女子ダブルスで優勝し、コーチと喜ぶ「タカマツ」ペア=ロイター
リオデジャネイロオリンピックのバドミントン女子ダブルスで、日本バドミントン史上初の金メダルを獲得した高橋礼華(あやか、26)と松友美佐紀(24)の「タカマツ」ペア。デンマークとの決勝は、敗退寸前に追い込まれながら、5連続得点で逆転勝利を果たしました。2人を救ったのは、ベンチから飛んだ絶叫でした。(朝日新聞スポーツ部記者・清水寿之)
3連続失点「正直、もうだめかな」
バドミントン女子ダブルス決勝、デンマーク戦の最終第3ゲームの終盤、高橋、松友組は3連続失点で、16―19の劣勢に立たされました。
あと2点取られたら、負け。「正直、もうだめかな」と松友の頭に諦めの気持ちが湧く一方で、ある思いが芽生えます。
「一球でもいいから、相手に『おっ』と思わせよう」
相手のサーブ。コートの後方を守る「後衛」の高橋が相手コート奥へと打ち返しました。と同時に、コートの前方を主に守る「前衛」の松友が、すっと前へ出ます。ラケットを立てて構えると軽く差し出し、シャトルにちょこんと当てました。意表を突くプレーに相手の足は止まり、シャトルは静かに相手コート前方に落ちました。
「プッシュをせず、ラケットを止めろ」
159センチの松友は他の選手に比べて、ラケットを持つ手の位置が低いのが特徴。ラケット面が相手からは見えづらく、球筋を相手に読まれにくいのが長所です。
追いつ追われつの第3ゲーム中盤、松友はらしくないミスが続きます。早く決めたいあまりに、ラケットを前に押し出して強い球を返す「プッシュ」と呼ばれるショットが多くなっていたのです。
日本のベンチはそんな松友を冷静に見ていました。プッシュをネットに引っかけて18点目を献上したとき、コートサイドにいた中島慶(けい)コーチ(54)が「止めて、止めて」と叫びます。「プッシュをせず、ラケットを止めろ」という意味でした。
無心の境地へ
松友は3点差をつけられたこの場面で、その指示を思い出します。そこで、それまでプッシュをしていた構えから、緩い球を打ち返したのです。ふっとわいた松友の遊び心とベンチワークで、相手の連続得点は止まりました。
17―19。デンマークペアには、まだ笑みを浮かべる余裕がありましたが、このプレーから流れは変わります。
この後続くプレーを、高橋ははっきりと覚えていません。「タカマツペア」は無心の境地に入っていきます。
「逆転も、あり得るな」
直前に緩めのショットを決めた松友の勢いは、止まりません。
サーブは高橋礼華。打った後、その場にしゃがみ、ラリーを松友に任せます。最後は甘い浮き球を、松友が逆クロスでたたき込みました。
ネットの向こうで、汗をぬぐうペデルセン。対する松友は「無心で、楽しくやっていた」と涼しい顔です。続くラリーでもスマッシュを決めて3連続得点。ついに19―19に追いつきます。
16―19とされた時点で試合をあきらめそうになったのは、高橋も同じでしたが、同点になり「逆転も、あり得るな」と、息を吹き返します。
思い出したレスリング女子の姿
2人は、前日に選手村のテレビで見たレスリング女子の試合を思い出していました。伊調馨、登坂(とうさか)絵莉、土性(どしょう)沙羅が、いずれも決勝の終盤で逆転勝ち。自分たちも、自然とそんな思いが浮かんできました。
高橋の武器は、コート後方からのパワフルなスマッシュです。165センチと決して大柄ではありませんが、体幹が強く、多少無理な体勢からでも、正確なショットを打ち分けることができます。
19―19の場面。ラリーを続けながらチャンスをうかがい、横一列に並んだデンマークペアの間を通すような逆クロスを放ちます。責任の所在があいまいで、捕球が難しいところをピンポイントで突きました。
20―19。そして試合を決めた21点目も、2人の間にクロスで打ち込んだスマッシュ。相手の返球は、ネットに当たりました。
「19点くらいからは何も覚えていない」
「19点くらいからは何も覚えていない」と高橋。無心で放った、会心のショットの数々。連続5得点の間、松友の表情はずっと涼しいままでした。
勝利の瞬間、その場で泣き崩れた高橋、跳びはねて喜ぶ松友。ネットの向こうでは、呆然(ぼうぜん)とするペデルセンの肩を、リターユヒルが抱きかかえていました。涙を見せたリターユヒルは「五輪の決勝で最高の試合ができた。涙は、誇らしさの裏返しだ」と話しました。
ペデルセンは正直な気持ちを口にしました。「リードを守れなかったことに悔しさがない、と言ったらうそになる。日本のペアはミスを恐れず、リスク覚悟でショットを打ってきた。私たちには何かが足りなかった」。
そして、続けました。「もし夢が一つかなうとしたら、19―16の場面からやり直したい」
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