ナスダックにデビューしたウェアラブル・キャプチャ・デバイスのGoPro(ゴープロ、ティッカーシンボル:GPRO)は、クレイトン・クリステンセンが『イノベーションのジレンマ』で論じた、破壊的(disruptive)イノベーションに相当すると思います。
クリステンセンが考える破壊的イノベーションとは、既存のテクノロジーより性能面で優れたものでは決してなく、大胆に不必要なものを「捨てる」ことで、いままでとは違うソロバン勘定の下で新しいユーザーを獲得するようなイノベーションを指します。
例えばウォークマンは音楽を再生する装置なのにスピーカーを内蔵していないという、一見すれば決定的に重要なものが「捨てられて」いました。その代りにイヤホンで他人に迷惑をかけずに何処でも音楽が楽しめるという自由を手に入れたわけです。
GoProの場合「デジカメなのにファインダー(のぞき窓)が無い」という、これまでのカメラに決定的に重要であると考えられていたものが、やはり「捨て去られている」わけです。それまでプロのカメラマンの協力を必要としたエキサイティングなアクション動画が、別にカメラに詳しくないアスリートにも撮れるということで、これも自由を手に入れた例と言えます。
GoProの外観は、どこか垢抜けしない、あたかも試作品のような、完成度の低いデザインです。それは格好ばかり気にするどこかの国の家電製品と並べた場合、異彩を放っているし、独自のDNAを感じさせます。
同社がこれまでに販売したGoProは380万台であり、デジカメが年間9,000万台売れていることを考えると、まだ需要の氷山の一角をちょっと掠めた程度と言えます。
今年はウェアラブル元年とでも言うべき重要な転換点にハイテク業界がさしかかっており、これまでのスマホやタブレットばかりに依存する新製品ロードマップから、無数のフォームファクター(=製品のデザインのこと)、そして無限のバリエーションへとデバイスの形状が拡散する、大事な年になっています。
もちろん、新しいフォームファクターの大半は消費者に受け入れられず、すぐに消えてゆくと思います。でもウェアラブルへの移行は、もう抗せない時代の流れであり、ちょうど「ノートパソコンからスマホへ」という流れに乗れなかったインテルやマイクロソフトがハイテク業界で大きな地盤沈下を見たのと同様、「スマホからウェアラブル、IoT(インターネット・オブ・シングス)へ」という流れに乗り遅れれば、今、スマホで大成功を収めている企業も安泰ではないと思います。
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(2014年6月28日「Market Hack」より転載)