日本の防衛の最前線はどうなっているのか、これまでも「報道ステーションSUNDAY」でお伝えしてきたが、今回は潜水艦に乗艦した。潜水艦といえば、以前「おやしお型」を基地に停泊した状態で取材したが、今回は最新鋭の「そうりゅう型」、しかも実際に海に潜航して行われる訓練に同行取材が許可された。これはテレビ初だという。
そもそも潜水艦というのは、一般国民にとってほとんど目に触れない存在だ。災害派遣や人命救助での活用はほぼなく、人知れず海深くもぐり有事のための訓練を繰り返す、攻撃のために生まれた兵器といえる。私が乗艦したのは3年前に配備されたそうりゅう型の「ずいりゅう」である。最大幅は9.1メートル、長さは84メートル、建造費は500億円を超える。
細いはしごを降りて内部に入ると、想像以上に狭く窮屈な空間だ。最新鋭のそうりゅう型は数多くの装備を搭載しているにも関わらず、全体の大きさはこれまでとあまり変わらないので、人のための空間がそれだけ狭くなっている。この中で約70名の隊員が生活をするのだ。もう少し全体を大きくすれば、と聞くと、「大きくなると相手に見つかる可能性があるし、それだけコストもかかるのでコンパクトにせざるを得ない」とのこと。それにしても正直息苦しい。
生活空間が狭くなっている一番の要因は、進化したエンジンの存在だ。気圧を調整する狭いハッチを抜けるとAIP室という区画がある。これまでのエンジンはバッテリーを充電するために浮上して空気を取り入れる必要があった。
「たびたび浮上することで、レーダーに見つかるという危険があったのです」
ところが、AIPという新しいエンジンは空気を取り入れる必要がないので、海に潜っていられる期間が飛躍的にのびた。「ずいりゅう」は従来のエンジンとAIPを両方搭載した、いわゆる「ハイブリッド」なので、その分居住区間がやたらに狭くなるのである。
寝返りもままならないほど窮屈なベッドが唯一のプライベート空間。シャワーは3日に1回のみ。テレビ・DVDを見るのもヘッドフォン着用。すべては発見されないよう極力音を出してはいけないからだ。もちろんスマホは乗艦前に撤収され、一切外部との連絡もできない。
私だったら1日でストレスが爆発しそうな環境で、長期間にわたり任務にあたる潜水艦乗組員だが、皆さんとにかく明るい。聞けば過酷な任務環境を伴うため、潜水艦乗組員に選ばれるには、心理適性検査(CAS)などでストレス耐性が強いと判定され合格しなければならないそうだ。訓練こそ緊張でピリピリしているが、一転食事やオフの時間になると、笑顔で冗談を言い合い、深海とは思えない陽気な空気である。
「ずいりゅう」のカレー。これはビーフ。日付や曜日のわからなくなる潜水艦生活で必ず金曜日に出る。カレーを食べると、隊員の皆さんは週末だなと思うそう。
さて、では実際の訓練はどういうものなのだろうか。
潜水艦の中枢である「発令所」でひりひりとした静寂の中、海の中の音を調べる隊員が声をあげる。
「音探知、120度!」
水上を走る艦船を発見し、敵であれば見つかる前に先制攻撃を行う訓練。最新式のコンピューターに蓄積された膨大なデータにより、敵か味方かを識別する。その判断をするのは艦長だ。一切、外部との通信を断っている潜水艦は、地上の本部とも連絡がとれないので、すべての決断は艦長に委ねられるというのも、潜水艦の任務を特殊なものにしている。訓練では艦長が船を敵とみなし、魚雷による攻撃命令を出す。
「発射用意。撃て!」
潜水艦は、深い海の中でつねに有事を想定しながら極秘訓練を続けていた。
日本の安全保障において潜水艦とはどのような役割を求められているのか。聞くと、「抑止力」という答えが返ってきた。
「いつなんどき見えないところから攻撃をしてくるかもしれない潜水艦を保有することは、抑止力になります」
現場の隊員はどう感じているのだろうか。
「私たちの出航の回数は少ない方が平和だなと思ったりします。」
多くなっていますか?
「はい。出番(訓練)だよっていうのは、多くなっている感じはします」
日本が潜水艦の運用を始めてから100年。政府は最新型潜水艦の建造をさらに進め、防衛にあたる潜水艦の数を現在の16隻から22隻まで増やす予定だという。中国の海洋進出や東アジアを取り巻く情勢変化が起きるなか、安保法制ガイドラインのもとでどう抑止力を行使していくのか、国会では慎重に国民にみえる議論をしてほしいと思う。
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