新国立競技場のコンペをめぐる議論なのですが、
日本人は生真面目なので、
国際コンペで1位になったにもかかわらず見直ししていいのか、、
といった意見もあるようなんですが、
全然いいんです!
むしろ建築家同士の間での業界事情で決まった提案が、社会要請や環境から受け取る人々の感性から、まったく乖離してしまっている場合に、市民や関係者の間で再検討された結果、
コンペ案を却下して見直すのが世界的トレンドなんです。
今回の新国立競技場問題について、
建築家として最初に問題提起された槇文彦さんのニュースがありました。
グラウンド・ゼロにビル完成
建築家の槇文彦さん設計9・11同時多発テロで崩壊したニューヨークの世界貿易センター(WTC)ビル跡地「グラウンド・ゼロ」で事件後初めて、ビルが完成した。日本人建築家の槇文彦さん(85)が設計した「4WTC」。13日の式典で、槇さんは「歴史的な日であり、建築家として幸せ」と語った。
72階建て、高さ298メートルの4WTCは、跡地に建てられる複数のビルの一つで、追悼施設のメモリアルパークに面している。オフィスのほか、市庁舎や地元港湾局が入居する予定で、式典にはマイケル・ブルームバーグ市長も参加した。
朝日新聞 11月14日
それについて、一部ではザハさんに反対する槇さんもデカい建物やってんじゃねえか、、
とか言ったやっかみもあったようなんですが、
実はこのビルは当初の国際コンペによる一位採用案が全然ダメだったため、
提案却下、見直しになった結果選ばれた設計案のひとつなんです。
その、コンペで1位になった案は、
案の定、脱構築主義を掲げるダニエル・リベスキンドでした。
ダニエル案もこの写真で見る遠目のプロポーションは自由の女神のシルエットを意識したものでなかなかなんです。
しかしながら、全体構成とか断面形状とか
近い目での外観とか、ああ
人の目線でみたときの雰囲気とか、あああ
ほんと、辛抱きかなかったんですかねえ、
ヒャッハーと、自己表現に走りました。
この場所がどういう場所であったかは、
世界中のみなさんの記憶に新しいところです。
おおぜい、人も亡くなっているのに
911の事故現場のまさにその場所で、
脱構築とか自称新しい空間の秩序とかいうグチャグチャのボリュームとかやって
それを選んだ審査員も審査員なんですが、
もう、ダニエル・リベスキンドは建築家としてだけじゃなく、
人としてどうかと思いました。
ダニエルは、もう一度ギャラリーで模型とかドローイングだけやってる
アンビルドに戻してあげたほうが本人のためにもいいと思います。
ダニエル・リベスキンドが現実の仕事できるように手を貸ししたのも確か、
磯崎さんじゃなかったかなあ。
結果、1位案でしたが開発者や地元の団体の意見により却下。
一応、大人の対応として警備や保安上の管理が難しいという理由にしてダニエル案を修正、
再度設計者を選び直し、その結果6本の高層ビルを再設計、その中のワールドトレードセンター4が槇さんの設計によるものなのです。
そもそも、元のワールドトレードセンターは富山県からの日系移民の建築家
ミノル・ヤマサキの手になるものだったんですけどね。
私はミノル・ヤマサキの伝記を昔読んだことがありますが、自由の国アメリカといえども日系二世で、建築家としてあそこまでの仕事をこなすには相当の苦労と努力の末なのです。
正直、槇さんデザインのビルは未来的でもないし、新たな空間秩序を示すとか、都市の流動性を表現とか、大げさな理論はありません。
また、俺が!俺が!俺が!WTC4を設計デザインしたんだぞ!とかそんな声高なメッセージもない。
ニューヨークのスカイスクレーパーの列のなかにひっそりと実に淡々と出来上がったものであります。
そういった感慨も含めて、6本のビルのうち槇文彦さんが手がけたものの一つが、マンハッタンに再度立ち上がったことは日本人としても、もっと誇らしい気持ちになっていいでしょう。
しかし、そのような自慢話はない。ドヤはない。
そもそも、建築家が己の作品を自画自賛するほどみっともないことはないんです。
式典に出席した槙さんは、テロ犠牲者を悼む記念公園を見渡せるロビーで、「ニューヨークにとって大事な建物。ここに来て、同時テロを思い出してほしい」と話したそうです。
さて、こんな話もあります。
また、スイスのバーゼルでもこの建物の建て替えコンペがあり
ザハがコンペで下記の案で一位を獲得したのですが
市民の60%をも超える反対により、
ザハ案は却下されコンペ無効になっています。
2007年には新しいつもりのデザインだったんでしょうが、
上記のような半透明パネルを有機的につないだデザインの店舗なんかは
上海とか、東京なら渋谷あたりに既に建ってて消費されてます。
というところで、なんかダニエルのこと考えてると、
ジワーンっと頭に来たので続きはまたあとで加筆します。
で、件のアゼルバイジャンにあるザハのイカ建築についてなのですが、
工事中の写真がありました。
なるほど、、イカの部分はこうなっていたのか
全体のうねる形状をうまく合理的に実現させています。
ちょうど鉄骨のスペースフレームが青く塗られていますので、
この写真はわかりやすいですね。
その方法は、鉛直荷重を受ける主体構造のコンクリート鉄骨部分と、
建築物全体を覆う三次元フレームの二次構造を切り分けているのです。
これは、構造システムとしては明快ですね。
このスペースフレームというのは、屋根を軽くするにはもってこいなんです。
最近では、こうした駐車場の屋根とかで採用されていますが
元々、1970年の大阪万博のお祭り広場の大屋根で大規模なスペーストラス構造が初めて採用されました。
ザハの場合、このスペーストラスのフレームを有限要素法という航空機の構造で採用されるような手法で三次元構造解析して使っていると思われます。
ただ、このスペースフレームは、ちょうど立体凧のように自分の形状を保つ程度にはまあまあ強いのですが、あまり重たい荷重が載せられないんですね。
また、自重だけでなく熱で鉄材はけっこう膨張しますから、パネル同士は隙間を設けて伸縮に対応するようにしていると思います。
それで、全体にワイヤーフレームのCGのようなラインが出ているのです。
そのとき、三次元の滑らかな外皮を作り出すために、FRPとかGERPという船舶とか給水タンクなどで採用されるガラス繊維強化プラスティックの薄いパネルで仕上げているようなんです。
工事中の写真でも徐々にパネルが張られていく様子がわかりますね。
ところが!なんです。
このFRPやGERPの最大の弱点がありまして、、、
ガラス繊維を混ぜて固めたプラスティックということなので、、、
燃えます。
完成1年ほどのちのことですが
こんな感じに、、、イカが焦げています。
けっこうコンガリと
イカ焼き状態になってしまってます。
このFRPとかGFRPのパネル素材は
日本の建築法規では構造部にも外装部にも使えない素材なんです。
そのためには同様の形状加工が可能で燃えないガラス繊維強化コンクリートとかを採用しなければならないと思うのですが、
外装材としての荷重が増大するのと、プラスティックに比べて靱性(しなやかさ)に欠ける面があるため、膨張変形への追随とかを含め材料工学の分野での検討も必要になり、そのあたりのコストバランスをどうするかも課題となるでしょう。
そこらあたりも施工費の増大を招いている要因の一つだと思われます。
(2013年11月18日「建築エコノミスト 森山のブログ」より転載)