今年アメリカでは中間選挙があります。その関係で、選挙の争点になるであろうと思われる問題に関する記事を最近多く目にします。
格差問題はその中でも注目度の高い問題です。
今日のニューヨーク・タイムズの一面トップ記事は「貧困の姿が変化した」と報じています。
「マイカーがあり、液晶テレビも持っており、ネット環境もある......それなのに貧困と言えるのか?」
これが、その記事が発する問いです。答えはYES。
過去10年の間にテレビやパソコンなどの価格は、ものすごく下がりました。
その一方で、大学教育、医療、チャイルドケアなどのコストは上昇しました。
大学教育やチャイルドケアは、貧困から抜け出すために必要なサービスです。だからそれらが高すぎて受けられない家庭は、永久に貧困から抜け出せないのです。
よく「アメリカはチャンスの国だ」と言われます。恵まれない家庭に生まれても、本人の才覚と努力で克服できる......このような経済的移動可能性(economic mobility)をちゃんと保証することは、アメリカ流民主主義の根幹にかかわる問題です。
もしそれが失われると、階級制度(class system)になってしまいます。
労働問題や経済的移動可能性の問題に関してはサンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー調査部次長の研究が有名です。この女性は日本の機関投資家がサンフランシスコ連銀を訪問した際、長く窓口を務めた方ですので、Market Hackの読者の中にも逢った人が多いと思います。
下は彼女の経済的移動可能性に関する研究発表の動画です。
(Source:SF FRB)
ここで彼女が主張していることは:
アメリカの所得階層を五段階に分けると、中間、つまりミドルクラスの人たち(階層2から階層4)の経済的移動可能性は比較的高い。逆に貧困層はなかなか上に上がれず、固定してしまっている。また裕福層もなかなかズリ落ちない。
ただ大学へ進学するかどうか? という問題が、経済的移動可能性を決める最大の要因となっていて、貧困層出身者でも大学へ行けば上の階層に上がれる可能性はすごく高まる。逆に親が裕福でも自分が大学に行かなければ、富を失うのは早い......
ということです。
ここで問題になるのは大学教育を受けるコストが、いまどんどん上がっているということです。
すると「大学の授業料が高すぎて、子供を大学に行かすことが出来ない」という問題が、個人の能力や努力に応じて上がって行けることを前提にした、アメリカ社会のシステムそのものを蝕み、アメリカが腐り始める原因になりかねないのです。
(2014年5月1日「Market Hack」より転載)