3月4日夜、東京でローリング・ストーンズとビートルズのコンサートが同時に開催される奇跡が起こった!

3月4日夜、東京でローリング・ストーンズとビートルズのコンサートが同時に開催される奇跡が起こった!

ローリング・ストーンズは東京ドームで、そしてビートルズは渋谷の「東急シアターオーブ」で。えっ? 何を言ってるんだ? いやいや、本当。ビートルズ、残念ながらとうに解散してメンバー2人は鬼籍に入った。だからこの夜のビートルズはイギリスとアメリカの若者4人によるトリビュート・バンドが演奏した。声も顔もしゃべり方もそっくりで、時代を追った衣装とセットと曲目でビートルズ世界を再現する。な~んだ、そっくりショーじゃん、と笑うなかれ。それぞれがシンガー・ソングライターとして活躍したり(ポール役)、ブライアン・フェリーのバンド・メンバーだったり(リンゴ役)と、腕に覚えアリのミュージシャンたち。ロンドン~NYブロードウェイで好評を博した本物のエンターテイナーたちだ。こんなこと言ったらファンに怒られそうだが、ジョージ役のギタリストは本人より上手いなる噂も......。

ステージは「キャバーン・クラブ」で演奏するビートルズ・セットからスタート。写真でよく見る衣装、キャバーンを模した背景、ステージ脇の巨大テレビ画面には当時のビートルズ・フィーバーぶりが映し出される。軽快なギターが響いて「アイ・ソー・ハー・スタンディング・ゼア」からスタート。そのまま「フロム・ミー・トゥー・ユー」に続くと、一気に1963年に連れて行かれる。斜め前に座るスーツ姿の太ったおじさんは最初から首をフリフリして、ずっと一緒に歌ってる。ああ、このおじさんの63年はどんなだったんだろう? どこで、どんな風にビートルズに出逢ったんだろう? 66年の来日コンサートには行ったのか? それから先の人生は? どんな仕事をしてきたの? 今夜は1人で来ているけれど、その人生に愛する人との語らいがあったの? あってほしいなぁ......一瞬で色々考えたら、それだけで涙が出てきた。

少し前に仕事で、60年代当時、ビートルズの登場と同時にファンになった人たちの話を聞いた。当時の中高生の生活は今のような刺激のない日々。携帯電話もインターネットも当然なくて、家に電話やテレビさえ滅多にない。そんな素朴な生活の中に、ある日とつぜんラジオの電波に乗ってビートルズがやって来た! それはそれは驚きで夢そのもので、それまで地道に生きてきた中学生や高校生の生活が様変わりの大騒ぎ!地方から都会へビートルズの映画を観に行ったり。レコードをかけて踊りまくって家族にびっくりされたり。コンサートのチケットを取るためにプレイガイドに夜通し並んで親に怒られたり。追っかけしたくてドキドキしながら大人の振りをして出版社に電話したり。あちこち右往左往したり。自分で何かやるってことをそこで初めて実践。人生が大きく変わった? まさにその通りだったそうだ。

その頃のファンの生の声を、当時の人気音楽雑誌「ミュージック・ライフ」の「ペン・フレンド・コーナー」(文通相手を募集する欄)にたくさん見つけ、その興奮ぶりにワクワクさせられた。ちょっと幾つか紹介しよう。

私は14歳で大のビートルズ・ファン。死んでもいいくらい好き。同じような方、お便りください。

MLファンの皆さん今日は。高一のハッスル・ガールです。私のいかれてる歌手はビートルズ。男女問わず私にピローンとお便りくださいね。

幸せだなぁ。僕はビートルズといる時が一番幸せなんだ、僕は死ぬまでビートルズを離さないぞ。いいだろ――ML愛読者の方、お便りください。ポールにそっくりな今年高三の僕ヨ。

ハイ!全世界の若者諸君!ビートルズに自分でも分からないくらい狂ってる女の子にレターちょうだいな。ただし諸君もビートルズ狂に限る。右のことに属さない若者諸君はチートばかしお呼びではないよ。最後に一言いわせて!ビートルズ!愛してるワヨ!

一日がビートルズで明け、ビートルズで暮れる16才のカワイコちゃん?ホント。映画何回見たの?私は31回(ミス・プリントじゃないのヨ)。ビートルズ好きでたまらない人、私にお手紙出しましょう。

私は定時制高校に通っている15歳の女の子です。勿論大のポピュラー・ファンで、ポピュラーを一日中聞いてればごはんなんか食べなくたっていい位です(バカ!飢え死にしちゃうじゃない!)。ビートルズが大好き(大好きどころじゃないの、声を聞いただけで涙が出る程、アイしてるんです)。ホントにこの人達の声っていいですね。

大好きなのよ。シビレチャウわ。世界中のハンサムをしょいこんじゃってるわ。好きで好きでたまらないの。ハートがはれつしちゃう位ダァーイ好きなの......。アラ!あなたじゃないわよ。その名はビートルズよ。あてがはずれちゃってゴメンナサイね。

MLファンの皆さん、こんにちは。アタシは中学三年生のカワイ子ちゃん。目下ビートルズに夢中です。いわゆるビートルマニアです。どこが良いかって、もち決まってるじゃない。ホラ!あのスタイルよ。マッシュルーム・カットと、ダーク・グレーのえり無しのスーツよ。それに彼らが歌う歌は全部自作自演だなんて心憎いじゃない。ビートルズとMLが三度のメシより好きだという方、お手紙ください。

当時の子どもたちは表現がけっこう過激で、ものすごく熱烈だ。今のツイッターの文章なんて、これに比べたら格好つけてて、よそよそしいなぁと思う。そしてその浮かれた様に、とにかく初めて出会う、ありのままに正直な表現をする、外国のカッコイイ男の子たちにワケもわからなくなるくらい夢中になっているのが伝わる。その夢中さに、なんだか胸がキュ~ンとする。その思いの純粋さがすごく、すごく切ない。思春期のすばらしい宝物のような気持ちの塊だ。どの子たちも13~18歳ぐらい。中高生で、北は北海道から南は九州まで(沖縄はまだ本土復帰を果たしてないときだ)。色々な場所からビートルズをみんなが思って夢をいっぱい見ていた。このハガキを書いた子たちが当時どんな生活を送り、どんな風にビートルズを愛していたか? 想像するだけで頭の中に1本の映画が完成しそうだ。

今夜のビートルズ・ショー、ああ、タイトルは「レット・イット・ビー」といいます......は、そんな60年代の女の子の気持ちを私に味あわせてくれた。見たことのないビートルズのショー。どうしたらいいのか自分でもよく分からなくなるような熱狂と興奮の疑似体験。最後は「ヘイ・ジュード」を会場中みんなで大合唱。スーツのおじさんも、かなり太ってしまったおばさんも、みんな詰襟、セーラー服の中高生に戻って、思い切り、思い切り歌っていた。ああ、それもまた一本の映画になりそうな......。

ビートルズが流れる場所には物語がいっぱいつまってる。なんだか鼻が赤くなって、涙腺がうるうるしっぱなしだった。ちなみに東京公演は9日まで。その後は地方公演もあるそうだ(http://www.let-it-be-japan.com)。

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