シンガポールの小学校卒業試験 PSLE
シンガポールでは小学校6年生の終了にあたり、小学校卒業試験 PSLE (Primary School Leaving Examination) が実施されます。PSLEは卒業を判定するのみでなく、得点取得順に中学校選択が可能となるので、進路に重要な意味を持ちます。日本の公立中学校は多くは居住地区と中学校が一対一に対応しますが、シンガポールでは中学校の時点で学力別に分かれているのです。
シンガポールは教育熱心な国です。PISAというOECD加盟国を中心に対象とした国際学習到達度調査があります。義務教育の終了段階にある15歳の生徒が対象です。PISAにおいてシンガポールは、数学2位(日本7位)、科学3位(日本4位)、読解3位(日本4位)です。PSLEは対象が学年の全児童となるため、シンガポール人の関心は、日本でのセンター試験を超えるものがあります。受験生だけでなく親も全力支援をするため、子供のPSLE対策のために休職・退職するという話を聞くこともあります。
2015年シンガポールPSLE
そのPSLEの2015年の結果が、11月25日に発表されました。
受験者総数が39,286人。エクスプレスコースが大学進学に近いグループです。シンガポールは中学(Secondary School)が4~5年制、高校(Junior College)が2年制です。エクスプレスコースは中学卒業時に受けるGCE Oレベルの試験を4年で受けられますが、ノーマルコース(アカデミック)への進学だと5年かかります。ノーマルコース(技術)からも大学進学は可能ですが、そのためには複雑な進路と他コースより長い年月が必要になります。
2015年の日本の大学進学率は54.6%です。シンガポールでは国からの援助金がある国立大学(6校)への進学者は30.0%(2014年)と限られており、統計に含まれない私立大学や海外留学を含めても4割と言われています。エクスプレスコースに進学しても、大学進学にはそこから更にふるいがかかることになります。限られた大学進学枠は学業に秀でた生徒に、そうでない生徒には職業訓練を、というのが国の考え方が見えてきます。シンガポールにおける人生の第一次選抜PSLEが人生で大きな影響を与えると考えられているため、家族は必死になるのです。
シンガポール教育省(MOE): Education Statistics Digest
中学校進学できない児童の進路
「中学校進学に失格」と判断された1.7%の676人の児童はどうなるのでしょうか。
PSLE受験が初めての児童は、来年PSLEを再受験するか、特別教育校(APSかNLS)に進学するかを選ぶことになります。PSLEを2回以上受験した児童は特別教育校に進学することになります。
日本は小学校・中学校に卒業試験がないだけでなく、成績不良でも、出席日数が不十分でも、義務教育の間は年齢に達すれば卒業証書を手にできるのが一般的です。小学校では、学校教育法施行規則 第五十七条によると「卒業を認めるに当たつては、児童の平素の成績を評価して」とありますが、卒業を認めないとの判断がくだされたのは、あるのかもしれませんが例外のはずです。
第五十七条 小学校において、各学年の課程の修了又は卒業を認めるに当たつては、児童の平素の成績を評価して、これを定めなければならない。
司法省: 学校教育法施行規則
必要な知識を得ることで卒業とするシンガポールと、義務教育では年齢に達すれば卒業させることが教育的配慮となっている日本と、教育への捉え方が異なるのが分かります。
加熱する受験競争に苦慮するシンガポール政府
PSLE最優秀児童の発表停止
政府はこれまでPSLEの最優秀児童を発表していましたが、発表を停止して4年になります。これは、現在の行き過ぎた勉学熱を抑えるためです。発表があった時には、最高得点児童が「私達の選択」というキャッチフレーズで健康食品(Essence of Chicken)の広告に出ていたこともありました。
what the fish, man!: Singapore is creepy. Like really.
つめ込み学習への警告出題
「8個の1ドルコインの重さは6g、60g、600g、6kgのどれ?」
2015年のPSLEでの数学の問題です。出題のミソはコインの重さが書いていないこと。一部の受験者は困惑。「IQ試験じゃないのに」等の意見が出る中、「スイカの重さの推測は数学のシラバスにある」と塾講師が新聞記事でコメントしています。ペットボトルは500gの感覚があれば、60gが正答と推測可能。勉強熱心な家庭ほど、ペーパーで勉強するのに必死で、現実と解離してしまいがち。これが話題になるぐらいなので大半の問題とは傾向が違いますが、つめ込み学習への警告と捉えてよいでしょう。
シンガポールで義務教育は小学校のみ
教育熱心なシンガポールですが、実は義務教育は小学校のみです。また義務教育が導入されたのも2003年からです。
シンガポール教育省(MOE): Frequently Asked Questions
シンガポールではホームスクーリングの実施には教育省の許可を得ることで可能になります。その場合でもPSLEの受験は必須です。
シンガポール教育省(MOE): (PDF) Information Sheet on the 2015 PSLE Results of Students Exempted from Compulsory Education
PSLEで成績はよくなかったが、その後納得いくキャリアをおくった人たち
シンガポールの有力紙ストレートタイムズでは、PSLEで優秀な成績を取らなくても納得いくキャリアをおくった人たちの告白を、フェイスブックで多くのシェアがされたとして紹介しています。
- PSLEで悪い成績をとったが、後にITに興味を覚えてITE(日本の商業/工業高校に該当)に進学。その後、ポリテクニック(日本の高専に相当)を経て、国立大学の一つシンガポール経営大学の情報管理学科に編入した人
- PSLEで悪い成績をとり、不良グループに入っていたが、父親と向い合って一念発起してシンガポール国立大学に入学。刑法を専門に無料奉仕活動を中心にする弁護士
Straits Times: Don't let PSLE results define you, say inspiring viral posts
本記事は下記の引用です。
今日もシンガポールまみれ: 小学生の1.7%が卒業試験PSLEで落第したシンガポール