政治家を信じられず、政治家が権力ばかりに執着し、私たちに必要なものに関心を示さないとき、投票率は下がる傾向にあります。
そう語るのは、スウェーデン大使館員のスヴェン氏。
12月7日㈮は、東京ボランティア市民活動センターのこちらのイベントに登壇しました。ゲストは、スウェーデン大使館の広報部のスヴェン・エストベリ氏と「変えよう選挙制度」会主宰の田中久雄さん。ぼくはこの日は、スヴェン氏の通訳として登壇したのですが、氏の発表後にスウェーデンの若者政策・若者参加という視点でちょっとだけコメントをさせていただきました。
大使館員のスヴェン氏からは、「スウェーデンの選挙」についての報告をしていただきました。許可を得たのでブログ上にて講演内容を共有します。当日使用した、スライドと一緒にどうぞ。
87%の投票率を誇るスウェーデンの選挙
9月9日、スウェーデンの人々は、新たなる国会、20の県議会、そして290の市議会の投票のために投票所へ足を運びました。スウェーデンでは、選挙は4年に一度、9月の第二週の日曜日に開催されます。選挙日までに18歳になったすべてのスウェーデン市民が、選挙で票を投じることが可能です。外国人でも永住権があれば、市の選挙で投票をすることが可能です。
今年の選挙の有権者は、749万5936人でした。そのうち投票した人の割合は、87.17%でした。投票率は、民主主義の健康度を測る指標だといわれています。もしそうであるのならスウェーデンの民主主義は、良好な状況であるといえるでしょう。
この100年間、スウェーデンの投票率は着実に上昇してきました。1911年、スウェーデンの選挙の投票率は57%でした。そのときから投票率は上昇し、参政権はより多くの人々に付与されました。1921年には、スウェーデンで女性も初めて国会の選挙に投票ができるようになりました。当時は、有権者のうち54%が投票をしました。
最も高い投票率だったのは1976年で、91.8%の有権者が、国会選挙で投票をしました。それから、投票率は下降気味でした。今年の投票率は87.17%で、2014年は85.8%でした。スウェーデンの戦後の投票率の平均は86.4%です。
欧州連合の加盟国としてスウェーデンは、欧州議会選挙でも投票をする権利があります。選挙は、5年に一度開催されます。1995年から欧州連合に加盟してから、初めは低かった欧州議会選挙の投票率も着実に上昇してきました。1995年には(欧州議会選挙で)41.5%のスウェーデン人が投票をしました。最近の2014年の欧州議会選挙の投票率は51.1%でした。
スウェーデンの選挙の投票率が高い理由
日本に比べて、スウェーデンの国政選挙における投票率は非常に高いです。選挙投票率に関してはスウェーデンは世界的にもトップレベルです。スウェーデンの投票率が高いのには理由があります。
まず、効率的な選挙制度があることがあげられます。有権者を追跡する制度があるのですが、これが功を奏しています。選挙は比例代表制度で、一院制を採用し、国会、県、そして市議会選挙が同日に開催されます。一般的に、比例代表制度は単独政権が過半数を占める選挙区制度よりも高い投票率となると言われています。また一院制の議会のほうが、二院制などの議会が複数ある制度よりも投票率が高くなるといわれています。
スウェーデンでは選挙は頻繁に実施されず、4年に一度開催されるだけです。選挙が多くあると、投票者は参加するのに疲れてしまうのではないでしょうか。また投票は簡単でなくてはいけません。スウェーデンでは、投票がとても簡単です。期日前投票も実施されます。どこで投票するかも自分で選ぶことが可能です。代理投票は、郵便で受け付けています。このようにして、スウェーデンの選挙制度は投票率を高めるように設計されています。
また重要な点としては、選挙キャンペーンがあるかないかです。もし自分自身の思想に反する選択肢(投票先など)があるとき、その選挙キャンペーンは、多くの人から共感を得ている問題であるかどうかを問わないといけません。個人のレベルにおいては、それぞれの集団によって投票行動は異なります。
若い人の傾向は明らかです。今日、若者の投票率は以前と比べて下がっています。1976年、18歳から22歳の若者の投票率は87パーセントでした。今は、投票率は下がっており72パーセントです。一つ気になるのが、若者が50歳、60歳になったときに投票行動が変わるのかどうかということです。今日、50歳、60歳の方々の投票率は約90%です。
投票率が下がる原因
スウェーデンの選挙への参加に影響を与える要因は他に、教育、所得水準そして、雇用があります。これはいつの時代も確かなことです。所得水準が高い地域では、所得水準が低い地域よりも投票率が高くなる傾向があります。
またまわりの状況が影響を与えることもあります。もし投票している人が多い地域に住んでいれば、あなたが投票する確率も高まるでしょう。
もうひとつ、投票をしたいという意思に影響を与えることのひとつとしてあげられるのは、政治が信じられるかどうか、ということです。政治家を信じられず、政治家が権力ばかりに執着し、私たちに必要なものに関心を示さないとき、投票率は下がる傾向にあります。もし統計が信じるに値するのであれば、スウェーデン人の政治家への信頼度は高いといえます。
スウェーデンはどのようにして女性の政治参加を高めたか
男性と女性の投票行動の差はスウェーデンにはありません。
これは、多くの政治的な課題が「フェミニズム化」したからといえるでしょう。つまり、児童手当や高齢者福祉などの課題がより政治的に重要になってきたからであり、防衛、インフラ整備、税制などの「男性的な」課題の重要度が下がった、ということです。
政治的課題のフェミニズム化は、女性の政治参加にも密接に関連しています。今年、選出された349人の国会議員のうち、46%が女性でした。スウェーデンは、世界で最も女性の国会議員が多い国のひとつです。このようになった理由は多く・複雑ではありますが、ひとつあげられるのが、1994年の選挙で社会民主党政権が政党の(候補者の)投票用紙に「男性一人につき女性を割り当てた」という出来事があげられます。これは「ジッパーモデル」と呼ばれています。
その後、ほとんどの政党で女性の議員が増えましたが、未だに完全に平等ではありません。なぜなら責任の所在は政党にあるからであり、割合を法制化する必要はないからです。
スウェーデン政府は、1990年代から大臣のジェンダーバランスを是正しようと試みてきました。
2014年からこの9月までののステファン・ロヴィーンの政権のジェンダーバランスは、五分五分でした。
さらに投票率をあげるためにできることは何か?
