦揃ってジュネーブで国連職員だったが、妻のヨルダン赴任が決まり、妊娠初期の妻に1人でヨルダンへの引越しをさせるなんて考えられず、私は国連を去った。

ヨルダンでは料理、掃除、車で妻の送迎、妻のマッサージ、産婦人科の検診の同席、育児講座参加など、様々な「育児」に勤しんでる。

妊娠中の妻と一緒にいる時間というのは「親」としての自覚が芽生える、大事な「育児期間」だ。

しかし、日本ではその意識があまりにも低く、里帰り出産する妊婦が全体の半分といわれ、この大事な期間を親子3人で過ごせない人が多い。お腹の中にいる時から、子どもの成長は始まっており、子どもは親の声も聞こえるし、親の感情を体全体で受け取って人格を形成していく。

妊娠した妻に美味しい料理を作ることは、子どもに作ってあげるのと同じことなのだ。

妊娠期間は夫婦関係がより強固になる絶好のチャンスでもある。妊娠初期、妻はつわりがひどく、毎晩吐き、食欲がない日もあった。朝、「今晩何食べたい?」と聞いても、「その時になるまでわからない」と、献立作りも大変だった。妊娠初期は、流産の可能性が特に高いため、妻に極力ストレスを与えないよう、最善の努力をした。

ある日、妻が鍵を忘れて出勤し、帰宅時に、私がイヤホンで音楽を聴いていたため、インターホンの音が聞こえず、妻が30分、ドアの前で叫び続けなければならなかった。妊娠で情緒不安になりやすい妻は「なんで開けないの!」と怒り、妊娠前なら、「鍵を忘れたお前が悪い!」と言っていただろうが、「ああ。大変だったね。音楽を聴いていたんだ。悪かったね」と喧嘩回避を最優先にしている自分がいた。

銀行などで長い列に並ぶ時は、「私が並ぶから座っていていいよ」と言う。体が大きくなって容姿が変化することに不安を抱え始めた時「以前と変わらず綺麗だよ」と抱きしめてあげる。何気ない一つ一つの愛情表現に、妻は妊娠前には見せたことのないような、ほころんだ表情を見せてくれる。

子ども服などの育児グッズの買い物を一緒にやったり、初出産への恐怖を共有し、出産方法を一緒に考えるだけでも、妻のストレスは相当減るようで、これによって産後うつなどのリスクもかなり減ると思われる。

生まれてくる子どもにとって、父親が育児家事に携わっていることも重要かもしれないが、夫婦関係が良いことや親が産後うつにならないことの方が何倍も重要である。私は、幼いころの親の怒鳴り合いの喧嘩を今でも鮮烈に覚えているし、逆に、親から「週末は2人で美術館巡りをしたのよ」とメールが来ると、35歳になった今でも心が和む。

子どもがお腹の中に10ヶ月という長期間いるのは、「生まれるまでに仲をより良くしておいてね」という子どもからのメッセージだと思っている。

だから、イクメン推進者には、男性が育児家事に携わること自体を目的化するのではなく、それが円満な家庭を作るための有効な手段の一つとしてとらえてほしい。父親が数日間、育児休暇取得して、「他の男性と比べて俺イクメンだぜ!」と妻や子どもに対して傲慢になって、逆に夫婦喧嘩が絶えなければ、本末転倒になりかねない。

育児休暇取得宣言をして一躍有名になり、その後、不倫をしてさらに有名になった元国会議員の話は記憶に新しい。育児が産後から始まると思っている人は、今一度、生まれてくる子どもの目線に立って「育児」について考え直してほしい。

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