2015年1月、南アフリカ共和国政府は、同国内で2014年の1年間に密猟されたサイの数が、前年を21%上回る、1,215頭に上ったことを発表しました。この背景には、主にベトナムでのサイの角(犀角)の高い需要があるものと考えられます。南アフリカ共和国では違法取引や密猟の取り締まりを強化しており、犯罪行為の検挙も続いていますが、それだけでは不十分である現状が明らかとなりました。国家間の密輸の取り締まり強化を中心とする、国際的な支援が必要とされています。
「サイの国」南アフリカ共和国を襲う脅威
世界で最も多くのサイが生きる国、南アフリカ共和国。生息している2種のサイ、シロサイとクロサイを合わせたその数は、現在およそ2万頭といわれています。
しかし近年、この国では角を狙ったサイの密猟が激化し、その犠牲となるサイの数が増え続けています。
2007年に密猟されたサイは、南アフリカ共和国全体で13頭でしたが、2010年には122頭、2013年は1,004頭に増加。さらに、2014年の1年間では、1,215頭が犠牲になりました。
とりわけ激しい脅威にさらされているのは、同国内のサイの大半が生息するクルーガー国立公園で、密猟されたサイ1,215頭のうち、827頭がここで殺され、角を奪われました。
こうした問題の背景には、サイの角が高値で取引されているベトナムの需要があります。
サイの角の国際的な商業取引は、「ワシントン条約」によって現在、禁止されていますが、金よりも高い値がつくこともあるため、密輸が後を絶ちません。
そして、南アフリカ共和国で続いている大規模な密猟は、そうした利益を狙う国際的な犯罪集団により引き起こされ、密輸ルートに犀角を流していると考えられています。
求められる国際的な支援
密猟の被害が拡大する中、南アフリカ共和国では、取り締りも年々強化されてきました。
WWFインターナショナルで、野生生物の違法取引問題に取り組むエリザベス・マクレランも、保護区で働く勇敢なレンジャーたちが、サイを守るため可能な取り組みの全てを行なっていることに言及。
南アフリカ共和国政府も、2015年1月に行なった、2014年の密猟被害の報告に際して、レンジャーたちの献身的な働きにより、386件にのぼるサイの密猟や密輸に関連した犯罪が摘発されたことを発表しました。
しかし、それでも増加する密猟数は、もはや南アフリカ共和国国内で法律の執行を強化するだけでは、十分な対策にならないことを物語っています。
マクラレンは、この密猟の脅威にどう立ち向かうべきなのか、次のように述べています。
「サイの違法取引を止めることができるのは、国際的な協力だけです。その中には、南アフリカ共和国が、違法取引の取り締まりをさらに拡大させると共に、ベトナムが角を含めたサイの身体を使った製品の違法な使用を取り締まる施策を、緊急に講じることなどが含まれます」
これは、国境を越えて密猟と消費の現場をつないでいる犀角の密輸、すなわち違法取引を流通経路にある各国が協力して撲滅することで、需要と供給を抑え、犠牲になるサイを減らす取り組みです。
、国際社会はこうした違法取引を撲滅するための意志を明らかにしています。
2014年2月には、イギリスのロンドンに約40カ国の首脳と10の国際機関の代表が集い、「野生生物違法取引に関するロンドン会議」を開催し、世界の国々が協力して違法取引市場の撲滅を目指す「ロンドン宣言」がまとめられました。
また、この会議の結果を受けた各国による取り組みの進捗状況などについても、今後国際会議の場で報告、共有されることになっています。
マクラレンはこうした国際てきな交渉の場が、「世界のサイをはじめ、国際的な犯罪に巻き込まれ、絶滅の危機に追い込まれている野生生物を各国の政府が団結して守り、違法取引と闘うためのさらなる取り組みを進める場となるでしょう」と期待を述べています。
WWFも、世界的に高まりを見せる違法取引の撲滅に向けた機運のもとで、国際社会の支援がサイ保護の現場に届けられるよう、活動を続けてゆきます。