施設養護は、あくまで限定的。「乳児院」の廃止を実現した国・ドイツ

ドイツの施設養護から里親措置へと転換した歴史は、我が国の児童養護政策におおきな示唆を投げかけています。

こんにちは、おときた駿@ブロガー都議会議員(北区選出)です。

本日はデュッセルドルフにあるプロテスタント系の児童養護施設

「Diakonie」に訪問させていただきました。

児童養護だけでなく保育所や介護施設などの運営もしている、

いわゆる社会福祉事業団の一つで、そのうち社会的養護の分野は

1割程度のスタッフが従事されているそうです。

社会的養護、児童養護の過去記事はこちらから↓

http://otokitashun.com/tag/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E9%A4%8A%E8%AD%B7/

まずドイツの児童養護政策の概況を説明しますと、

ドイツは欧州各国の中では比較的施設養護の割合が高く、

概ね施設養護:家庭養護(里親)の比率が5:5となっています。

(第38回資生堂児童福祉海外研修報告書より抜粋)

しかし特筆すべきは施設入所児童の年齢層と滞在期間で、

施設に入るのは基本的に3歳以上の児童。日本でいうところの

いわゆる「乳児院」はドイツには一切存在しません

施設に入所するのは、里親のもとでは暮らすのが難しい

特別な事情(難病や情緒不安定など)を持つ児童か、両親の更生が見込まれるので

短期での滞在が予測される児童のみに限定されています。

ドイツの施設は日本でいうところの大舎制は廃止されており、

6名~8名で暮らすグループホームが施設養護の形態となりますが、

ここでの平均滞在期間は2年程度ということです。

また、親権が強いのはドイツも日本同様とのことでしたが、

データを見ているといわゆる親の「親権停止」によって子どもを保護し、

社会的養護で対応している件数を見ると文字通りケタ違いとなっています。

(抜粋先は同上)

…というか、何度か触れていますが日本は児童の権利のために

法制度が行使されるケースが少なすぎるんですよね。6件って!

上記のような状況ですので、とにかくドイツにおいては

「里親か、児童養護施設か」という議論はすでに決着を見ており、

あくまで施設は短期的・専門的な位置づけというのが固定されているようです。

ドイツも戦後間もない頃は戦災孤児が多く、乳児院も多く存在していたものの、

1960年代の自由化運動の時代に社会情勢が変化し、学者や福祉事業者の現場の声から

脱施設化・家庭養護促進に方向転換が行われていったとのこと。

また、これは同席していたドイツ人ジャーナリストの方が言っていたのですが、

キリスト教系の福祉施設が多かったため神父や牧師が大きな権力を持ち、

児童虐待が施設内で横行していたのが社会問題化していたのも要因であったそうです。

…これはけっこう生々しい話で、キリスト教系の児童養護施設で

どのような実態があるかということは、施設出身の芥川賞作家・花村満月さんの

ゲルマニウムの夜」という小説に描写されておりますので、興味ある方はご一読ください。

※かなりグロテスクな内容なので、耐性のない方は要注意!

そして

「日本では乳児の多くが、障がいや難病の有無を見極めるという理由で、

 何年もの長期間にわたって乳児院での生活を余儀なくされます」

「しかも、何人もの乳児に対して数少ないスタッフが養育している状態です」

と伝えると、「信じられない!」といったリアクションで、

養育に困難なケースであれば里親措置をした後に専門家がサポートするし、

そもそも障害の有無を気にする人なんていない、とおっしゃっていたのが印象的でした。

また、日本では社会的養護出身者が高校・大学への進学率が低いことが

大きな問題となっておりますが、ドイツではそのような差異はあまりないとのことで、

その理由を尋ねると

「大学まで進学費用がほとんどかからないから」

…目からウロコでした。。

確かに、学力の問題もありますが、進学の多くは費用の関係で発生するので、

そもそも高等教育まで無償化が完了している国では問題にならないわけですね。

こうした面からも、日本の教育投資の低さには大きな課題がありそうです。

なんらかの事情でサポートが必要な母子が暮らす施設で、

実際に生活している親子の方と。日本ではこうした施設で暮らす親子には

厳しい世間の目や偏見がありますが、ドイツではほとんどないとのこと。

ドイツにも格差や偏見がないわけではないが、

良くも悪くも階層がはっきりしている社会なので、

ささいな違いなどで差別や排他的意識を持つことは少ないそうです。

このあたりも「文化の違い」の一言で済ませるのは簡単ですけど、

福祉先進国になるためにわが国でも必要な意識転換だと思います。

そしてグループホームでは、実際に生活する子どもたちともお話しさせてもらえました。

日本の視察では絶対にありえないシチュエーション…!

短期で入所できることがわかっているからか、

子どもたちの表情も非常に明るく陽気でした。週末ということで、

自分の子どもたちに面会にきた保護者の方も2組いらっしゃいましたね。

ドイツの施設養護から里親措置へと転換した歴史は、

我が国の児童養護政策におおきな示唆を投げかけています。

「ドイツも施設養護に力を入れている」

という主張については、繰り返しになりますがあくまでも

「一時的・専門的」なケースに限ったもの。日本でも乳児院を廃止し、

一時保護所→里親措置で対応することは十分に可能なはずです。

貴重なお話を下さったアニックさん、ありがとうございました!

駆け足ですがドイツはこちらで終了、視察団はこれよりオランダへ向かいます。

それでは、また明日。

(2015年10月10日「おときた駿公式ブログ」より転載)

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