アフリカやアジアの各地で問題が深刻化している、野生生物の密猟。そしてそれを助長している違法取引(密輸)問題。その規模は、推定で年間190億ドル(約2兆円)に届くといわれ、麻薬(ドラッグ)や人身売買などと並ぶ、五大違法取引の一つにも数えられています。そうした中、2015年3月25日にアフリカのボツワナで、この密猟や違法取引の対策に関する国際会議が開かれました。会合には31カ国の政府代表が参加。問題の解決に向けた国際協力と緊急対策の必要性をあらためて確認する声明を発表しました。
「野生生物の違法取引に関するロンドン会議」を受けて
今回、アフリカ南部諸国の一つボツワナの町カサネで開催されたこの会議は、2014年2月にイギリスで開催された「野生生物の違法取引に関するロンドン会議」の後を受けて開かれたものです。
「ロンドン会議」では、ゾウ、サイ、トラといった象徴的な野生動物をはじめ、国家安全保障や、持続可能な開発までをも脅かしている、密猟や違法取引といった野生生物犯罪に対し、41の国とEUが、緊急かつ断固たる行動を取ることに合意しました。
こうした国際的な犯罪は、野生生物や自然環境に悪影響を及ぼすにとどまりません。そこで得られた資金は、他の違法なビジネスや、内戦や国際紛争といった深刻な社会問題を助長する一因にもなっているとみられています。
カサネでの会議では、この危機への対策強化の決意を新たにするとともに、31の国が「ロンドン会議」以降の各国の取り組みの進捗状況を報告し、今も急増する野生生物の違法取引に対抗するための、重要な施策を採択しました。
認められた「ロンドン会議」の成果
この1年間の主な成果として報告された内容としては、下記のような内容が含まれます。
- 特にアフリカ地域において、法的な取り締まり活動が強化されたことにより、象牙の押収件数が上昇したこと
- 複数の国々が、野生生物の保護に関する国内法の改善に着手していること
- 2015年2月に、トラが生息するアジアの13カ国が、密猟ゼロ政策の枠組みとツールキットの活用を約束したこと
これらはいずれも、世界各地で応用が可能な、密猟を抑制するための具体的な仕組みや取り組みとして、重要な意味を持つものです。
WWFインターナショナルの、野生生物保全プログラムのカルロス・ドリューは、報告された一連の内容と現状について、次のように語っています。
「ロンドン会議から1年、流れはゆっくりと野生生物犯罪者に不利な方向へと動いています。ですが、密猟のレベルは未だに極めて高く、さらなる対策が緊急に必要とされています。
重要な進展は確かに見られますが、各国政府が対策の拡大を今後も継続し、明確な結果につなげるために協調して取り組まなければ、違法な野生生物取引との闘いに勝つことはできないでしょう」
「資金の流れ」に焦点をあてた施策
カサネ会議の参加国は今回、野生生物の密猟や密輸といった犯罪をめぐる、マネーロンダリングと資金の流れに焦点を当てた多数の追加施策も採択しました。
そもそも、野生生物を犠牲にする犯罪が跡を絶たず、時には政府レベルの汚職にまでその根を広げている理由は、それが確実な権益につながるためです。
その反面、取締りのための法の執行活動が不足していたり、摘発されても罰則等が十分でなく、再発の防止が十分に出来ていない現状があります。
逆に考えるならば、犯罪に回る資金を抑え込むことできれば、それは効果的な対策の実現につながります。
資金の行方を突きとめることは、密売組織を打倒し、それと結びついて、法律の執行活動をしばしば弱体化させている、政府の汚職を一掃することにも貢献するでしょう。
カルロス・ドリューは次のように言います。 「野生生物の犯罪者は、長年、非常に小さなリスクで多大な利益を得てきました。ロンドンとカサネでの会議で、各国により合意された誓約は、密売人たちを劇的に追い詰めると同時に、報酬を減少させることによって、犯罪が横行している現状に変革をもたらすものとなるでしょう」
採択された「カサネ声明」
カサネ会議では、参加各国によるこうした一連の合意の意志をまとめた「カサネ声明」が採択されました。
これは、ロンドン宣言の誓約に基づいたもので、野生生物から作られた違法な製品の市場を、世界全体で根絶し、効果的な法的枠組みや野生生物犯罪に対する抑止力、法執行の強化、持続可能な生計の支援を目指すものです。
声明はまた、こうした取り組みに関連する地域社会の参加や、生息国の人々による持続可能な野生生物資源の利用とその利益を保持することの必要性も訴えています。
さらに参加国は、国際間の物流や輸送に関係した企業を含む、民間セクターとのさらなる連携についても合意しました。
この物流・輸送企業は、違法な野生生物取引の流れを阻止する上で、重要な役割を果たすことが可能な立場である一方、多くの場合、意図しないまま野生生物の違法取引の媒介役となっている例があります。
今後は国連総会でも、野生生物犯罪に対するより強力な決議の採択が求められますが、今回の「カサネ声明」は、その決議に重要な支持をもたらすものでもあります。
決議が実現すれば、それは野生生物をめぐる国際的な組織犯罪に対して求められている、世界の国々の取り組みと協力を促すものとなり、長期的に成功に導く上で、不可欠な要素となるでしょう。
日本も積極的な参加と協力を
日本政府も参加した今回のカサネ会議の開催に当たっては、WWFジャパンも徳川恒孝会長より、岸田文雄外務大臣に書簡を出し、政府として前向きな姿勢で臨むことを訴えました。
その内容は、主に以下の点を求めたものです。
- カサネ会議において、各国と協調し、野生生物の違法取引と闘う意思を示すこと
- そのための具体的な施策として、国連総会での決議採択を支持すること
- 同じく、2015年2月に南アフリカ共和国で開催された、野生生物の保護に対する、地域社会の参画・関与の重要性に関するシンポジウムで推奨された事項を支持すること
- 違法な野生生物製品の需要を削減し、法律の執行体制を強化すること
- 野生生物の密猟と違法取引の根絶に向けて、特に金融、運輸業界などの関与の強化を含めた方策が、会議で支持されよう働きかけること
参考情報
【カサネ会議参加国】アンゴラ、オーストリア、オーストラリア、バングラデシュ、ベルギー、ボツワナ、カメルーン、カナダ、中国、コロンビア、エチオピア、フランス、ガボン、ドイツ、日本、ケニア、マダガスカル、マラウイ、モザンビーク、ナミビア、オランダ、南アフリカ共和国、スイス、タンザニア、アラブ首長国連邦、ウガンダ、英国、米国、ベトナム、ザンビア、ジンバブエ
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