出家詐欺の横行から、お寺の未来を見る

2014年5月14日放送のNHKクローズアップ現代、「追跡 "出家詐欺" ?狙われる宗教法人」をご覧になりましたか?

2014年5月14日放送のNHKクローズアップ現代、

「追跡 "出家詐欺" ?狙われる宗教法人」をご覧になりましたか?

これからのお寺を考える上でもとても重要な特集だったと思います。

4月にNHKかんさい熱視線でも特集していたものを再編集して

全国版にしたものかと思いますが、

見逃した方のために、かいつまんでご報告した上で、

私の感想を述べます。

冒頭、多重債務者と寺院を結ぶブローカーがモザイクで登場し、

「経営難に陥った寺院が狙い目」であり、

「宗教です。宗教の力ですよ」と述べます。

出家詐欺で逮捕された住職の写真と、崩れかけたお寺の映像。

インパクトのある導入です。

全体の構成は、

・お寺の得度を悪用した出家詐欺が横行している実態

・対策に動く京都府の取り組み

・寺院側(妙心寺派)の取り組み

・慶應大学の中島教授によるお寺に関するコメント

となっています。

【出家詐欺、横行の実態】

まず導入で、アナウンサーが、

・檀家の減少や、住職の後継者不在、さらにお葬式や法事の簡素化など、宗教離れがすすむなかで、経営が立ち行かなくなるお寺が増えていること

・その中で、宗教法人としての活動の実態がない不活動宗教法人になってしまうケースも数多くあること

・活動実態を書類で行政に提出することが義務づけられているにもかかわらず、提出のない宗教法人が10年間で2倍以上に増え、数が14000件に上っていること

・社会の環境変化についていけなくなるお寺が増え、そこにつけ込んだ犯罪が増えていること

などを語りました。

そこから映像で、出家詐欺についての実態の紹介です。

出家詐欺というのは、お寺の得度の仕組みを使って戸籍の名前を変更し、詐欺に悪用すること。

登場した出家詐欺のグループは、多重債務者を次々と別人に仕立て上げることで、

本来受けることができない多額の融資を得る詐欺行為を働いていました。

具体例として、創建300年の歴史を持つ滋賀大津市の定光坊の事件が紹介されていました。

NHK京都支局の担当者がスタジオで、

・出家して仏門に入るという真剣な行為が犯罪に悪用されることはないという性善説に立っているのが宗教法人法であること

・書類などが揃っていれば、得度の改名はの多くは簡単な面接などで認可されることが多いこと

・暴力団関係者もこの仕組みを悪用し、一般人に成り済ましてビジネスをしているという情報もあること

・出家を利用した犯罪が今後かなり増える恐れがあること

を指摘しました。

さらに、『お寺の経済学』著者である慶應大学教授の中島隆信教授も

解説者としてスタジオ出演し、経営が立ち行かなくなっているお寺の現状について、

・過疎化や少子高齢化、あるいは都市部で経済面や付き合いの煩わしさからお寺との付き合いを少なくしていきたいという流れがあること

・それによってお寺離れが進み、葬儀や法事の収入を減らしてしまうということにつながること

・過疎化による檀家減少によって、住職の息子もお寺の後を継ぎたくないということになり、一人のお寺の住職が複数のお寺を兼務するケースも増えていること

・得度が僧侶になる出発点としての重要な儀式でありながら、チェック機能が働いていないことの問題点

・信者をまとめる住職も檀家の代表である檀家総代もいないという不活動寺院になると、悪意のある人が忍びよって宗教法人格を買い、それを隠れ蓑にして悪用していくという流れがあること

