同性婚ができるようになると家族が崩壊する。同性婚は憲法で禁じられているーー。
同性婚を認めないために、これまでさまざまな理由が述べられてきた。一方、世界では現在25の国で同性婚が認められており、日本でも、近年自治体のパートナーシップ制度が広がりを見せ、国レベルの同性カップルの法的保障についても議論が少しずつ進み始めている。
日本で同性婚は「可能」なのだろうか...?この疑問に答えるため、弁護士を中心とする組織「結婚の自由をすべての人に」実行委員会が、今年5月に行われたイベント「いる?いらない?同性婚」に引き続き、第2弾「できる?できない?同性婚」を開催。
女装パフォーマーのブルボンヌさん、エッセイストの小島慶子さん、憲法学者の木村草太さん、弁護士の寺原真希子さんらが、憲法との同性婚の整合性などについて話した。
法律婚、事実婚(異性間)、同性カップルでの保障の違いは?
小島慶子さんと木村草太さんはそれぞれ異性のパートナーと結婚をしている。イベントはまず、お二人がなぜ結婚したのか?という問いからスタートした。
「いまの夫とは、親に内緒で3年間同棲をしていました。28歳で仕事も飽きてきて、人生にイベントがほしいという目先の理由で結婚しました」と小島さんは話す。
木村さんは「税金や社会保障を考えると、(結婚は)いろいろ法的に便利だなと。それより上でも下でもないという感じでしたね」。
いまでこそ、異性間でも事実婚という形をとるカップルが珍しくなくなりつつある。事実婚であっても、法律婚と比べてカバー範囲は狭くなるが、実は法的に保障されている部分もある。
では法律婚をした場合、異性間の事実婚の場合、同性カップルの場合で法的な保障はどう違うのか。弁護士の寺原さんから3つそれぞれが法的にどのように保障されているか、代表的な部分について紹介があった。
このように、同性カップルは事実婚状態であっても異性間と同じような保障を受けることができない現状だ。
憲法24条は「同性婚を禁止していない」
日本で同性婚ができない理由としてよく挙げられるのが憲法24条の「両性の合意」の両性という言葉が男女を指しているというものだ。しかし「憲法24条は同性婚を禁止していない」と木村さんは語る。
「昔は家制度というのがあり、婚姻には家の戸主の同意が必要でした」。
現在の日本国憲法の元を作ったGHQは、当時の日本の状況を見て、女性の意見がないがしろにされていると感じ、両親でも男性の支配でもない婚姻を保護するための条文が必要だと考えた。これが日本政府の憲法改正草案に受け継がれ、憲法24条が制定された。
「女性の意思の尊重が重要であることを示すため、『両当事者』ではなく『両性』という言葉が選択され、憲法24条は、婚姻が第三者に干渉されない両性の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきということを規定しました」。
「このような制定の経緯、条文が『家庭内の男女の平等』を目指すものであることから、憲法24条にいう『婚姻』は、家庭内に男女の両方がいる『異性婚』だけのことを指していると読むのが自然です。そうすると、憲法24条は、異性カップルにのみ適用されるもので、同性カップルには適用されないことになります。これが、憲法学の通説です」と木村さんは話す。
つまり、憲法24条は、当時の家庭内の男女平等のために作られているため、男女間の不平等がない同性カップルには適用されないことになる。
「憲法24条は『異性婚は、男女の合意があれば、それだけで成立します』と言った条文です。つまり、この条文は、同性婚については何も喋っていないのです。したがって、この条文は、同性カップルに法律婚の地位を与えることを禁じているわけではありません」。
さらに、憲法24条は同性婚を禁止していないということに加えて、同性婚がないことは憲法14条の「平等原則」に違反しているのではないかとも言えるという。
「同性婚も法的に保護してよいということになれば、同性カップルと異性カップルとの間の法律婚ができるかどうかに関する区別が不平等ではないか、が問題になります」。
木村さんによると、同性婚を保護していないのは憲法14条の平等原則に違反しているという学説も増えてきているという。
まとめると、憲法24条は男女の婚姻にのみ適用され、同性婚については何も触れておらず禁止はしていない。さらに、異性婚しかない状態は憲法14条の平等原則に反していると評価される可能性があり、憲法はむしろ同性婚を要請しているとも言えるということだ。
理屈だけでなく、感情で訴える必要も
憲法では同性婚が禁止されていないことがわかった。しかし、同性婚を認めると「少子化が進む」「家族が崩壊する」といった声は止まないだろう。
先日も国会議員が「生産性」という言葉を持ち出し同性愛者等を差別する文章を寄稿していた。なぜこうした考えがまだまだ根強いのだろうか。
同性婚を認めると家族が崩壊するという意見に対して、ブルボンヌさんは「どこかで男どうしが結婚してしまったら『うちの家庭はもう終わりだ〜〜!』っていうのはむしろどういう状況よ(笑)と」。
