このたびの財務省の福田淳一事務次官のセクシュアル・ハラスメント問題で報道されている、記者とのやりとりの詳細を知るにつけ、福田次官のセクハラ行為自体の問題の深刻さもさることながら、本来国民のものである財務省の様々な行政情報を、自身への性的饗応と引き換えに記者に渡していたという行為に、「日本のメルトダウン」をまた見る思いがする。「森友」や「加計」といった一連の問題と同様、言わば「国家の財産の私物化」である。
こうした、民主主義国家ではあってはならない縁故主義を含む私物化は、国民が政府に不信感を募らせるだけでなく、海外では日本への大きなイメージダウンにもつながる。それこそ国益を損なう行為である。
そもそもセクハラは、扱うのが非常に難しい問題だ。
声をあげた被害者が特定され、加害者につらなる人たちに告発した意図などが邪推されたり、事実と異なる噂を言いふらされたりするなどの嫌がらせを受け、ひどい場合は退職勧奨を受けるなどして、組織を離れざるをえなくなることも相当程度ある。
一方で、こうした問題にどう対処するかが、組織の成熟度をはかる物差しにもなりうる。その点で言うと、日本で最も「優秀」な人が集まっている財務省の一連の対処に関して、その程度の低さはゆゆしき事態である。
まず、財務省トップの財務大臣は、基本動作から誤っている。
セクハラを許さないという姿勢を見せず、事実を認めようとせず、むしろなかったことにしたいという姿勢を示してしまった。そんな組織が調査をしても、その調査の信用性や実効性には大いに疑問が残る。
加えて、同省は、被害者である女性記者にのみ協力を呼びかけているが、被害者だけ名乗り出て欲しいという調査手法は、あぶり出し目的、あるいは名乗り出る人がいなかった場合、被害をなかったものにしたいという意図をもってなされたと評価されてもやむを得ないと思われる。真相を解明したいのなら、男女問わずセクハラ行為を目撃した者からの情報も歓迎するのが普通だ。
財務省から委託を受けた法律事務所も、同省の顧問を務める弁護士事務所であることから、同省の望む結論が出るように調査してしまうだろうと思われ、そして、名乗り出たことが同省に知られると嫌がらせを受けることを恐れる報道各社や被害者が名乗り出るはずがない。
今回の件に限らず、官房長官の記者会見で、特定の記者を指名しようとしない、そのことに記者クラブもそれを止めるべく対応した形跡がない昨今では、その心配はもっともである。
では、どういう対処方法が良かったのだろうか。
同省のトップがセクハラを許さないという断固とした態度を示すことが、まず必要だ。
それから、被害者を守ることを最優先とし、速やかに被害者を保護し、情報の取り扱いや被害者の心情に最大限配慮しつつ、事実関係を確認し、加害者への処罰や関係者の異動などを行うべきだった。
今回のように財務省の調査自体が信頼できないという事情がある場合、第三者委員会方式による調査も一案である。
報告する対象は財務省ではなくステークホルダーである国民なので、調査の独立性も担保できる。むろん、形式的な第三者委員会であってはならず、例えば、日弁連のガイドラインでは顧問事務所の弁護士は相応しくないとされている。
最後に今回の事件については、マスコミにも猛省を促したい。
単に、財務省や福田事務次官の対応を批判するだけでは、両刃の剣である。なぜなら、事務次官は、女性記者に暴言を吐いても大丈夫という慢心があったのだろうと思われるが、その慢心をもたらしたのはマスコミだからだ。
今回の告発は、自身が勤めるマスコミ社に対してではなく、週刊新潮といういわば外部通報という形でなされている。社内への通報、すなわち内部告発について対応や制度を万全にしなければならない理由は、内部告発で社内が動かなかった場合に、外部通報されてしまうからである。
セクハラを我慢してでも情報を取って来るように、と求める暗黙の文化がマスコミに蔓延していないだろうか。取引先からのセクハラは社内のセクハラより対処が難しいが、このような職場で、女性がどれだけ尊厳を傷つけられるか。仕事で成果をあげるために自身の尊厳を捨て去らなければならないのはあまりに非人間的である。
私自身、会社員時代、酒の席で、取引先の重役から性的な誘いを受けたことがあり、怒るに怒れなかったところ、同席していた取引先社員と同じ会社の社員が庇ってくれ、一緒になって憤り、事態も気分も本当に救われた経験がある。無視されたり、逆に助長されたりしたらどれほど傷ついていたことか。マスコミの世界で、そのような被害者がいるのではないかと思うと胸が痛む。
マスコミは、セクハラには毅然とした態度を取ることを表明し、内部告発を集め、社内外に対し厳正な処置をすべきである。このような動きを、マスコミ全体として行うのはどうか。そのための調査であれば、私自身も大いに協力したいし、このような価値観を共有してくれる全国の弁護士の仲間も喜んで協力してくれるだろうと信じる。
※4月18日付Facebookの投稿を加筆・編集して転載。