スウェーデンでも未だに13パーセントの人が何かしらの理由で投票をしていません。なぜなのでしょうか。そしてそのために何ができるでしょうか。そこに簡単な処方薬はなく、問題は複雑で様々な方法で解決に取り組まなければなりません。
投票率をあげるための方法のひとつとして、投票を法律によって義務化しようという議論があげられます。世界には、約35カ国で投票が義務化されている国があり、ベルギーやオーストラリアが代表例です。しかしこれらの国でも投票率は下降気味です。
政党が国政に進出しやすくなるように障壁を下げることが、投票率を上げるもう一つの方法です。スウェーデンでは、政党が国政選挙に進出するためには少なくとも4%の得票率が必要です。
もう一つの方法は、投票年齢の制限をさらにさげることです。ある人は、16歳以下への投票権の引き下げを提案しています。ある人は、投票をしやすくすることが投票率向上に繋がると主張します。スウェーデンの選挙制度は、既に投票しやすいですが、インターネットを利用することもあり得るでしょう。今日、ほとんどのスウェーデン人は、インターネットで確定申告をします。それなら、ネット投票をしてもいいのではないでしょうか。
こうすることで、海外に住んでいる人や障がいをもつ人にとっても投票が簡単になります。実際に、インターネットによる投票を試みている国もあります。例えば、エストニアではどこにいてもインターネットで投票をすることができます。
スウェーデン政府は、選挙への関心を高めるために様々な組織を助成することで、投票率を高めようと働きかけています。選挙への参加を促すために政党、学校、市民団体に助成金が拠出されています。
高い投票率を決定づけるのは、政党です。政党は、票を獲得するために政策を提示し、議論をします。有権者の投票をする意欲は、政党のキャンペーンに大きく左右されます。
また、メディアも非常に重要です。メディアは、政党を批判的に評価して議論を掘り下げる重要な役割を担っています。
学校で民主主義を育む方法
学校は、民主主義の価値を育むために重要な役割を担います。スウェーデンの学校は、若者を責任のある市民に育てることを目標にしています。
選挙は、学校の学習指導要領に自然に組み込まれています。教師は、生徒と様々な政治の視点や考え方について議論します。生徒は、学校で自分の考え方を議論するために、自分で情報を集めるように促されます。選挙のある年は、多くの学校が「学校選挙」を開催し、そこに政党を招待し、学校で政党の情報提供をします。
市民団体もまた、重要な役割を担います。とくに、低所得者、若者、移民の多い地域に住む、票を投じない傾向にある人々に働きかけるために重要です。
未だ先行き不透明なスウェーデン国会
スウェーデンの民主主義は力強いです。多くのスウェーデン人は、民主主義のプロセスに参画し、民主主義について熟知しています。ときに、国会レベルの民主主義は混乱をもたらします。それはまさに今スウェーデンで起きていることです。9月9日の選挙後、国会の先行きは不透明です。
2つの主要な政党ブロックが、過半数を取ることができませんでした。スウェーデンの選挙制度のもとで、小政党はそれぞれの位置する「政治的スペクトル」から、より大きいブロックあるいはグループに所属することになっており、選挙前にはそれぞれの政党の立ち位置が明らかになっています。
中道左派ブロックを構成する社会民主党、環境みどりの党、左党は、349議席中、144議席を獲得しました。中道右派ブロックを構成する、穏健党、中央党、キリスト教民主党、そして自由党は、143議席を獲得しました。どちらのブロックにも所属しないスウェーデン民主党は、62議席を獲得しました。
これまで政権を握ってきた社会民主党の得票率は28.3%で、この100年間で最も低い得票率でした。中道右派の穏健党は第二勢力を保持し、19.8%の得票率でした。スウェーデン民主党の得票率は、17.5%にまで拡大しましたが、予想以上ではなく第三の勢力にとどまりました。環境みどりの党は、国会進出のための4%の基準を満たして、国会に議席を残しました。今回は、移民、社会的統合、犯罪、医療、教育をテーマにした選挙キャンペーンが多くを占めましたが、スウェーデン民主党は、スウェーデンが受け入れをした40万人の難民申請者が、スウェーデンの寛大な福祉制度を切り詰めているという主張を曲げませんでした。
9月25日、新政権が樹立したとき、首相のステファン・ロヴィエンは、信任を得られませんでした。彼は、中道右派ブロックと、スウェーデン民主党からの投票が得られなかったのです。社会民主党の党代表は、首相の世話人として、日々の業務をこなすことにとどまり、国会の政治の実権を握ることができなくなってしまいました。連立についての議論は、国会の議長によって主導されます。議長は、新政権を樹立するために誰かを探すという務めがあります。
数週間前、中道右派の穏健党の党首の首相就任は、国会により否決されました。現在、社会民主党と対立政党である中央党と自由党の間で激論が交わされています。環境みどりの党も議論に参加しています。
この議論の行方がどうなるか見守るしかありません。