中国政府の断固とした株式市場買い支え宣言にもかかわらず中国株は下落を続けています。
今回の下げがこれまでと違うのは、投資家の間に(ひょっとして全知全能の神のような中国政府にも、出来ない事はあるのではないか?)という気持ちが芽生えたことです。
つまり国民や投資家からの絶大な信頼が失われたということです。
なお中国株は2008年にも下げているけれど、あのときは原因がサブプライム・バブルからリーマンショックへとつながる外的要因だったので、中国政府のふがいなさを嘆く声はありませんでした。
今回は上海市場のバブルを放置したのが原因なので、中国政府は責任を他へなすりつけることは出来ません。
上海市場は、世界全体の文脈から言えば小さい市場(=MSCIワールド・インデックスの3%以下)なので、それ自体は痛くも痒くもありません。欧米の金融機関に対するダメージも無いに等しいです。
しかし......
問題はそこではなくて、この信頼の喪失が、中国の不動産市場に与える影響です。
中国の不動産市場は、これまでシャドー・バンキングなどでなんとかやりくりし、バブルの崩壊を未然に防いできました。全くキャッシュフローを生んでいない物件がゴロゴロしているのに、投資家が浮足立たなかった理由は(政府がなんとかしてくれるだろう)という信頼があったからです。
しかし、今回、中国政府が株式市場暴落を防げなかったのを目の当たりにしたことで(不動産の方は、大丈夫だろうか?)という心の揺らぎが出ています。
実は日本も1990年に株式市場が崩落した際、同様のことが議論されました。あのときは「土地神話」がまだ生きていたので、「いや、株式市場は暴落しても、日本は国土が狭い。だから土地の値段は、下がらない」という主張が、結構ありました。
事実、日本の地価がズルズル落ち始めたのは、株式市場が下げたかなり後でした。
今回の中国市場の下げは、日経平均で三カ月かかった下げ幅を、一か月前後で達成してしまっています。つまり今回の方が凶暴な初速だということ。
もし中国の不動産バブルが崩壊したら、その影響は上海株式市場の比ではありません。リーマンショック以降、形成されてきた、「ニュー・ノーマル」という世界秩序が、またガラガラと変わるくらい、大きなインパクトになるかも知れません。
僕はアルマゲドン論者では決してないけれど、いま自分の眼前に展開している事象が、1990年の日本とあまりに酷似しているので、身構えずには居られないのです。
それから僕はネトウヨとかチャイナ・ヘイターではないので(ザマミロ!)なんて思っていません。中国の個人投資家のひとたちが全財産を吹っ飛ばしているのを見るのは辛いです。
中国経済がくしゃみをすると、日本経済は寝込むに決まっています。その意味で我々日本の未来は暗いです。
その不吉な予兆に戦慄をおぼえています。
(2015年7月8日「Market Hack」より転載)