1945年に第二次世界大戦が終わってから、68年が経過しようとしている。
国際社会を一つのシステムとして考えてみると、世界システムは歴史上、世界帝国と世界経済の二つの類型が考えられる。世界帝国の例としては、近代以前の中国やエジプトや古代ローマがある。そこでは帝国全体を単一の政治システムがカバーしていた。これに対して、15世紀末にヨーロッパで誕生した世界経済は、世界帝国に転化することなく、多くの政治システムを内部にかかえながら、今日に至っている。
世界経済を構成する地域は、中核諸国家、半辺境地域、辺境地域の三つに分かれており、時代の変遷とともに中核国家が移り変わっていく。中核地域を構成する強国の中で、ある一国の経済力が圧倒的に強くなって、その国が生産する商品の競争力が他のすべての国に対して優勢になるような状態を、「覇権(hegemony)」と呼ぶ。
世界のトップに立った国に注目して、15世紀末以来の世界史を振り返ってみると、4つの特色が明らかになる。第一は、ほぼ100年の周期で覇権国が交代する、第二は、覇権国の支配に対して挑戦するナンバー2の国が必ず存在する、第三は、世界の覇権の交代が、約30年にわたる世界的規模での戦争によってもたらされる、第四は、国力の指標に海軍力を使うということである。
まず(1)1571~1608は、ポルトガルの時代であるが、スペインがポルトガルに対抗する。 次の(2)1609~1713はオランダの時代となる。しかし、このオランダの覇権も、17世紀後半になると、イギリスやフランスの挑戦にさらされ、スペイン継承戦争(1701~1713)の過程で、イギリスが次期覇権国としての地位を確立していく。(3)1714~1815は、まさにイギリスが世界をリードすることになり、7つの海を支配して世界の覇権を握ろうとする。それを制約しようという動きが、アメリカ独立革命であり、フランス革命であった。イギリスは、ナポレオンがヨーロッパを支配するのを阻止することに成功し、1815年のウィーン会議で新しい国際秩序が形成する。(4)1816~1945は、引き続きイギリスが世界を支配するPAX BRITANNICAの時代で、産業革命によって「世界の工場」と言われるまでに繁栄したイギリスは、その経済力を背景に、世界一の海軍を備え、世界中に植民地を拡大していく。20世紀の二次にわたる世界戦争は、ドイツがイギリスの支配に挑戦する形で勃発し、その結果、(5)第二次世界大戦後、アメリカが世界を支配するPAX AMERICANAの時代が到来した。このPAX AMERICANA は、軍事、経済、金融、文化・生活様式・価値観の4つの分野で、アメリカが圧倒的な力で世界をリードする体制である。
このような歴史を振り返った上で、これからの国際システムを、どのように構想すればよいのであろうか。
軍事的には、ロシア(旧ソ連)に代わって、中国がアメリカの覇権に対抗しようとしている。とくに、海軍力の向上には注目してよい。経済的にも、中国はGDPで日本を抜いて、世界第二位の地位に躍り出た。ブラジル、ロシア、インド、中国のいわゆるBRICSの台頭もめざましい。金融については、依然としてドルを基軸とする国際通貨システムである。文化の面では、今日の世界には多様な価値観が共存しているが、たとえば、環境問題への人々の関心は、資源を大量に浪費するアメリカ的消費生活への反省の表れである。
おそらくは、中国が、これから各分野でアメリカの挑戦者として浮上してくるだろう。しかし、金融面では人民元は国際化されるに至ってはおらず、価値観の点でも、自由な民主主義とは程遠い体制となっている。その点では、アメリカ、日本、EUが、先進民主主義国として共同で世界を管理する現在の状態がまだしばらくは続くとみたほうがよかろう。ただ、長期的展望としては、アメリカと中国による二大国体制への流れが始まったと考えてもよい。
かつては、Japan as number oneともてはやされた日本であるが、我が国には覇権国になる資格も能力もない。それでも、科学技術の面で先端的地位にとどまり続け、アジアを基盤とするグローバルパワーとして存在感を示していかねばならない。そのためにも、規制緩和などの改革を進め、積極的に国際社会のルール作りに参画していく必要がある。安倍政権の成長戦略の成否は、その点の認識が基礎にあるかどうかにかかっている。