東京オリンピックでの費用負担について、一歩前進があったようです。
オリンピックの費用負担でもめるのは何もこれが初めてではありません。
中止になった戦前の東京オリンピックでも費用負担でもめたようです。
以下は、1937年3月20日の衆議院予算委員会での、河野一郎衆議院議員の質疑です。
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河野委員 「オリンピック」組織の委員会、「オリンピック」開催関係の委員会において、牛塚東京市長の態度が実に唾棄すべきものがある。
御承知の通り「オリンピック」開催にあたっては大体政府が五百万円、東京市が五百万円民間から五百万円、千五百万円の金を持ち寄って開催しよう、これは大雑把な見方であります。
ところが五百万円を自分が出すのであるからという訳であるかどうかは知らぬけれども、牛塚氏の委員会における所の態度の如きは、自分が金を出すんだから威張っても宜しんだ、無理を言うても宜しんだというような態度で、事ごとにこの組織委員会を打ち壊している。
実に見下げ果てた態度をとっている。
甚だ私遺憾千万に考えるが、文部当局は何とお考えになるか御答弁を願いたい。
林国務大臣 その事実についてはよく私は知りませぬから、一つ政府委員からお答えさせます。
河野委員 宜しゅうございます。
河原政府委員 組織委員会の議論が激しいということにつきまして、この前も河野さんからお話がございましたが、多少議論のあることは事実であります。
しかし結局は円満に遂行したい、こういうつもりで強くも言わるるんじゃないかと思いまするが、しかし議事の進行が多少思うように捗々しくないことも事実であります。
私ら、微力を尽くして、十分円満に遂行していきたい、こう考えております。
河野委員 申し上げるまでもなく、「スポーツ」精神と金とはおよそ縁の遠いものであります。
金や財力というようなものを「スポーツ」精神の中に絡めて、色々のものを考える位汚いことはない。
自分が金持ちであるから威張る、金を出すからこの程度の権利は主張して宜しいというような観念を持つことは、最も強く排撃をせなければならぬのであります。
然るに今文部政府委員は申されまするけれども、もう少し大胆にこの機会にお述べになったらどうか。
牛塚氏が事ごとに他の組織委員が決めたことを、東京市は反対だ、そういうことは東京市は反対だということで、五百万円を笠に着て、事ごとに議事の進行を阻害している、他の委員が決めたものまで打ち壊しているという、その態度の唾棄すべきことは、天下万人の認むる所である。
政府はこれを監督しなければ、今にも抜き差しならないようなことになって――ある組織委員の如きは、東京市会の選挙が済んで、市長が変わるまで待つよりほか仕方がなかろうと、こういっておる。
幸いに立派な市長が次に出来れば宜しいけれども、また同様な市長が出来たらば、五百万円の問題に絡んで、この問題は二進も三進も行かなくなると私は考える。
政府はこの「オリンピック」組織委員会に向かって如何なる監督権を発動し、如何なる態度を以て臨むつもりであるか。
現実の問題は別として、今後不適正な委員会の進行というようなことがあった場合に、政府は如何なる見地からこれを監督し、これを是正するか、その方法について具体的に御説明を願いたいと思います
河原政府委員 委員会で議論のあるのは当然ですけれども、しかし議論もある程度がありまするから、ある程度以上に達するような場合に於きましては、政府といたしましても相当強く委員会を導いて行きたい、こういう風に考えております。
河野委員 なるべく具体的なことは言うまいと思うんでありますけれども、委員会は議論があることは当たり前だとか何とか言うが、それならば承るが、現在の組織委員会で議論しているようなことは、ものをうまく決めていくために必要な程度の議論とお認めになるか、牛塚氏の態度を妥当なる態度とお認めになるかということまで承らなければなるまいと思う。
しかしそれはさて置き、今の政府委員の御意見に依りますると、力強く導いて行きたいと言うが、如何なる方法によってこれを力強く導くか。
補助金、助成金を政府が三分の一負担する。
政府指導の下に開催する、およそ各種の事業を政府が補助奨励費を出してやる以上は、それに対しては相当の内規にしろ、何らか拠るべき基準があると私は考える。
しかしこの「オリンピック」に対する補助金は今後三か年間にわたって継続費で出ることと考えるけれども、如何なる方法でこの使途の内容、それを監督するに如何なる点から監督するかということを具体的に御説明願いたいと思います。
河原政府委員 なにぶん現在のところに於きましては、組織委員会の事務的機構の案がようやくまとまった程度でありまするから、現在のところで仮に補助金の御協賛を願いましても、直ぐ交付というようなことは考えておりませぬ。
もし事務局の機構が十分整いまして、監督官庁としても、これなら十分事務を執行していくことが出来るという見込みがつきました後において、補助金も交付し、仕事も円満にやらせて行きたい、こういう風に考えております。
河野委員 私はそういう消極的なものではなかろうと思う。
