【地域発】「反転授業」は地域から教育を変える革命だ(一井 暁子)

今回は、「教育革命」の現場に立ち会ってきました。佐賀県武雄市(佐賀県西部の温泉と陶芸のまち。カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する市立図書館が有名:人口5万1千人)は、自治体としては全国で初めて、タブレット端末を活用した「反転授業」に取り組んでいます。

今回は、「教育革命」の現場に立ち会ってきました。

佐賀県武雄市(佐賀県西部の温泉と陶芸のまち。カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営する市立図書館が有名:人口5万1千人)は、自治体としては全国で初めて、タブレット端末を活用した「反転授業」に取り組んでいます。11月21日、市立武内小学校で行われた「反転授業」の公開研究会に参加してきました。

すごいです。確かに、「反転」していました。

大きく言うと、2つの「反転」があります。

■学校や先生の役割も激変

まず、学校と家庭学習の役割の「反転」です。

これまでの、「学校で授業を聞く=基礎知識の習得」→「家で宿題をする=問題演習による知識の定着」だった役割分担が、「家で動画を見て予習をする=基礎知識の習得」→「学校で話し合う=知識の定着」に反転。しかも、学校の役割も、激変です。

参観して驚いたのですが、

算数の授業では、子どもたちが、台形の面積を求める公式を「作りました」。

理科の授業では、縦や斜めになっている地層がある理由について、皆で「答えを見つけました」。

先生が一方的に「教える」ことを聞いて、覚えるのではなく、自分の考えを発表し、友だちの意見を聞き、話し合って、自分たちで「答えを作り出していく」。一方向から双方向、どころか、多方向で学んでいました。

授業をされた先生は、「時間がある分、エンジンがかかって、どんどん良い話し合いになっていきました。普段は発言しない子も、発言していました」とおっしゃっていました。「分からないことが、話し合いで分かるようになるのが、こんなに楽しいとは思いませんでした」と話してくれた子どももいたそうです。確かに、子どもたちは楽しそうで、しかも、皆の集中力が、授業中ずっと途切れなかったのにも驚きました。

子どもたちが家で動画を見て、自分で学んでくることによって、学校での「学び合い」の時間が確保される。これはタイムマネジメントですが、それによって、学校や先生の役割や意味の変化、つまり質的な変革が引き起こされています。

知識をきちんと定着させ、学力を上げることに加え、これから、私たち大人も答えを知らない問題に立ち向かわなければならない子どもたちに、力を合わせて問題を解決する力をつける場が学校であり、それをファシリテートするのが先生になるのでしょう。

■クラス(学級)の見直しも

もう一つは、クラス(集団)と個人の「反転」です。

これまで、教室に子どもたちを集めて、先生が授業していたのは、クラス(集団)に同じ一つのことを伝える方が、効率がよかったからです。しかも、授業のスピードに追いつけない子がいても、決められた内容を、時間内に教えなければなりませんから、個別指導は、時間的に難しかったわけです。

しかし、ICTや予習を活用することで、一人ひとりの理解状況に合わせた指導が可能になりました。例えば、先生は予習のミニテストの結果を予め把握し、それぞれの子どもに合わせて、授業の前に声をかけたり、授業の進め方を調整したりします。授業の中でも、各自の状況を瞬時に一覧することができます。

子どもたちも、自分のペースで勉強できるようになりました。動画を途中で止めて考えたり、分かるまで何度も再生したり。

だから、落ちこぼれを作らない。

そして、知識の習得は、クラスではなく個人でするものとなり、クラス(集団)は、他人とのコミュニケーションや、協力する能力を身に付けるための場としての役割が、これまで以上に強くなります。クラスの規模(人数)や構成も、考え直す必要があるかもしれません。

■課題の解決が新たな教育を作り出す

もちろん、課題もあります。

よく聞かれるのは、「予習ができない、あるいは、自分一人で教材を理解するのは難しい子どもはどうするのか」という心配。

この点については、代田教育監にじっくりお話を伺いました。

簡単に言うと、「地域の皆さんが、子どもたちを支える、応援する体制を作っていきたい」とのこと。保護者や地域の団体との話し合いなど、既に取り組みを始められているそうです。

代田さんと言えば、杉並区立和田中学校の2代目の民間校長。和田中での、地域支援本部の経験を活かした、武雄型の体制作りを期待したいと思います。

もう一つの課題は、教材作りでしょう。

予備校などの、問題の解き方を教える動画や、授業をそのまま録画した動画は、かなり出てきているそうですが、公立の学校の授業で使えるもの、となると、確かにまだまだ少ない。でも、今回は、塾や出版社と連携して、授業をする先生の思い通りのものを作ったそうです。ここまでわずか1ヶ月。

来年度は、市内全域の共通教材を作る方針で、全校から集まった先生たちのチームが取り組むとのこと。来年1月か2月に予定されている公開研究会では、その成果も見られそうです。

地域の人たちが、学校の学びを支える。民間企業が学校の中に入って、先生たちと一緒に教材を作る。学校や授業の外ではなく、教育課程の内側からの、新たな協働が始まっています。

やっぱり「革命」です。

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