東日本大震災による津波が、地上のみならず海の生態系も破壊しつくしたのは4年前のことでした。
流されたガレキが海の生命をも削りとり、すっかり色を失った南三陸の海に、再び色が蘇った様子を昨年撮影したのが、水中写真家の佐藤長明さんです。
佐藤さんは4年目を迎えた今年もまた、故郷の海に潜りました。そして、佐藤さんの前に現れたのは驚くべき海の変化だったのです。
震災直後、ガレキが生命を根こそぎ削り取った南三陸の海―2011
色を取り戻した海藻―2012
岩場を覆うウニたち―2015
震災からほどなくして、徐々に増え始めた海藻類の姿がなくなり、海藻があった岩場をウニが覆いつくしていたのです。ウニが再生した海藻をねこそぎ食べてしまったようです。津波の影響でウニの天敵やウニ漁の機会が減少した影響もあるのでしょうか。
「震災前からウニの食害による磯焼けは、外洋に近い場所ほど確認されていたんです。この現象が海の再生までの振れ幅なのか。あるいは、海中生物のバランスとして震災がなくてもこのような結果になったのかを考えるべきなのかもしれません」
ただ、と佐藤さん。
「『見える命』は確実に増えています。オオヘビガイや岩牡蠣、ミネフジツボ、マボヤなど、岩の表面などに生息する生き物たちが増えました。アキギンポやコケギンポ、ムシャギンポにヒメフタスジカジカ、オコゼカジカは震災直後と比較すると、震災前と同じ生息環境を得やすくなってきた為なのか、姿を確認しやすくなりました」
しかし、観察できた種数は増えたものの、いまだ震災前の40~50%程度ということです。そして、今回の発見でもっとも佐藤さんが感動したのがホヤの繁殖行動を目の当りにしたことでした。雌雄同体のマボヤが、卵と精子を同時に海水へ放出する姿を撮影できるのは大変めずらしいということです。
マボヤの繁殖行動
ダンゴウオ
震災前に南三陸町で佐藤さんが営んでいたダイビングショップは、津波によって流されてしまいました。現在、佐藤さんは北海道の函館でダイビングショップを再開しています。
「4年という歳月がたち、海の生命は確実に子孫を増やす努力をしていました。海にも活力が出てきています。生き残れた人間として、これからも海に携わり、生き物を観察し続け撮影することで、多くの方にその素晴らしさを伝えていくことができれば本望です」