同じく小島さんも「同性婚を認めると家族が崩壊するというのは、夫婦別姓の問題でも同じように言われることがありますが『おまえの家族が崩壊するかどうかはおまえ次第だろー!』って感じですよね」。
「結局本心は同性愛者を"気持ち悪い"と思っているのだと思います」と木村さん。
「同性婚についてはこれから(根拠のない反対意見は)どんどん論破されていくだろうけど、反対する人は最後には『同性婚ができたら台風が増える』とか『地球が崩壊する』と真顔で言ってくるかもしれない。そういう人に、にいくら台風や地球のメカニズムについて伝えても、説得はできないでしょう。相手は、科学や理論ではなく、差別感情への固執のためにそういうことを言っているからです。なので差別感情を解きほぐすアプローチも必要かなと思います」。
ブルボンヌさんも「若い世代は明らかに寛容になってきているし、時代で常識は変わっていきますよね。理屈だけでねじ伏せると反発も生みやすいので、笑わせちゃうやり方も含め、相手の気持ちを良くしつつ伝えていくのも、"なんとなく嫌な気持ち"を実質的になくしていきやすいかなとも思います」。
木村さんは同性婚に関する「世論調査の取り方」も重要だと指摘する。
「単に『同性婚の賛否』を聞くのは、まるで聞かれた人に、他人の婚姻を否定する権利があるように思われるのでやめた方が良いと思います。また、この聞き方では、『差別を理由に反対だ』とか、『気持ち悪いから反対だ』という意見が『同性婚反対』にカウントされてしまいます。
そうではなくて、『同性婚を認めるとあなたにどんな不利益がありますか?』、『同性婚を認めることで、誰かに危害が生じますか?』、『あるなら、具体的に教えてください』と聞けば、よいのではないでしょうか。この聞き方だと、差別的な動機での反対は表明しにくくなりますし、聞かれた人が『そういえば、同性婚を認めても、誰も困らないな』と気づきを得ることもできます。
また、本当に同性婚を認めると不利益が生じる人がいるというなら、その不利益を解消する手立てを考えて理解を求めて行けばよいでしょう」。
まずは同性婚を作ってからパートナーシップ法を
世界では年々パートナーシップ制度や同性婚を認める国が増えてきている。同性婚と「パートナーシップ制度(またはシビル・ユニオン)」には一体何の違いがあるのだろうか。
寺原さんによると、一般にはシビル・ユニオンとも総称されるパートナーシップ制度はいくつかのパターンがあるという。
例えば、南アフリカのように異性間の婚姻と同等の権利が与えられる場合もあれば、子どもを持つことに関して婚姻と比べて制限が加えられていたり、日本の自治体のパートナーシップ制度のようにそもそも法的な権利が与えられていない場合もある。
また、対象を同性カップルのみとする場合が多いが、フランスのPACSをはじめ、異性間でも同性間でも利用できるパートナーシップ制度も存在する。
ブルボンヌさんは「(同性パートナーの)事故や急病時に面会できないとか、実際にあったニュースのように、親族に火葬場から追い出されるような悲劇は嫌だけど、個人的なニーズとしては、日本の男女の法律婚にある色々なしがらみを背負うのも...とモヤモヤしています。海外だと、まずは同性パートナーシップ法ができて、そのあと同性婚もできるようになり、そのまま両方の選択肢が残っている国も多いですよね?」。
寺原さんは「例えばスペインも、同性カップルについては自治体レベルのパートナーシップ制度がありましたが、それが国レベルの法律になるかが検討されたタイミングで『同じ効果を持つのにあえて異なる名称の制度とすることは、それ自体が差別につながる、だったら異性間と同様に結婚として扱われるべき』という議論になり同性婚の成立につながりました」。
実はスペインの憲法は日本と似ている部分もある。憲法32条では「男性及び女性は、法的に完全に平等に婚姻する権利を有する」と記載されているが、これについてスペインでは同性婚を禁止するものではないという判決が出ている。
昨年、同性婚ができないことは違憲だと判決が出た台湾の法律に詳しい明治大学の鈴木賢教授によると、「ヨーロッパではシビル・ユニオンから同性婚と段階を踏んでいますが、最初に婚姻が認められてからもう20年近く経とうとしている今、あえてシビル・ユニオンから始めるというのは、つまり『同性婚は認めない』という意味になってしまうと思います。あえて二段階を踏む必要はないでしょう」。
同じく木村さんも「まず同性婚を作って、そのあと(異性でも同性でも使える)パートナーシップ法を作るのが良いと思います」と話した。
既存の制度で対応することの限界
同性婚以外にも現状の制度でパートナーシップを保障する方法があるのではないかという疑問もある。
寺原さんによると、例えば同性カップルが養子縁組を組むことで、法定相続権や社会保険など、一定程度の恩恵を受けることができるという。しかし、カップルなのに自動的に年上の方が親となることや、氏を選べないこと、財産分与請求権など配偶者としての権利がないこと、養子縁組をしている片方が亡くなった場合、養子縁組が有効かどうかが親族との紛争のタネになるなど問題も多い。
