前回は、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」※の目標10についてご紹介しました。今回は、目標9について紹介したいと思います。
※「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」:2016年から2030年までの15年間に、日本を含む世界のすべての国々が達成すべき目標。貧困・格差、気候変動などの課題について17の目標が定められている。「誰一人取り残さない」がキャッチフレーズになっている。
目標9
「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの推進を図る」
途上国が発展するための土台である水道や鉄道、ガス・電気、インターネットなどのインフラ(インフラストラクチャー)を強固にすること、そしてそれをもとに新しいイノベーションを生み出しやすくすることが目標になっています。
現在、途上国のインフラはどのような状況にあるのでしょうか。
SDGsの目標9に関連する事実について、国際連合広報センターは以下のように公表しています。
- 開発途上地域では、約26億人が安定的な電力供給を受けていません。
- 全世界で25億人が基本的な衛生施設を利用できていないほか、水資源にアクセスできない人々もほぼ8億人近くに上っていますが、そのうち数億人がサハラ以南アフリカと南アジアに暮らしています。
- 信頼できる電話サービスを受けられない人々は、100万人から150万人に及びます。
- 低所得国をはじめ、多くのアフリカ諸国では、インフラの未整備により、企業の生産性が約40%損なわれています。
以上の事実からも、インフラ整備の必要性と、これが途上国の経済発展に寄与する大きな可能性があることが分かります。
目標9は、すべての人々にとって公平な経済発展の機会を提供するために、質の高い、信頼できる持続可能かつ強靭(レジリエント)なインフラを開発することをターゲットに定めています。
特に重要なのが、「強靭(レジリエント)な」インフラを、「すべての人々」のために開発するという2つのキーワードです。
〇1つ目のキーワード「強靭(レジリエント)な」インフラ
まず、途上国の災害への対応力を強化するという点で重要です。途上国の多くは、災害に対して非常に脆弱で、受ける被害は深刻です。例えば、1978年から2002年までの25年間で自然災害により死亡した人数の9割以上が開発途上国に集中しているという統計があります。予期せぬ災害や緊急事態での被害を最小限に食い止めるために欠かせないのが、レジリエントなインフラの構築なのです。
そして、経済活動の活性化を促進するためにも重要です。
インフラは、企業が現地で企業活動を行うためにも大切なものです。例えば、電気の供給が不安定で停電がしばしば起きてしまうような環境では、企業は効率的に生産活動を行えません。また、このような地域には外国の企業も進出するリスクが大きいため、外貨の獲得にも負の影響を与えます。脆弱なインフラは、途上国の経済発展を大きく阻害する要因となっています。
〇2つ目のキーワード「すべての人々」
すべての人々という言葉は、インフラの「包摂性」を意味します。目標9では、「すべての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために」レジリエントなインフラを開発することがターゲットになっています。
先述したとおり、レジリエントなインフラによる経済活性化はもちろん大切です。しかし残念なことに、経済活動の活性化の名目で建設されてきた様々なインフラが、土地収奪や強制移住、水質汚染等を引き起こしてきた例がこれまでにたくさんありました。
ある一部の組織や人々のための利益になるようなインフラではなく、最も貧しく周縁化された人々に対して資するようなインフラを構築しなければならないというのがSDGsにおける目標9の考え方です。これまでの反省を生かして、貧しい人々や周縁化された人々の権利が守られ、生活が向上されるようなインフラ構築を進めていく必要があります。
ⒸRakan Diab/Save the Children
目標9では、インフラの構築だけでなく、それをもとにした持続可能な産業化もターゲットになっています。後発開発途上国においては、2030年までに雇用とGDPに占める産業セクターの割合を倍増させることが目指されています。ここで注目したいのは、産業化を持続的なものにするために必要な環境への配慮を中心とした企業側の努力です。
企業側に求められる努力として、「2030年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる」ことがターゲットとして掲げられています。
そして包摂性の観点からも、企業は地域を支援し、地域の人々の声をきちんと聞き、企業活動に反映する必要があります。こうすることで、地域の人々は自分たちの意見が無視されず、参加できているという実感を持つことができます。周縁化された人々を生まないためには、このような企業側の努力が必要です。
以上、目標9で目指されているインフラの強化とそれに基づく途上国の包摂的で持続可能な産業化をご紹介しました。そして、これを達成するためには、企業活動における環境に配慮した取組と地域の人々の参画が必要不可欠であることを述べました。目標9では加えてイノベーションを促進することが目指されています。どのターゲットに対しても、先進国諸国が、包摂性、持続可能性という目的に資する資金援助・技術協力を今後行っていく必要があります。
目標9は非常に大切で持続可能な開発に欠かせないものである一方で、その実現方法はまだ明確ではありません。どうすれば目標9が達成できるのか、みなさんもぜひ考えてみてください。
災害に強いインフラをつくり、みんなが参加できる持続可能な産業化を進め、新しい技術を生み出しやすくする。
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アドボカシーインターン
北畑祥子
<関連情報>
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