・しかし、本来の宗教法人は外部者がメスを入れることはふさわしくない性質のものなので、扱いが難しいこと

などを指摘されました。

【宗教法人悪用に対する京都府の対策と伝統仏教の取り組み】

続いて、

全国自治体の中でも突っ込んだ対策に取り組んでいる京都府の、

不活動宗教法人対策の取り組みが映像で紹介されました。

書類などをもとに担当者が不活動宗教法人の把握に努めていますが、

「法律の範囲内でできる限りのことを精一杯やっている」

という趣旨の担当者のコメントなどが紹介され、

現状の宗教法人法の課題点が暗に示されるような感じです。

そして、臨済宗妙心寺派の取り組み。

「宗教法人の悪用を防げ 動き出した宗教界」

という見出しで、

自ら不活動宗教法人の対策に乗り出している宗派の代表として

臨済宗妙心寺派が紹介されました。

宗派内局の会議にカメラが入り、

お寺の解散や合併に向けたプロジェクトチームを立ち上げた様子が

映し出されます。

妙心寺派の幹部の方が

「放置しておくとよからぬやからに悪用されたり、

宗教法人の性格とは相容れない事件が起きてしまうことが多々あるからです」

と発言。

任命状を渡されて、

4人の僧侶が対応の専従メンバーに選ばれました。

妙心寺派では、3400の寺のうち1000以上が住職が常駐しておらず、

不活動になる可能性のある寺を調査した上で、合併や解散を勧めることにしたそうです。

専従メンバーの一人、久司宗浩さんが、

和歌山県の山村にある不活動化が危惧されるお寺に足を運びます。

お寺の檀家さんと会話する様子が映像に。

半年間、檀家のもとに通い続けたそうです。

久司さんが

「寂しいし、つらいことではあると思うけど、

一度ここで締めくくりをつけさせてもらったほうがいいんじゃないか」

とそのお寺の檀家(おばあちゃんたち)に語りかけると、

「お寺があっても人がおらんようになったらね」

「寺がなくなるとは夢にも思っていなかった」

との答え。

そのお寺においては、解散に関しての檀家の同意は得られましたが、

財産の整理など法的な手続きで、解散までにはまだ1年以上がかかるそうです。

久司さんのまとめのコメント

「ちゃんとみんなが正常な判断ができるときに、

なんとか法人の問題や檀信徒の方々の心の問題を整理しながら、

皆さんと一緒に進んでいく。

それが我々の活動に化せられた使命だろうと思います」

で映像は締めくくられました。

最後にスタジオで、アナウンサーと中島教授がまとめます。

・憲法に信教の自由が謳われているので、宗教法人法は法律であまり介入するのではなく、あくまで檀信徒や住職の自由意志にまかせる設計になっている

・そのため、住職も不在で檀家も高齢化し正常な判断ができないということになると、解散しようという意思決定すらできなくなる

・日本には75000のお寺があり、その3割が経営状態が悪いといわれていわれている

・そもそも檀家寺の成り立ちは、江戸時代の徳川幕府がキリシタンを禁制にするために国民をお寺にしばりつけたことから始まる

・もともと信仰があったわけではないのに、徳川幕府の宗教政策により制度的に結びつけられた寺と檀家がそのまま宗教法人になって今まで続き、主な収入源がを葬儀とか法事になっている

・葬儀や法事主体のお寺の活動はもう、限界が来ている

など、なかなか突っ込んだ議論が展開されました。

番組ですから台本があるわけで、中島教授が一方的に語るのではなく、

アナウンサーとのキャッチボールで進行していきます。

そして最後に、中島教授からのメッセージとして、

「これからは日本人の心の中に仏教に対する帰依しようという気落ちが私はあると思うんですね。

仏像の前に手を合わせるという習慣もありますしね。

そういう習慣が残っているうちに、お寺がもっと信者さんたちに働きかけて、

国民の宗教心を高めてほしいと思います。

それが本来の役割だと、私は思います。」

と述べられます。

アナウンサーもそれに応じて、

「仏教の教えを伝える、ということに立ち返るということですね」

とコメント。

中島教授の

「今、チャンスじゃないかとも思いますね」

という前向きな言葉で、番組が終わりました。

ーーーー

番組を見て、いろんなことを考えさせられました。

最近、政権寄りの報道が増えているといわれるNHKなので、

そういう視点からの深読みもできるのかもしれませんが、

素直に見てもお寺が学ぶべき視点がたくさん含まれています。

まず、伝統仏教の各宗派は妙心寺派の取り組みに学んで、

ぜひ連携しながら不活動宗教法人が悪用されないように、

自主的な対策をどんどん進めてほしいです。

包括宗教法人としての宗派の存在意義のひとつは、

被包括として健全に運営される末寺の活動を支援することであり、

宗派のお寺全体の信頼を保ち、高めることが大切です。

問題を未然に防ぐためにも、厳しい姿勢で臨むことも必要だと思います。

そして、檀家寺の住職としては、

お寺も現代社会で活動するからには

宗教法人としての課せられた義務をまず果たした上で、

布教を中心としが活動を行うことが大事になりますね。

どんなに住職のお経がうまくても、人柄がよくても、

お寺が組織として法治国家におけるルールを守っていなければ、

積み上げた信頼は一瞬で崩れ去ります。

未来の住職塾でも、目に見えない無形の価値を重視し、

「檀信徒とのご縁を温めること」を大切にしていますが、

それらもすべて、法令遵守や情報公開など、

お寺が宗教法人として義務をきちんと果たした上での話です。

これを機会に、備え付け書類など久しぶりに確認してみましょう。

だからといって、お寺が宗教法人のルールを守りさえすれば

いいのかといえば、そうではないと思います。

時代時代で仕組みやルールは変わります。

数百年という歴史の長いお寺を預かる立場の人に求められるのは、

どんなに仕組みやルールが変わったとしてもお寺がびくともしないよう、

お寺が祈り・願いの場として本尊を中心とする「安心の基盤」としてはたらき、

人々に愛され求められ続けるよう、檀信徒の教化に励むことです。

もちろん教化方法も時代に合わせて革新し続けなければいけませんが、

小手先のことではむしろ逆効果になるでしょう。

住職の本気が試される時代ですね。

でも、考えようによっては、

良くも悪くも江戸時代からの成り行きで今のかたちになった檀家寺が、

そこから脱皮して生まれ変わるチャンスです。

中島教授もそのあたりに期待してのコメントだったのではないかと思います。

信頼されるお寺づくり、

みんなでがんばりましょう!

(2014年5月15日「Everything but nirvana」より転載)

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