手軽なモノづくりのツールとしての三次元プリンターについては、日経ビジネスオンラインの原雄司さんの解説がとても有用だ。
原さんが言うように、 3Dプリンターが大衆的に普及していけば、とりあえずは、ダウンロード可能な「 3Dモデルデータ」へのニーズが高まるだろう。そのようなデータは現在、料理のレシピの多くがネット上で無料で提供されているように、やはり無料で入手できるようになるだろう。なかには有料のものも出てくるかもしれない。私としては、そうしたデータが商品として売買されるというよりは、自発的な「謝金」の支払いを伴ってやりとりされるようになることを期待したい。
では、 3Dプリンター自体の製造と販売は第三次産業革命の主導産業になるだろうか。 現在のところ、 3Dプリンターの供給者の主力は中小零細企業だが、将来はそれが大企業に取って代わられるかもしれない。あるいはその逆に、デジタルなモノづくりのイノベーションが進めば、そう遠くない将来に3Dプリンターそれ自身も3Dプリンターによって製作できるようになるだろうという人もいる。問題はその時期と規模だが、 3Dプリンター製造業が20世紀の自動車産業や家電産業のような寡占的大企業によって主導される大産業になる(なり続ける)とはいささか考えにくい。新しい主導産業は、少し違った形で出現するのではないだろうか。
ジャロン・ラニアーの近著、 『未来は誰のものか』にそのヒントがある。彼は、この本のなかで、3Dプリンターの原料のことを「グープ (軟泥)」と呼び、これからは各種のグープの生産と供給に携わる産業が、 20世紀の石油業や電力産業のような巨大産業になるのではないかと想像している。
たしかに、「ほぼ何でも作れる」 3Dプリンターといえども、さすがに原料までは作れないだろう。そうだとすれば、その供給は専門業者が行うしかない。 3Dプリンターの原料の主流は、今のところヒモ状に固められた樹脂なのだが、今後はそれに繊維やガラスや金属類が加わって、粘土状、あるいは液体か粉末状で供給されるようになることは、十分考えられる。ラニアーによれば、その場合、原料の配送には、都市ガスや水道のようなパイプラインを使う形や、プロパンガスや灯油のようにボンベや容器に詰めて配達する形が考えられる。いずれにせよ、新しい巨大な「ユーティリティー産業」というか「インフラ産業」が誕生することになるわけだ。
そればかりでは無い。人々が衣類やその他の日用品を3Dプリンターを使って毎日のように取り替えひきかえ作って使うようになると、不要になったものは即座に捨ててしまうライフスタイルが定着しそうだ。そうなると、不要物の処理も大問題となる。しかし、 3Dプリンティングの技術には、製品をかなりの程度まで元の原料に分解する「デプリンティング」の技術も随伴しているとラニアーはいう。そうだとすれば、大量の廃棄物を毎日引き取ってはデプリントした上で、新たな原料としてリサイクルさせる産業も出現するだろう。 3Dプリンター用の原料の供給とリサイクルの施設は、 21世紀の都市の新たなインフラとなる可能性が高い。