前回は、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」※の目標3についてご紹介しました。今回は、目標2について紹介したいと思います。
※「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」:2016年から2030年までの15年間に、日本を含む世界のすべての国々が達成すべき目標。貧困・格差、気候変動などの課題について17の目標が定められている。「誰一人取り残さない」がキャッチフレーズになっている。
これまでの記事でも紹介があったように、SDGsの17の目標は相互に連関しています。
その中でも他の目標と最も相互連関性の高い目標のひとつが、SDGsの目標2(飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する)に掲げられている栄養改善に関する目標であると言えるでしょう。
2016年版のGlobal Nutrition Report(世界栄養報告) では、SDGsの17の目標のうち、12の目標が栄養に関連していることが示されています(表1参照)。
同報告書の2015年版によると、良好な栄養状態を実現することは、食と健康に関する人権を実現することと同義です。また、良好な栄養状態は、SDGs時代の代表的な課題である格差を是正することにも繋がると言われています。
栄養状態の向上は、世代を超えて続く貧困のサイクルを断ち切り、さらに、広い意味での経済成長を生み出し、個人、家族、コミュニティ、そして国家レベルで多くの効果をもたらすことに繋がります。
世界では未だ8億人近くが慢性的栄養不足、20億人以上が微量栄養素不足の状態にある¹
SDGsの時代を担う子どもたちに目を向けてみると、栄養不良は、年間590万人に上る5歳未満児の死亡要因の約半数に関係しており、また、5歳以下の1億5,900万人の子どもたちが発育阻害(年齢に対し低身長)の状態にあります 。
このように、栄養不良は現代の世界を覆う大変深刻な課題ですが、栄養改善については必要な対策が未だ十分に採られているとは言い難い状況にあります。
国際食糧政策研究所によると、各国やドナーが現行の対策を続ける限り、SDGsの2.2で掲げられた国際的に合意されたターゲットであるWHO国際栄養目標2025の6つの目標を、期限までに達成できる国は約3割に止まる見込みです ²。
この目標が達成されない限り、SDGsの目標達成も難しいでしょう。
そして、世界銀行によるとWHO国際栄養目標2025の6つの目標のうち、4つを達成するための栄養直接介入に必要な投資額は、今後10年間で毎年新たに70億ドル(うちドナーによる必要投資額は毎年26億ドル)と試算されています 。
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【SDGsターゲット2.2】
5 歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025 年までに達成するなど、2030 年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。
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なぜ、このように深刻な課題である栄養改善に対し、必要な対策が十分に採られていないのでしょうか。
その要因の一つとして、栄養改善の重要性が国際的にも国内的にも未だ十分には認識されておらず、栄養改善に向けた政治的な意思が不足していることが挙げられます。
日本に対し国際的に大きな期待が寄せられている
例えば、栄養改善に向けたマルチステイクホルダーの連携を促進する国際プラットフォームである「国際栄養のためのグローバル・アライアンス(GAIN)」は、「立ち上がれ日本!栄養のチャンピオンとして」と題する記事を通じて、日本が国際的に栄養改善の取り組みをリードするにふさわしい国であることを訴えています。
その理由として、日本の国民が良好な栄養状態を維持しており、また、様々なステイクホルダーが、多様な栄養改善支援の取り組みを行っていることが挙げられています。
2020年には東京オリンピックが開催されますが、2012年のロンドンオリンピックの時に構想され、2016年のリオ・オリンピックに引き継がれた重要なバトンが、日本に引き継がれることになっています。
国際的にも栄養改善で世界をリードすることが期待されている日本が、しっかりとこのバトンを受け継ぎ、栄養不良という世界が克服すべき課題の解決に向けて、リーダーシップを発揮すること、そしてそれを通じて、東京オリンピックの機会により多くの注目が栄養改善の分野に集まることを期待しています。
ワールド・ビジョンは、全ての子どもたちの健やかな成長を願い、世界58カ国で2,600万人以上の子どもたちに対し、栄養改善に関する取り組みを行っています ⁴。
加えて、栄養改善の重要性を一人でも多くの方に知ってもらい、栄養改善に関する取り組み機運を高め、栄養改善に向けた政治的意思を高めるため、志を同じくする他の団体とも協働しながらアドボカシーを行っています。
皆さんにも、2020年の東京オリンピックの際に、栄養改善に向けた声が盛り上がり、政治的意思が高まるよう、ぜひ一緒に盛り上げていただけるとうれしいです。
アドボカシー・シニア・アドバイザー
柴田哲子
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¹ FAO Press Release "UN General Assembly proclaims Decade of Action on Nutrition" 2016
² 国際食糧政策研究所(IFPRI), 世界栄養報告, 2015
³ The World Bank, Results for Development and 1,000 Days, Investing in Nutrition : The foundation for development, 2016