幸せを呼ぶ元保護犬「リュネット」 新しい家で穏やかに笑う

最初はあまり人に懐かなかったことから、何度か飼い主に捨てられた経験があるのかもしれないと想像された。

飼い主のAyaさんと一緒にゆったりと散歩するリュネット。遠くから一目で「あ、リュネットだ」とわかる。白い体に水玉模様が可愛らしく、顔だけが真っ黒だ。

真っ黒な顔の中で、黒目がちな瞳を際立たせるように、目の周りだけ丸く白い毛で囲まれている。これが名前の由来。「リュネット」とはフランス語で「メガネ」の意味だそうだ。引き取られた後も「リュネット」の名前で呼ばれている。推定15歳の雑種犬だ。

かつて動物愛護相談センターから動物愛護団体「ミグノン」に引き取られた時は、やせて、フィラリア持ちだった。ミグノンでは代表の友森さんに「顔の黒い女」と呼ばれていた。最初はあまり人に懐かなかったことから、何度か飼い主に捨てられた経験があるのかもしれないと想像された。

お散歩に合流すると、ちらっと私の顔を一瞥した。警戒するわけでも、うれしがるわけでもなく「何かしら? ま、害はなさそうね」というような顔をして、マイペースにお散歩を続ける。

東京都内に住むAyaさんと、リュネットとの出会いは2010年、同僚にミグノンの預かりボランティアを勧められたことがきっかけだった。「通常週末だけ預かるということはしていないそうですが、『週末だけでいいからこの子を預かってみないか』と言われて、一緒に週末を過ごすようになりました。譲渡会でも愛想がなく、やる気のない子だったそうですが、うちではすごく甘えてくるんです。だんだん週明けにリュネットをミグノンに戻しに行くことが、私も夫も切なくなってしまって。離れがたい存在になった彼女と家族になることを決めました」

11年のゴールデンウィーク明け、リュネットは晴れてAyaさん夫婦と家族になった。夫婦のもとで「一人っ子」になると、思い切り甘えるようになった。

「基本的には、あまりテンションの高くないアンニュイ犬ですが、家で甘えてくる姿が、健気でかわいくて」とAyaさん。さらに「リュッちゃんを溺愛しすぎている夫は、毎日仕事場に彼女を連れて行き、時々、一緒にお風呂にも入っています」と笑う。

休みには箱根や軽井沢に旅行に行き、時には都内にある犬が入れる温泉でもくつろいでいるという。

リュネットと暮らすようになってまもなく、Ayaさん夫婦には、女の子が誕生し、次いで双子の男の子を妊娠した。家族にとってまさに「幸せを呼ぶリュネット」だった。

ところが、双子誕生の予定日だった4月のある日、リュネットは散歩中に突然出血した。体内にあった腫瘍が破裂し、輸血が必要な状態だった。「家族にこんなに幸せを運んできておいて、自分だけここを去ろうとするなんて絶対嫌。ダメでしょ。と必死でした」とAyaさんは言う。

リュネットは緊急手術で一命をとりとめた。リュネットの状態が落ち着き、もう大丈夫となってから1週間ほどたち、Ayaさんは無事に双子の男の子と対面した。

「リュッちゃんは、我が家の長女。いたずらは全くしないし、穏やかでやさしい子なので、5歳と3歳になる子どもたちにも、リュッちゃんを見習ってほしいと思うこともあります。15歳だからもう結構なおばあちゃんですが、1年でも2年でも長く一緒に暮らしたいです」

取材中に話しかけたり、なでたりしても、「私のことはお構いなく」といった風にしっぽを1〜2度パタリとするだけ。しかし、穏やかなその表情と、ふわふわの毛並みは、リュネットのゆったりと幸せに満ちた日々そのもののように見えた。

(新海三太)

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