違法な野生生物取引撲滅に向けた、e-コマース業界の取り組み

日本でも期待される取り組みの広がり
The elephant playing water in the river
The elephant playing water in the river
wootthisak nirongboot via Getty Images

年間2兆円規模といわれる、世界の違法な野生生物取引。2018年3月7日、WWF、トラフィック、IFAWは、この違法取引の撲滅に向けた取り組みの一環として、「野生生物の不正なオンライン取引終了に向けた国際的な連合体」を立ち上げました。これには、Alibaba、Baidu(百度)、Facebook、Google、Instagramなどアメリカ、ヨーロッパ、アジア、アフリカのe-コマース・ソーシャルメディア業界の20社以上が参加。「インターネットでの野生生物・野生生物製品の不正取引を2020年までに80%削減すること」を目標とし、達成に向けた取り組みを進める決意を表明しました。

e-コマース業界による連携体制構築に向けた取り組み

2018年3月7日、WWF、トラフィック、IFAW(国際動物福祉基金)は、違法な野生生物の取引撲滅に向けた取り組みの一環として、「野生生物の不正なオンライン取引終了に向けた国際的な連合体(Global Coalition to End Wildlife Trafficking Online)」を立ち上げました。 この連合体には、アメリカと中国企業を中心に、そのほかにもヨーロッパ、アジア、アフリカのe-コマース・ソーシャルメディア業界の21社が参加。 「インターネットでの野生生物・野生生物製品の不正取引を2020年までに80%削減すること」を共通の目標とし、達成に向けた取り組みを進める決意を表明しました。 現在、インターネットを介した野生生物の違法取引は、「野生生物サイバー犯罪(wildlife crime)」とも呼ばれ、国際的に重要な課題のひとつとして認識されています。 国際刑事警察機構(INTERPOL)のプロジェクトの調査では、2013年のある2週間に、ヨーロッパ9カ国でインターネットオークションにかけられた象牙の取引総額は、およそ2億円(145万ユーロ)。中には違法なものも含まれていました。 これは、数多くある野生生物犯罪のごく一例にすぎませんが、ユーザーの拡大に合わせ、こうした犯罪行為の拡大が懸念されています。 こうした問題を防除するためには、インターネットを使ったオンライン取引のプラットフォームを直接提供している、e-コマースサイトや、個人ユーザー間の取引に利用されるソーシャルメディアサイトを運営する企業の取り組みが欠かせません。 そこで、今回設立された連合体では、各企業が提供するそれぞれのプラットフォームに合った対策を考え、野生生物保全につながる計画を実行することを目指しています。 連合体に参加している21社は、2020年までにインターネットでの野生生物・野生生物製品の不正取引を80%削減するための目標や活動を企業方針として取り入れ、実施していくこととなります。 また、WWFやトラフィックなどNGOは、こうした企業の取り組みを、専門的な知見やツールの提供などを通じて支援していくこととなります。

進む業界の取り組み

中国では、2012年にオンラインビジネスを手がける主要企業15社、2014年には9社(Alibaba, Tencentなど)が野生生物の違法取引撲滅を誓うなど、取り組みが浸透してきています。 また、アメリカでも2016年に7社(eBay, Etsy, Gumtree, Microsoft, Pinterest, Tencent, Yahoo!Inc)が、インターネットでの野生生物取引に関するガイドラインを策定しています。 これに続く今回の連合体の設立により、目標がより具体的になったことに加え、賛同する企業が拡大するなど、実施地域が世界各地に拡大されました。

Alibaba, Baidu(百度), Baixing, eBay, Etsy, Facebook, Google, Huaxia Collection, Instagram,

Kuaishou, Mall for Africa, Microsoft, Pinterest, Qyer, Ruby Lane, Shengshi Collection,

Tencent(騰訊), Wen Wan Tian Xia, Zhongyikupai, Zhuanzhuan(転転), 58 Group

この取り組みを呼びかけてきたWWF、トラフィック、IFAWは、違法な野生生物に関するこれまでの知見や成功事例、ツールキットの提供などで各企業をサポートしていきます。 また、参加する企業同士でも情報や技術の共有をして、活動を促進させることも、この連合体に期待される、重要な要素です。 たとえば、次のような点が効果として想定されます。

1.違法な野生生物取引の問題に関するユーザーへの教育や、オンラインプラットフォームの悪用に厳しい態度を取る企業であることの周知

2.インターネットでの不正行為が可能だと考えている犯罪者に対し抑止力を発揮

3.問題に対抗して立ち上がっている企業同士が連携する場を提供し、革新的な取り組みや成功事例の共有を通じた業界全体の対策強化

また、サービスを手掛けるこうした先進的な企業の取り組みは、一般の利用者の問題意識を高め、違法な野生生物取引という犯罪の抑止にもつながります。 さらに、企業や業界として、意図せず違法行為に利用され、加担していることへのリスク回避ともなるでしょう。 この世界的な連携構築は、額にすると年間2兆円規模と言われる違法な野生生物取引を締め出し、密猟を無くしていく、野生生物保全の大きな一歩といえます。

日本でも期待される取り組みの広がり

日本でも、インターネットの利用者は年々増続けています。総務省によれば、国内のインターネットユーザーは、2013年以降1億人を突破。 その約半数が、オンラインの商取引を利用していると見られています。 それと同時に、インターネットを使った野生生物に関する違法取引も増加。商用、個人での利用を問わず、取引行為が違法にあたる可能性のある、野生生物製品がネットオークションなどを介して売買されている現状が明らかになっています。 2018年2月に、「種の保存法」で売買が規制されている、トラなど絶滅のおそれのある動物の身体を使った製品を、インターネットオークションに出品したことで、日本の古美術商が書類送検された事例をはじめ、摘発される例も少なくありません。 さらに、違法取引の摘発事例が続く象牙・象牙製品の取引でも、インターネットが利用され、中には、オンラインで入手された象牙が日本から海外に流出している事例も確認されています。 そうした中、日本のe-コマース企業では、楽天やメルカリが野生生物由来製品の取引について自主的な規制を設定。先駆的な取り組みを行なっていますが、業界全体でみると、意識はまだ高いとは言えません。 さらに、政府としても日々変化、拡大するインターネット取引の現状に対し、法整備が追いついていないのが実情です。 今のところ、「野生生物の不正なオンライン取引終了に向けた国際的な連合体」に日本の企業は名前を連ねていませんが、WWFジャパンもこうした取り組みへの参加を促すなど、企業への働きかけを行なっていきます。 また、企業側の努力だけに頼らず、政府としてもしっかりとした政策方針を打ち出し、早急に取り組む必要を、引き続き訴えてゆきます。

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