「ウェブで学ぶ ―― オープンエデュケーションと知の革命」(梅田望夫・飯吉透、ちくま新書)という本がある。同書では、現在全世界的に起こり始めているEdTech革命(テクノロジーで教育を良くする動き)に先駆けて、数々の教育サービス・事例を紹介している。
「ウェブ進化論」著者の梅田氏と、当時MITでオープンエデュケーションを推進していた飯吉氏の対談形式で構成される同書の中では、MIT OpenCourseWare、iTunes Uといった、「人生を切り開くための道具」としてのウェブ教育サービスや、P2P Universityなどにおける、大学における全く新しいビジネスモデルの模索の例などが精緻に分析されている。また、そういった全世界的な教育革命が途上国・先進国においてもたらす職のあり方の変容、そして日本教育における様々な変革の可能性に関しても数多くの重要な示唆が与えられている。
同書出版から2年半。当時まだ局地的、散発的にしか存在していなかった事象が、いよいよ大きなトレンドとしてベロシティを増してきている。そんな中、弊社Quipperも、グローバルEdTechプレーヤーの一員として、様々な試みを行なっている。最高の学習サービスを目指して試行錯誤する中、EdTechの未来を考える際に示唆に富む発見が日々生まれている。
一例を紹介しよう。Quipperは「Quipper Courses」という、タイの中高生向けドリル型問題集モバイルアプリを提供している。カリキュラム完全準拠の主要5科目(タイ語、数学、英語、社会、理科)高品質コンテンツを、現地の教師を100人くらいの協力のもと短期間で作り上げ、タイの高校生1万人以上に使ってもらっている。利用率、継続率、そして学力を重要指標として据え置き、その数字を改善するために日々様々なチューニング施策を行なっているのだが、その過程で多くのことがわかってきている。
例えば、学習サービスのUI・デザインのあり方についてである。Quipper Coursesを用いて、シンプルでツール的なアプリと、ゲーム要素と子供向けデザインを付加したアプリとの間で精緻なA/Bテストを行った結果、日本では子供向け過ぎるきらいがあるテイストのアプリが、タイの高校生には歓迎された。年齢・学年、そしてひいては国民性に応じたサービスの出し分けが、前述の重要指標を高めるために必要になるのかもしれない。一種のアダプティヴラーニングである。
また、同様のトライアルをベトナムでも行なっているのだが、タイと比較した利用率、継続率が圧倒的に高い。ベトナムでは、そもそも代替学習サービス(塾、参考書などを含む)がタイに比べて少なく、モバイルアプリが主要学習方法の一つとして認知されつつあるのでは、という仮説を持ちつつ、ユーザーの声に耳を傾けているところだ。このような、国によって大きく異なるモバイル学習に対する感度のあり方も非常に興味深い。
この他にも、数多くの学習サービスとしてのノウハウ、知見が日々蓄積されている。重要なのは、サービス利用ログを徹底して収集し、またユーザーインタビューやその他様々なユーザーリサーチを行いながら、よりよいサービスを作るためにチューニングを続けることだろう。これはQuipperのみならず、全てのEdTechサービスに当てはまる。
アダプティヴラーニング、教育のゲーミフィケーション・・・など、エキサイティングなテーマが多数存在するEdTech領域であるが、本連載では、世界各地における最先端教育サービスや、Quipperの活動を通した様々な事例を紹介しながら、教育の未来について考えていきたい。