「オリンピック」開催の組織委員会がうまく出来て、上手に仕事が運ぶようなら補助金を出してやるのだ、うまく行かなければ出さなくても宜しいのだ、そういうような態度で文部省がおられるということは聞き捨てならぬ。
そんなことで――うまくやれば出してやるが、うまくやらなければ出さなくて宜しいのだというような程度で、この予算をお組みになったのですか。
その程度の認識で、この予算を我々に協賛を要求しておられるのですか。
まずこの予算の七十五万円の算出の基礎から承りましょう。
どういう計算で七十五万という数字を出したか承りたい。
河原政府委員 先ほど河野さんから仰いましたように、大体千五百万円の三分の一を国で負担する、こういう計画の下に、五百万円の予算を要求いたしたのでありますが、御承知のように、冬季の「オリンピック」大会の開催地がまだ決定しない関係上、多少の削減を受けまして、四百三十万円の補助をするに大蔵省と協議が成立しまして、これを大体四か年に割って交付するということで、追加予算に計上せられてあるのであります。
七十五万円というのは、大体その四か年に分割支給する初年度の分として計上されたのであります。
正確に七十五万円の内容がどうであるかということは、はっきり申し上げられないのでありますが、要するに四百三十万円を大体四か年に平均して出すということで、七十五万円の予算を計上してあるのであります。
河野委員 只今の御説明によると四百三十万円を割って出したという。
そういうことなら何故これを継続費としてお出しにならぬかということが一点、さらに大体五百万円と先ほど私は申し上げたが、それが冬季競技の関係で四百三十万円に減ったという、その四百三十万円という数字は、誰がどこで相談をしたのであるか。
今文部当局が言われるように、うまくやれば出してやるのだ、うまくやらなければ出してやらないのだという程度の認識でおられるとすれば、四百三十万円は誰がどこで相談したのでありますか。
そういう補助金を、どういう団体が、どういう形式で請求してきたのであるか、その請求してきた団体、請求した条件というものに妥当を欠いている点はないか、今までの経過においては遺憾の点はないか、これをお尋ねしたいと思います。
河原政府委員 四百三十万円というのは、先ほど河野さんからお話のありましたような千五百万円という大体の総額を決めまして、それを大体国が三分の一負担する、そういうような計算の下に五百万円というものが決まりましたので、別にその四百三十万という金額に対して、どの団体が請求したというものではないのであります。
河野委員 一体簡単に四百三十万円と言われますけれども、これをもし農村へでも使う金だったら大変なものです。
四百三十万円の金を百姓にくれてやるから仕事をしろと言ったら、これは莫大なものです。
それを五百万が冬季競技場がどこかへ行ったから四百三十万円になったとか、簡単に金を言われますけれども、今の日本の国情において、この金はそんな簡単なものではない。
しかも競技場を最近に至って神宮を改造するとかいうような意見を決めたらば、またそれをぐずぐず言うている者がある。
どこへどういう風な施設をして、どうするというような基礎もなしに、ただ目の子算で補助金を組むというのは、少し失当ではありませぬか。
大体全国の最も必要欠くべからざる各種の施設に対して補助金を請求します際には、地方の団体が決議するとか、府県が決議するとか、その費用を正確に定めて、その事業を詳細に調べて、そうして間違いのない所で政府がようやくこれを承認する。
おおよそお役所仕事はそういう経路を取っている。
然るにこの費目はこと「オリンピック」に関する費目とは言え、只今のような御認識でこの金が取れておるとは私は考えない。
恐らく只今文部次官がこの予算総会でお説きになるような説明で、大蔵省が査定する筈がない。
大蔵省に行って説明した通りのことをなぜここで言えないか。
大蔵省で金をもらうときの説明をここでせずして、我々に只今のようなごまかしの答弁をして、了解を得ようなどと考えることは、議会政治否認である。
そういう心底を最も我々は排撃するのである。
なぜもう少し明確に説明なさらぬか。
この金はこういう性質でこれこれの予算を取る、したがってこの団体に対してはこういう風に政府が補助して、こういう方針に導くということを、積極的に勇敢になぜ御説明にならぬか。
只今の御説明のような、うまくやれば補助金を出す、うまくやらなければ出さないのだというようなことで、世界の「オリンピック」参加国に対して申し訳が立ちますか。
日本政府はその程度の認識しか持っておらぬ、うまいことを言って騙して日本に開催国を持って行った、その後における政府の態度はすこぶる怠慢だということになる。
国民は一致してこの開催を歓迎している。
政府にもっと力強く、厳正な立場から明朗にこの開催のために努力してもらうことを熱望している。
然るに文部大臣は何も物は分からぬ。
その下にいる政府委員がいい加減にごまかして通ろうという、おおよそ「スポーツ」はそんなものではない。
(2017年5月12日「衆議院議員 河野太郎公式サイト」より転載)