【テレビとネットが接近中】
報道に携わったことがある人間なら必ず持っている意識がある。それは「1人でも多くの人に取材した内容を伝えたい」というものだ。潜在意識の中だとしてもその使命感には例外がない。
それが最も強く出るのが災害時だ。熊本地震ではテレビ各局が「1人でも多くの人に伝えたい」と一斉にネット配信を行なったことで「テレビとネットの関係」に注目が集まるようになった。
フジテレビの『ホウドウキョク』やNHKはネットで番組配信できる自前のプラットフォームを持っているため、熊本地震以前から常総市水害など国民の生命や財産が危ないと判断された時は地上波の対応を待たずにライブで伝えてきた。調布で起きた飛行機墜落事故の時はキャスターでもない私が原稿も持たずに1時間ほどカメラの前に立って状況を伝え続けたこともある。
【参院選でオリジナル番組が次々と!】
ネット配信の流れはだんだん強くなってきていて、参院選ではNHKが総合テレビと同じ内容をネット配信したほか、『ホウドウキョク』やテレビ朝日系のAbemaTV、ローカル局では北海道文化放送などが「地上波とは異なるオリジナルのネット特番」を行なって話題となった。「1人でも多く...」という使命を考えれば、今後追随する社が増えてきてもおかしくない。
そうなると、各社とも『特徴』が必要となってくる。参院選での北海道文化放送はローカルの候補者や有権者の本音などにこだわっていて実に見事だった。テレビの開票速報をほとんど見ない若い層へどうアプローチするかを重点的に考えたそうだ。この考え方は正しい。
地上波の文脈がネットで受け入れられるほど甘いものではなく、そもそも災害時ではないので同じ内容ならテレビの大きな画面でしっかり見てもらった方がいい。
北海道文化放送プロデューサーが今回の狙いについて「スマホやパソコンでネット特番に参加しながら、テレビの開票状況もチェックしてもらいたい」と話していたが、「テレビも見たくなるようなオリジナルのネット番組の仕掛け」がテレビ局にとっての腕の見せ所になってくる。
『ホウドウキョク』の参院選特番ではそれを意識して番組を制作した。具体的には、地上波特番で使える議論の材料をスタジオ討論したり、安倍首相への質問内容を募集したり、実際に地上波に『ホウドウキョク』のゲストを登場させたりといったもの。「スマホだけで見ても面白いが、テレビも一緒に見たほうがより面白い」というのが目指した点だ。
当然、こうした「放送と通信の相互乗り入れ」には、「地上波」と「デジタル」のチームの間に壁があると実践できない。
先日、出版社や新聞の担当者たちと話す機会があったのだが、そうした悩みを持つ人が多かった。「伝統メディア」と「デジタル」の溝の深さはテレビに限った問題ではないようだ。その場では解決策のひとつとして「デジタルチームを作らずにスタッフ全員に本業としてやらせること」というものが示された。
「デジタルチームがやればいいんだ」という意識を"伝統側"が持つと協力がおろそかになるどころか敵対視さえしてくる。こうなっては「ネット→テレビ」という良い流れを起こすことは不可能。メディアを運営する上で気を付けなくてはいけないことだ。
【都知事選で新展開】
『ホウドウキョク』では次の大きなステップとして7月31日の東京都知事選で投票締め切り直前からライブ特番を行なう。地上波では特番を行なわないため、報道全体の取材内容、キャスター、スタッフが『ホウドウキョク』の配信に集約されることになる。
新たな取り組みとして『ホウドウキョク』として初めてのFacebook LIVEでの配信も予定している。
Facebookは2015年の動画再生回数が80億回に達するなど、もはや「動画プラットフォーム」としての地位を確立しつつある。アメリカではハフィントンポストなど多くのメディアがFacebook LIVEを利用して支持を得ているが、日本のテレビでは"動画のライバル"になりかねないFacebookへのコンテンツ提供に慎重なケースが多い。
それではなぜ今回『ホウドウキョク』はあえてFacebook LIVEでの配信に乗り出すのか?
何度も言うように「1人でも多くの人に取材した内容を早く伝えたい」。それに尽きる。