忘れ去られていたソマリアの海賊 - ユーリ・フェドートフ国連薬物犯罪事務所(UNODC)事務局長

海賊がテロリストと化すのを防ぐことは優先課題です。UNODCは、海賊が収容されている刑務所での暴力的過激主義の防止に関し、世界最大のプログラムを運営しています。

世界銀行はかつて、アフリカの角地域の沖合で頻発していたソマリア人による海賊行為が、世界貿易に数十億ドルの損害を及ぼし、地域各国の脆弱な経済に打撃を与えると推定していました。

こうした破滅的な金銭的コストは、グローバル経済が痛みを伴う低迷に入った時期に、人質となった人々の大きな苦痛とともに表面化しました。人質の中には、絶望的な生活条件の中で、医療を受けられないまま命を失った人もいました。

そして今、ソマリア沖の海賊行為は最近の数週間で再び活発化し、船の乗っ取りや人質の拉致がメディアで大きく取り上げられています。3月初旬以来、海賊による攻撃が成功する事件は後を絶たず、4月1日には貨物船「アルカウシャール(Al Kaushar)」号が乗っ取られています。

この地域の悲惨な歴史にもかかわらず、激しい攻撃が5年にわたって小康状態にあったことで、ソマリア沖の海賊行為の危険性を皆が忘れ去ってしまったのです。

ソマリアの沿岸に近づきすぎないこと、警備員を見えるように配置することなど、苦労して手に入れた教訓は、時間と費用を節約するために投げ出されてしまったかのようです。

攻撃が止んでいた主因の一つである巡視艇による監視も、その他の優先課題の発生で各国の限られた資源がそちらに振り向けられたことにより、縮小されています。

貨物船に対する攻撃が数百件を数え、数十人が苛酷な条件の中で人質に取られ、世界貿易に数十億ドルの損害が生じていた2010年代初期の状況の再現を阻止するためには、直ちに4つのことに取りかかる必要があります。

第1に、国際社会が監視の手を緩めないのはもちろんのこと、商船業界も海軍や国際海事機関(IOM)の助言に従い、ソマリア沖の海上回廊を通る安全な航路を計画することが欠かせません。リスクや犯罪組織、海賊のボートの所在、最近の海賊行為に関する情報を収集、検討し、迅速に発信する必要もあります。

第2に、雇用の創出は犯罪の防止に役立ちます。陸上で何をするかが、海上での行動に影響するのです。ソマリアはおそらく、世界で開発が最も遅れている国であり、貧困と失業に苦しむ若者にとって、海賊行為で金持ちになれるという約束が十分な誘因になるということを、私たちは認識すべきです。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)と非営利組織「オーシャンズ・ビヨンド・パイレシー(OBP)」が海賊行為による受刑者66人を対象に行った調査(PDF)では、貧困が犯罪行為の大きな理由となっていることが判明しました。事実、ある受刑者は「家族が貧しかったので、海賊に加わった」と話しています。

公海における生命の危険と、陸上での持続可能な生活の創造を訴えていくことが欠かせません。ソマリアの漁業資源を枯渇させている密漁と海賊行為との関係も十分に洗い出すとともに、必要であれば対策を講じる必要があります。

第3に、公正な刑事司法制度を確立し、海賊を訴追するとともに、有罪となった場合には、ソマリア国内の安全と安心が確保される刑務所に収容できるようにしなければなりません。これまでに、ソマリア人の若い男性1,300人が海賊行為の疑いで身柄を拘束され、21カ国で裁判を受けています。

UNODCとその世界海上犯罪計画(本部:ナイロビ)は、地域各国による海賊犯罪容疑者の裁判、訴追を援助するとともに、多くの海賊行為被害者に対する支援も行っています。

人質解放に向けた取り組みも続けられていますが、UNODCはすでに人質150人の解放に関与しており、その中には昨年10月に解放された漁船「ナハム3(Naham 3)」号の乗組員26人も含まれています。

海賊がテロリストと化すのを防ぐことは優先課題です。UNODCは、海賊が収容されている刑務所での暴力的過激主義の防止に関し、世界最大のプログラムの一つを運営しています。

テロ組織「アル・シャバブ」の過激化と、弱い立場に置かれた受刑者の勧誘を防止することは、このプログラムの具体的な目的となっています。

第4に、ソマリアの海事法執行機関を資源と機材の面で十分に支援し、ソマリア沿岸以遠にも警備を拡大できるようにする必要があります。UNODCはすでに、沿岸警備隊の活動を海軍の作戦や商船の動きと連動できるようにするための訓練を提供し、海賊行為の抑止を図っています。

アントニオ・グテーレス国連事務総長、テリーザ・メイ英首相、およびモハメド・アブドゥライ・モハメド・ソマリア大統領の出席を得て5月11日、ロンドンで開催される会議では、こうした問題の多くが話し合われる予定です。

こうした分野での私たちの活動は、各国に対する支援の一つのモデルとなっています。国連と国際社会は当然ながら、これらの成果を誇りとできるでしょう。それでもロンドン会議は、将来的な行動に向けた弾みをつけることができます。

ソマリアとアフリカの角地域は、極めて多くの課題を抱えていますが、各国が石油探索に希望を見出し、苦闘する経済に新たな生命を吹き込もうとする中で、海賊による攻撃は、復興の芽を摘む脅威として常に存在しています。

国際社会はソマリアの人々のために、警戒の手を緩めず、必要に応じて支援の手を差し伸べる必要があります。途方に暮れている時間などないのです。

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