改正住宅セーフティネット法が成立! まずはハウジングプアの全体像に迫る調査の実施を!

空き家を活用した住宅セーフティネット事業は、今年の秋に開始される予定です。

4月19日、参議院本会議で改正住宅セーフティネット法が可決、成立しました。本サイトでも何度が取り上げていますが、この法律は高齢者、障害者、子育て世帯、低所得者など、賃貸住宅市場で住宅の確保に困難を抱えている人たちを「住宅確保要配慮者」と位置づけ、都道府県ごとに空き家の登録制度を新設して、オーナーが登録に応じた空き家を活用することで「住宅確保要配慮者」の入居を促進しようとするものです。

これはいわば、全国各地で増え続ける空き家問題と、深刻化する高齢者などへの入居差別の問題を「一石二鳥」で解決しようとする施策であり、「住まいの貧困」(ハウジングプア)を解決するために私がこれまで行なってきた提言とも合致する内容になっています。

増え続ける空き家を貧困対策に活用することを提言してきました。

国土交通省は2020年度末までに全国で計17万5000戸の登録住宅を確保したいとしています。しかし、若年層にも増えている低所得者の入居を促進するためには、空き家の登録制度を作るだけでは不充分で、貸し出される際の家賃を下げる施策が必要になります。そのため、政府は空き家のオーナーに月最大4万円の補助(国から2万円、地方自治体から2万円)を出すことで、家賃を低く抑えてもらう事業を実施するのですが、なぜかこの部分は法律の条文には盛り込まれず、予算措置にとどまっていました。

条文に明記されない事業は、その時々の財政状況によって縮小されたり、停止されたりする可能性が高まります。また、この家賃低廉化以外にも、支援の対象とされる「被災者」が災害発生三年以内に限られるという記述がある等、法案にはいくつか不充分と思える点がありました。

そこで、私が世話人を務める「住まいの貧困に取り組むネットワーク」では、この間、「家賃低廉化も条文に盛り込むこと」などを求めて、各政党に対する働きかけを行ってきました。4月7日には衆議院国土交通委員会における審議に私も参考人として呼んでいただき、意見陳述と委員との質疑を行ないました。

その結果、残念ながら条文の修正は行われませんでしたが、衆議院及び参議院の国土交通委員会での採決の際、それぞれ私たちが懸念している点についての「附帯決議」が採択されることになりました。

附帯決議に何が盛り込まれたのか

参議院国土交通委員会での附帯決議は下記のような内容になりました。重要な部分は太字にしています。

◆参議院国土交通委員会:住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議

政府は、本法の施行に当たり、次の諸点について適切な措置を講じ、その運用に万全を期すべきである。

一 本法に住宅セーフティネット機能の強化と併せ、公営住宅を始めとする公的賃貸住宅政策についても、引き続き着実な推進に努めること。

二 低額所得者の入居負担軽減及び安定的な住宅確保を図るため、政府は予算措置を含め必要な支援措置を講ずること

三 高齢者、障害者、低額所得者、ホームレス、子育て世帯等の住宅確保要配慮者の入居が拒まれている実態について、国土交通省と厚生労働省とが十分に連携し、住宅政策のみならず生活困窮者支援等の分野にも精通した有識者や現場関係者の意見を聞きながら、本法律の趣旨を踏まえ、適宜調査を行うなど、各々の特性に十分配慮した対策を講ずること。

四 住宅確保要配慮者が違法な取立て行為や追い出し行為等にあわないよう、政府は適正な家賃債務保証業者の利用に向けた措置を速やかに講ずること

五 地方公共団体による賃貸住宅供給計画について、その策定の促進を図るとともに、地域の住宅確保要配慮者の実情に即し、かつ空き家対策にも資する実効性のあるものとなるよう、必要な支援を行うこと。

六 住宅セーフティネット機能の強化のためには、住宅確保要配慮者居住支援協議会の設立の促進とその活動の充実等を図ることが重要であり、また、地方公共団体の住宅部局及び福祉部局の取組と連携を強化することが不可欠であることに鑑み、各地域の実態を踏まえ、必要な支援を行うこと。

七 災害が発生した日から起算して三年を経過した被災者についても、必要が認められるときには、住宅確保要配慮者として支援措置を講ずること

このうち、「三」に盛り込まれた「調査」の実施については、私が参考人陳述において最も強調した点でした。ハウジングプア(住まいの貧困)問題については、国土交通省と厚生労働省という行政の縦割りの壁に阻まれ、これまで包括的な実態調査が実施されたことがありません。法改正を機に本格的な調査をぜひ実施してほしいと願っています。

4月7日(金)に衆議院国土交通委員会で参考人として意見陳述をした際の資料より

空き家を活用した住宅セーフティネット事業は、今年の秋に開始される予定です。法律が中身を伴ったものになるよう、事業の実施状況をチェックし、適宜、国や地方自治体に働きかけを行なっていきたいと考えています。

5月25日には、今回の法改正に至る経緯を振り返り、今後の課題について考えるための報告集会を開催いたします。私と一緒に衆議院の国土交通委員会で参考人として意見陳述をした坂庭国晴さん(国民の住まいを守る全国連絡会代表幹事)、参議院の国土交通委員会で意見陳述をした塩崎賢明さん(立命館大学特別招聘教授)も登壇されます。

報告集会の詳細はこちらで。ぜひご参加ください。

(2017年4月26日「稲葉剛公式サイト」より転載)

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