「他に遺言もありますが、親族の遺留分は遺言より優位なので、遺言で全財産を同性パートナーに残したつもりでも、親族が要求すれば一定割合は親族にいってしまうことになります。任意後見や公正証書の仕組みもありますが、後見人は配偶者ではないため配偶者としての権利がなく、公正証書も第三者に対する法的拘束力はありません」。
自治体のパートナーシップ制度も事実上の効果はあるかもしれないが、法的な権利はない。
冒頭の図のように、現状の制度を利用して法律婚に含まれるパッケージを揃えることは非常に難しいのが現状だ。
大事なのは「選択肢があること」
このイベントでは、必ず誰かとカップルにならなければならないとか、結婚をすべき、法律婚がすばらしいということを伝えるイベントではないと寺原さんは語る。
木村さんも「大事なのは選択肢があるということです。同じ『婚姻しない』という選択でも、法律婚という選択肢があるけどあえて結婚しないのと、そもそもできないというのでは全然意味が違います」。
その上で木村さんは「法律婚のパッケージはどんどんバラしていって、婚姻届けを出すときに『夫婦同氏×、貞操義務×、養育義務〇、共同親権〇、相続分設定〇』みたいに、お互いに議論してチェックを入れて、それぞれのカップルにふさわしい婚姻契約を作り上げるようにするのが理想でしょう」と話す。
「日本が婚姻法制の最先端をいこうとするなら、画一化された法律婚自体をなくして、異性間でも同性間でもこうしたチェックリスト方式にしても良いかもしれません」。
訴訟は社会のために積み上げるもの
最後に登壇者3名から一言ずつ話があった。
ブルボンヌさん「私は29年の同居パートナーがいるゲイ当事者ですが、同性婚ができても今のままだと乗らないと思います。男女の結婚の価値観そのままじゃないパートナー保証のほうが乗りやすいかな。それに、例えば男性・女性の極に当てはまらないXジェンダー自覚の人も増えているし、『そもそも同性/異性って何なの?』みたいな感覚もあります。
それにしても、赤の他人が長い時間身を寄せ合って、お互いを必要としている関係に対して、「お前らの関係は認めない、死に目には会わせないぞ!」って許さないのって何なんでしょうね。
でもきっとそういうことを言ってしまう人は、自分自身がすがっている価値観以外の生き方があることを想像してないんですよね。"ふつう"に幸せに生きてきた形があって、それとは違う別の形の幸せもあって良いですかって問いに、『私にはそんなの必要じゃなかったから、無くて良いです』ってなる。
ただ、そういう人に対して「お前は知識のないバカだ!」みたいな言い方ではなくて、楽しさや興味深さを交えながら気付いてもらう機会が世の中に増えていってくれれば、『ふーん、そうなのか』って受け入れる感覚も広がりやすいかなと。それぞれのスタイルで、人が身を寄せ合える保障が生まれていけば良いなと思っています」
小島さん「私自身はシスジェンダーのヘテロセクシュアルで、結婚をして子どもを出産しました。私がこのように生まれたことは私自身が選んだわけではないけれど、『そう生きてきたお前が悪い』と言われたことは一回もありません。それが私にとっては当たり前でした。これが当たり前じゃない人がいるんだったら、当たり前にした方が良いと思うんです。
『あなたはあなたが生まれたようではあってはならない』という抑圧は大なり小なりありますが、このような抑圧を感じることが多い社会より、少ない社会に私は生きたいです。より苦しい立場の人たちに対して選択肢が多く示された社会になれば、いろんな生きづらさを抱える人がそこにいても良いよと言われやすい社会になると思うんです。それによって私が失うものはないばかりか、利益があります。
『小島さんはALLYなんですか?』と聞かれることもあるけど、なんで私はこの問題に関心を持つのかなと思った時に、どこかで通底する『あなたはあなたが生まれたようであってはならない』と言われるしんどさみたいなのをほんの少しでも自分が感じていて、自分よりもっと感じている人がいるなら、それはない方が良いなと思っているからだと思うんです。
今日、制度の話を聞いて、いかに自分がどれだけ守られてきたか、守られていない人がどれだけ不便をしているかがよくわかりました。来て良かったです」
木村さん「(同性婚ができないことは違憲だと判決が出た)台湾では30年も前からこの件に関して訴訟が起きていたと言っていましたが、訴訟は大事だと思います。
憲法の教科書をみても、同性婚の問題はまだまだ書かれていません。なぜかというと判例がないから。つまり、法律家の間では、訴訟が起きていないと、『この人たちは訴訟を起こすほど困っていない』という認識になってしまうのです。
訴訟というのは、自分だけでなくみんなのため、社会を良くするために行われ、判例が積み上がって来ました。LGBTの法律問題は、同性婚の問題の他にもいろいろありますが、戦うだけの力があれば、ぜひ法廷で戦ってほしいと思います。訴訟をおこして主張するのは重要です。私も意見書を出しますし、何らかの形で支援しようと思います。
みんなで戦っていくことが大事だと思います」。
「結婚の自由をすべての人に」
「結婚の自由をすべての人に」実行委員会は、今回のイベントに合わせてティザーサイトをオープンした。今後同性婚に関するコンテンツが随時追加されていく予定だ。
(2018年9月19日fairより転載)