今や、「働き方」を意識しない企業はない。なかでも、出産や育児に関する制度や環境は重要な課題の1つで、住友商事もその整備に取り組んでいる。その取り組みは、当事者である女性社員の目にはどう映っているのか? 海外の発電所運営に従事する尾山希は、産休・育休から復職して1か月余り(取材当時)。総合商社というタフな業界に勤め、海外駐在も経験したキャリアウーマンは、育児と仕事を両立する日々のなかで、何を感じているのか、話を聞いた。
仕事と育児。どちらとも向き合う日々。
「正直なところ、今も不安でいっぱいではあります(笑)」
そう言って笑う彼女は、2016年12月に、1年4ヵ月の出産・育児休職から復職したばかりだ。現在は短時間勤務制度を活用し、フルタイムより2時間短い6時間15分(休憩込)勤務。朝9時45分に出社し、午後4時に会社を出る。その間、子どもはオフィス内の保育所に預けている。この保育所は、住友商事グループ社員専用の施設で、一般の保育所に入所できなかった際に利用できる。
「保育所が見つからないかも、という心配をせずに済んだのは大きかったですね。育児と仕事の両立は初めての経験なので、時短勤務からペースを掴んでいけるのはありがたいです」
復職後のポジションは、休職前と同じ事業部の別チーム。業務量は勤務時間に合わせ減ったものの、内容はほとんど変わっておらず、仕事にやりがいを感じている。
「仕事も育児も、どちらか一方だけでも大変なことですから、両立しようとすることで、お互いに皺寄せが来ることもあります。それでも、仕事には仕事でしか得られない喜びがあり、育児には育児でしか得られない喜びがあると思っています。どちらかを諦めるのではなく、両方を追い求めていけることは幸せなことですね」
休職前と同じ海外関連業務。だけどすべてが同じじゃない
入社前から海外に関わる仕事に惹かれていた。4年目に現在の電力インフラ事業本部に異動してからは、海外の発電所運営・開発に関わり続けてきた。現在も、アブダビ(アラブ首長国連邦)など、海外とのやりとりは多い。そこに、時短勤務の影響が生じることもある。時差の関係で、やりとりを上司や同僚に引き継がざるを得ないこともある。
「上司も同僚も快く引き受けてくれますが、フォローしてもらうことへの引け目を感じることはやっぱり少しありますね。子どもの成長を傍で見守れる喜びがある一方で、もっと働きたい、自分で仕事をやり切りたいという思いもあります。だからこそ、仕事でも育児でも、時間を有効に使おうという意識は前より強くなったかな。徐々にスピードアップしていきたいですね」
働き方改革には、制度だけでなく意識の改革も必要
子育てをしながら働いた経験のある人なら、「引け目」という言葉に共感を覚えるのではないだろうか。例えば、子どもが急に熱を出したとき。休むことを認めてくれる会社は多いし、それを支援する制度がある場合もある。住友商事には、有給取得が事前申請なしで可能な看護欠勤制度というものがある。
「制度はありがたく使っていますが、急に仕事を休むことへの抵抗がないわけではありません。私の場合は、自分で気になってしまうだけですが、同じく子育てしている友人と話していると、休みづらい雰囲気の職場もあるようです。子育て世代は比較的理解があることが多いけれど、感覚に差がある方も中にはいらっしゃるようで」
住友商事でも、すべての社員が子育て世帯の気持ちを十分に理解しているかというと、そうではないだろう。長らく日本の社会にあった、"職場に出る以上、仕事第一優先"という考えを完全に消し去ることはそう簡単ではない。だからこそ、理解を進めるための努力は惜しまない。どんなに制度を整えたとしても、上司や同僚の理解がないと利用することがためらわれてしまうからだ。"働き方改革"には、制度改革だけではなく、意識改革が伴わなければならないということだろう。
世代や性別の壁を取り払うには?
まだ、性別間の意識の差もある。
「夫は、私以上に子どもを欲しがっていたので、育児にはすごく協力的です。そんな彼でも、育休を取ろうと言い出すことはありませんでした。責めたいわけではないですよ(笑)。でも、意識の違いはやっぱり感じますね」
世の中に目を向けても、家事や育児を女性だけに任せきりにし、男性はノータッチという家庭は減ってきている。けれど、男性にはまだどこか、"手伝う"という感覚が残っているようだ。そのことは育児休職取得率にも表れている。女性81.5%に対し、男性はわずか2.65%(※)。依然として、大きな隔たりがある。
そうした意識を変えるために、住友商事をはじめ、多くの企業が働き方改革に全力で取り組んでいる。そしてそんな動きは、各企業の中だけのものではない。一部メディアや非営利団体、一個人までもが、声を上げ、行動を起こし始めている。社会全体が、ゆっくりと変わり始めている。
改革途中、試行錯誤を繰り返す社会のなかにあって、尾山の表情は明るい。好きな仕事ができているからということもあるが、置かれた状況のなかで最善を尽くそうという、商社ウーマンらしいマインドによるところも大きいだろう。
「ネガティブに聞こえた部分もあるかもしれませんが、こうして育児しながら働けていることは本当に嬉しいんです。仕事があることで、子どもとの時間の大切さをより実感するし、育児をすることで、自分のなかにある働きたいという気持ちの大きさを再認識しました。保育所や勤務時間など、いろいろと融通を効かせてもらって、周囲の協力を得ながら、やりがいのある仕事も任せてもらっている私は、恵まれていると感じています。だからこそ、しっかり会社に貢献したいですね。復職した人が活躍することが、復職しやすい環境を整えるための何よりの後押しにもなるはずですから」
※厚生労働省「『平成 27 年度雇用均等基本調査』の結果概要」参照