1月4日はプロレスファンにとって特別な日である。国内最大手の新日本プロレスが1992年以降、ビッグイベント「レッスルキングダム」を東京ドームで毎年開催しているからだ。ファンから「1.4(イッテンヨン)」の愛称で呼ばれる年に1度の看板興行の生命線はチケットの販売枚数。にもかかわらず、昨年からはUstreamやニコニコ動画で有料ライブ配信する取り組みを開始。それ以外にも記者会見をYouTubeで配信したり、主要選手の大半がTwitterを使ったりとネットを駆使している。そんな新日本プロレスのネット戦略を手塚要社長に聞いた――。
新日本プロレスの手塚要社長
新日本プロレスは1980年代に黄金時代と言われたブームを迎えたものの、1990年以降はK-1やPRIDEなどの格闘技人気に押されて低迷。しかしその後、2012年1月に親会社がゲーム会社のユークスからカードゲームのブシロードに変わり、再び復調の兆しを見せている。売上高はブシロード傘下前の11億円から2013年7月期で16億円、2014年7月期は20億円に達する見込みだ。売上増はチケットやグッズ販売、PPV(ペイパービュー)視聴などが寄与している。
復活の要因は選手や試合内容の魅力もさることながら、「以前と大きく変わったのがネットを始めとするメディア戦略」と新日本プロレスの手塚要社長は語る。その言葉通り、ブシロード傘下後は広告宣伝を重視。1.4に向けても、山手線の交通広告、テレビ朝日のTVCM放映、渋谷や新宿、秋葉原、池袋で走らせる宣伝トラックなど、12月上旬から下旬までの期間で「一つの大会としては最高額の広告宣伝費」を投入しているのだという。
ネットについてはFacebookやTwitter、Google+で公式情報を発信したり、YouTubeでは記者会見や試合のダイジェストを配信。新日本プロレスの所属選手に対してはTwitterの利用を推奨し、今では全レスラーの3分の2がアカウントを開設しているのだとか。選手のつぶやきはファンがにやりとするような内容も目立つと、手塚氏は話す。
「メールの返信もままならなかった"野人"こと中西(学)選手もやっていて、この出来事自体がニュースにも取り上げられた。遠征先ホテルの朝食バイキングの写真を『頂くドン』などと投稿している。邪道選手はももクロのことばかりつぶやいていたりと、リング上と違う顔を見せている」
ネット経由のPPVを始めたのは2012年8月から。1.4をライブ配信するのは2014年で2度目だ。興行は来場者を増やしてナンボの世界。ネット配信するのは矛盾しているようにも思えるが、「チケット収入が減るというのは一昔前の考え。見てもらう選択肢を増やすべき」と手塚氏は語る。
「1.4は毎年テレビ朝日で放送している。それを見ればタダだけれども、リアルタイムではないし、すべての試合を見られない。ライブコンテンツを最大限に楽しむのはやはり会場とはいえ、場所や時間の関係で行けない人もいる。売上はまだまだだが、コンテンツが『ワンソース・マルチユース』の時代ではネット経由のPPVは欠かせない。」
ネット活用で意識しているのは「時代に取り残されないこと」と手塚氏。「プロレスはネットのトライアル&エラーがしやすい環境。年間100試合以上しているので、この会場ではこれをやろうと試せる」。試行錯誤の一環として今回の1.4では、Ustreamで従来の日本語と英語、中国語に加えて、スペイン語による実況解説を用意し、主にプロレス文化が根付くメキシコに向けて配信する。「プロレスを見せることだけでなく、見せる方法も追求していきたい」。
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(この記事は、1月4日のTechCrunch Japan「新日本プロレス社長が語るネット戦略、看板興行「1.4」をスペイン語でUst中継する理由」から転載しました)