反ユーロ政党躍進の背景

これまでCDUやSPDなどの伝統的な政党は、2013年2月に創設されたばかりのAfDを「取るに足らぬ泡沫政党」と見下していたが、そうした見方を修正せざるを得なくなった。

フランスや英国では、EUに批判的なポピュリスト政党が得票率を伸ばしているが、同じ傾向がドイツにも現れた。ユーロ廃止を求める新政党「AfD(ドイツのための選択肢)」は、去年8月31日にザクセン州議会選挙で9,7%の得票率を獲得し、キリスト教民主同盟(CDU)などに次ぐ第4の政党となった。

さらに9月14日のブランデンブルク州議会選挙では12,2%、テューリンゲン州議会選挙でも10,6%を確保。これらの州でも、第4の政党となった。AfDの得票率は、これらの3つの州で自由民主党(FDP)と緑の党を上回っている。メルケル政権は、この政党が初めての州議会選挙で2桁の得票率を記録し、一気に3つの州議会に議席を確保したことに、強いショックを受けている。

これまでCDUやSPDなどの伝統的な政党は、2013年2月に創設されたばかりのAfDを「取るに足らぬ泡沫政党」と見下していたが、そうした見方を修正せざるを得なくなった。

AfDが結党から1年半しか経っていないのに、大躍進した理由は、同党がEU(欧州連合)を争点としたことだ。同党は、ユーロ圏を段階的に廃止してマルクの再導入を求めている。さらに、ギリシャやスペインなど南欧諸国への支援措置を連邦議会が阻止できるようにすることを要求している。そして加盟国がユーロ圏から脱退することを可能にするべく、EU法を改正することも求めている。

この党の主張は、「EUがドイツの政治や経済に干渉しすぎて、議会の権限が侵されている」と不満を抱く保守派市民の琴線に触れたのだ。

メルケル首相は、「ユーロが破綻したら、欧州が破綻する」として、ギリシャの債務不履行やユーロ圏からの脱退を是が非でも防ごうとしてきた。AfDの主張は、首相の路線に真っ向から対立するものだ。

さらに同党は「南欧の過重債務国への支援措置がドイツの財政にどれだけの負担をかけているかが、不透明である。政府は市民の負担がどの程度になっているかを明示するべきだ」と訴えてきた。ドイツ人の中には、「なぜドイツが、杜撰な財政運営を行ったギリシャやスペインのために、借金の肩代わりをさせられるのか。ギリシャのような国は、ユーロ圏から脱退させるべきだ」という意見を持つ人が少なくない。AfDはこうした人々のハートをつかみ、大躍進したのだ。

メルケル首相にとっては、手ごわいライバルが現れたと言える。

(ミュンヘン在住 熊谷 徹)筆者ホームページ: http://www.tkumagai.de

保険毎日新聞連載コラムに加筆の上転載