スコットランドの住民投票が9月18日に迫っています。もしスコットランドの市民が独立にYESを表明した場合、世界の金融センターとしてのロンドンの地位はどうなってしまうのでしょうか?
そこでまず英国にとって金融サービスがいかに大切かを確認しておきたいと思います。下はGDPに占める金融サービス業の比率です。
2013年の時点で英国の金融サービス業がGDPに占める割合は6.8%でした。これはピークの9.7%から下がっていますが、それはリーマンショックの影響です。比率が下がったとはいえ、主要先進国の中ではいちばん金融サービス業への依存度が高いです。
実際、ロンドンの金融サービス業は英国国内で必要とされる金融サービス業のキャパシティを超えた「過剰設備」の状態となっています。言い換えれば、金融サービスを輸出することを前提にした構造になっているということです。
これを確認するために先ず輸出に占めるサービスの割合を見ます。
イギリスはサービス輸出がダントツに多いことがわかります。
次にそのサービス輸出の中で金融業が占める割合を見ます。
イギリスの場合、抜きん出て金融比率が高いことがわかります。
伝統的資産の運用残高は下のグラフのようになっています。
店頭デリバティブの取引シェアでは英国がナンバーワンです。
為替取引のシェアでもロンドンは最大です。
第二次大戦後の1948年、英国の工業(石油・ガス、製造業、電力など)はGDPの41%を占めていました。しかし今日ではそれは僅か14%に縮小しています。製造業に限って言えば、現在、GDPに占める割合は10%であり、これは日本の19%の約半分です。
また英国は「箱物」などに対する公共投資がGDPに占める割合が低いことで知られています。
それは北海油田からの政府歳入が減っても、その影響は比較的軽微であることを示唆しています。
スコットランドが独立しても、それがロンドンの金融サービスの人材プールに悪影響を及ぼすとは考えにくいです。地下資源は取り尽くせば枯渇しますが、金融サービスは枯渇しません。
スコットランドが離れて行った場合、英国自体もEUから離れてゆくと予想する向きが多いです。これは確かにそうかもしれません。しかし仮に英国がEUを離脱した場合でも、それでロンドンの金融センターの地位が脅かされると考えるのは早計だと思います。
ビッグバンを通じて英国の金融立国化を強力に推進したマーガレット・サッチャーは、EU懐疑派でブリュッセルからの支配に対しブルドッグのように噛み付きました。その理由は、楽市楽座的な自由な空気を守らなければ高収入を狙う、良い人材が集められないからです。
その点、EUはリーマンショック以降、投資銀行への規制を強化する方針を打ち出しています。英国は、これまでもずっとそうであったように、そういう規制強化に抵抗する動きを見せています。
スコットランドが離脱すると短期的にはポンド、イギリス株などは大混乱になると予想されますが、長期で考えれば先細りの北海油田を取るか、それとも英国のコア・コンピタンスとなっている金融サービスの独立性を取るか? という二者択一を迫られたら、答えは自ずと明らかです。
(文責:広瀬隆雄、Editor in Chief、Market Hack)
【お知らせ】
Market HackのFacebookページに「いいね」することで最新記事をサブスクライブすることができます。
これとは別にMarket Hack編集長、広瀬隆雄の個人のFacebookページもあります。こちらはお友達申請を出して頂ければすぐ承認します。(但し本名を使っている人のみ)
相場のこまごまとした材料のアップデートはMarket HackのFacebookページの方で行って行きたいと考えています。
(2014年9月15日「Market Hack」より転載)