前回は、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」※の目標5についてご紹介しました。今回は、目標4について紹介したいと思います。
※「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」:2016年から2030年までの15年間に、日本を含む世界のすべての国々が達成すべき目標。貧困・格差、気候変動などの課題について17の目標が定められている。「誰一人取り残さない」がキャッチフレーズになっている。
■世界では、未だ5,800万人の子どもたちが小学校に通えていません。
・そのうち2,500万人が一度も学校に通うことなく、学ぶ楽しみを知らぬままに生涯を終える。
・成人のおよそ6人に1人にあたる7億8,100万人が読み書きができません。
・非識字者の64%は、女性である。
サハラ以南アフリカでは識字率が70%にとどまっており、ジェンダー格差や地域格差が依然として存在しています。
色が濃い国ほど、女の子が小学校に通えていない(2015年)※灰色はデータなし
目標4「すべての人に包括的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する」
国際社会はミレニアム開発目標(以下、MDGs:Millennium Development Goals)の目標2に「初等教育の完全普及」を目標3に「教育におけるジェンダー格差の解消」を掲げました。またMDGsの2つの教育目標に、幼児教育の普及、成人識字率の改善、若者や成人のライフスキルの向上、教育の質の改善という4つの目標を加えた「万人のための教育」(以下、EFA:Education for All)目標を掲げました。
これらの目標の達成に向けて、教育予算の増加、初等教育の学費の廃止、教員の質の向上がなされ、初等教育の就学率や成人識字率に一定の改善がみられました。
持続可能な開発目標(SDGs)の目標4は、これまでのMDGs目標2やEFA 目標よりもさらに包摂的で広範囲におよぶもので、「誰一人取り残さない」というキャッチフレーズをまさに体現した教育目標になっていることは高く評価できます。
目標4では、国が保障すべき基礎教育の定義が大幅に広がり、幼児教育、小中学校そして高校までが含まれました。
成人識字率100%を目指すことはもちろん、大学などの高等教育のアクセスの拡大、職業教育・訓練の充実も含まれ、若年層から成人にいたるまで、生涯学べる機会や環境を保障し、市民が自分自身を高め、自分の望む人生を歩んでいけることを宣言しています。
©プラン・インターナショナル・ジャパン
幼児教育から高校までの保障を目指すと聞いて、「おや?」と反応する方もいらっしゃるのではないでしょうか。そうです。日本でもこの目標4は達成されていないのです。
待機児童が多すぎて保育園に通えない子どもたちや、経済的な理由で高校に通い続けることが難しい子どもたちは、まさに目標4のターゲットになる子どもたちです。こうした日本にもある課題にも取り組むなかで、より多くの人々が自分たちの身近なものとして、目標4を捉えていくことが必要です。
すべての子どもが高校まで通えるようにするには、MDGs目標2やEFA目標よりも多くの資金が必要です。その資金額は全世界で年間19兆2,000億円と試算されています。
このうち15兆円は各国政府が税収や政府予算に占める教育予算の割合を増やして調達することが可能とされています。それでも途上国では4兆円が足りないので、日本を含めた豊かな国が支援する必要があります。
しかし現状は、高校までを含めた基礎教育への支援額は6,200億円と小額です。こうした資金のギャップを埋めるには、目標17で謳われている、豊かな国は「国民総所得(GNI)比0.7%政府開発援助(ODA)として拠出する」という約束を果たし、さらに教育への援助額を約6倍にする必要があります。
私が勤務するプラン・インターナショナル・ジャパンも参加している教育協力NGOネットワーク(以下、JNNE)は、現在22団体が所属し、これまで10年以上にわたり「世界一大きな授業」を実施してきました。
「世界一大きな授業」とは、世界の現状に目を向け、教育の大切さを、世界中の人々が同じ時期に考えようというグローバルな国際理解教育イベントです。
「世界中の子どもに教育を」を合言葉に、2003年にスタートし、2008年には世界で885万人が参加し、ギネスブックにも登録されました。年々参加者が増えている日本では今年(2016年)、764校・グループから56,234人が参加しました。
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参加者はJNNEが作成する教材で、世界の教育の現状について学び、状況改善のために政府へ働きかけていくことの重要性を学びます。
・途上国政府は教育予算を増やすよう、努力すること。
・日本も含む援助国は、基礎教育援助を重視すること。
そういった「政策」を実現させるためには、市民の立場から、世界や国のリーダーに意見を述べ、提言することが大切です。
2016年の教材は、映画『わたしはマララ』のエンドロールにある「Raise Your Voice!(声をあげよう)」というマララ・ユスフザイさんの呼びかけにこたえて「すべての子どもに教育を」というメッセージを、日本の子どもたちを含めた市民が地元の国会議員に働きかけるアクションも提案しました。
日本の援助政策を決めるのは、日本政府です。国会議員は変化を起こす大きな力を持っています。その国会議員を動かすのは、子どもたちを含めたわたしたち市民の声なのです。
2017年も今年と同じく、4~5月にかけて「世界一大きな授業」を実施する予定です。みなさんもぜひ「世界一大きな授業」に参加して、世界の教育の現状について知り、日本政府への働きかけに協力してください。目標4を達成することは、他の目標の達成にも貢献し、すべての人が自分の望むように生きていくための第一歩になります。
教育協力NGOネットワーク(JNNE)「世界一大きな授業」コーディネーター/
公益財団法人プラン・インターナショナル プログラム部 オフィサー
澤柳 孝浩