森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。4月号の「環境ウォッチ」では、環境ジャーナリストの竹内敬二さんが、自然エネルギーを増やすための政策だったFITが、逆コースをたどり始めた状況に警鐘を鳴らしています。
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FITは、再生可能(自然)エネルギー全量固定価格買い取り制度を意味する。5種の自然エネルギー(太陽光、風力、中小水力、地熱、バイオマス)でつくる電気を買い取る制度だ。
欧州などでは自然エネを増やすスタンダード政策になっている。日本では民主党政権時代の2011年、当時の菅直人首相が、「FITを通すのであれば、首相を退いてもいい」として、「首相の首」と交換する形で成立した。翌12年7月から制度が開始された。
しかし、2年後の14年には「こんなに増えては困る」という電力会社の意見を反映する形で抑制策が始まり、ついに今年の通常国会では「FIT改正法」が出た。
海外では自然エネルギーの主流となった風力発電も国内ではほとんど増えていない=2016年3月(森林文化協会撮影)
自然エネ政策に何が起きているのだろうか。
根幹の「優先接続」が消える
最初のブレーキは、14年にできた「①自然エネが多くなり過ぎた場合は電気を買わない日を年間30日以上に増やすこともある」という仕組みだった。
さらにFIT改正では次のように変わる。
② 自然エネを優先的に送電線につなぐ「優先接続の義務」がなくなる。
③ 電力会社と接続の約束ができたものだけを「認定」する。
④ 固定価格だけでなく、「入札」で買い取りを決める方式も導入する。
大きな変化はこの4点だ。
①は、例えば晴天で太陽光による発電が大きく増えた場合、電気を買い取ってもらえない日が増える。事業採算性の計算が難しくなる。
そもそも自然エネの導入可能量は小さい。背景には「今ある原発が全て再稼働する」を前提とし、余ったスペースで計算するという圧倒的な原発優先方針がある。
②の優先接続はFIT制度の根幹だ。現行法でさえ「優先接続があいまい」といわれていたのに、今度は完全に条文からなくなる。
そして、③電力会社が接続を約束したものだけが認められるとなれば、電力会社が建設の是非をコントロールできるようになる。
④の入札方式が増えれば、これもFITの根幹だった固定価格制が揺らぐ。
こうした措置が矢継ぎ早に示される中で自然エネの新規計画は停滞している。メガソーラーの計画はピタッと止まった。電力会社はいろんな地域で「風力もこれ以上入りません」と言い始めた。
FITが太陽光発電の導入量を伸ばしたことは間違いない。認定された設備容量は2011年末にあった約490万kwから、15年末には推定約3000万kwになった。ほぼ6倍だ。ただ風力発電は約250万kw(11年末)から約300万kw(15 年末)とほとんど増えていない。
政府は「太陽光が多過ぎる。バランスを取る」というが、他の自然エネを増やす手立ても講じていない。橘川武郎・東京理科大教授は「FITに問題があるから再生エネを抑えるという論法は、『産湯を捨てようとして赤子を捨ててしまう』という西洋のことわざに通じる」と批判している。
原発、自然エネ、自由化を同時に
自然エネだけでなく、もっと広い視点でエネルギー政策を見てみよう。11年の福島第一原発の事故によって、日本のエネルギー政策は三つの課題を与えられた。
①原発依存を大きく減らす。
②自然エネを大きく増やす。
③電力自由化を進める。
この三つは密接に関係しているため、同時に改革を進めてこそ、うまくいく。原発事故当時の民主党政権は、原発事故の余韻の中でこの三つをそれなりに熱心に議論した。
原発については「2030年代に原発ゼロを目指す」を柱とした「革新的環境・エネルギー戦略」(12年9月)を出した。
自然エネについては、FITを導入した。そして、電力自由化については「電力システム改革の基本方針」(12年7月)を出し、小売り全面自由化、発電の全面自由化、発送電分離、を掲げた。
これらが進んでいたら、日本のエネルギー政策の大転換につながっていただろう。しかし、民主党政権から自民・公明連立政権に戻ったことで、何もかもが変わった。原発は重要電源に返り咲き、再稼働を始めている。
電力の自由化では今年4月から、家庭を含む全ての消費者が電力販売会社や電力メニューを選ぶことができる「小売りの自由化」が始まる。
これまで小口の消費者は東京電力や関西電力など地域の電力会社からしか買えなかったが、これからは小売り事業に参入する会社からも買える。
買いたい電気をうまく買えない
大きな変化と思えるニュースではあるが、新たに出てくるメニューが中途半端で、どうも代わり映えしない。「従来よりは安い」というものの、例えば「自然エネからつくる電気を買いたい」と思っても、うまくいかない。
ある環境団体の調べでは、自然エネ主体でつくられた電気を自由化当初から売ろうとしている会社は、4社にとどまるという。
理由はまず、自然エネによる発電量が少ないこと。そして電気が何によって発電されているかの表示義務付けがなくなったことだ。消費者の関心や便宜よりも、表示に消極的な電力会社(供給者)の声を反映している。
本来、小売り自由化となれば消費者が自然エネを選択することで自然エネ増加の政策を後押しするといった効果が期待できる。しかし、4月からの自由化は選択肢が少なく、そんなダイナミズムは期待薄だ。
自由化は「小売り自由化」だけでない。発送電の分離、地域独占を廃した電力の常時全国融通などが実現しないと機能しない。
繰り返すが、日本のエネルギー政策を大きく転換させるには、①原発②自然エネ③電力自由化、の3点での改革が必要だ。これらを全体としてみれば、残念ながら福島以前のエネルギー政策に戻そうとする逆コースの流れになってしまった。
消費者が関心を失えば、あっという間にその流れに飲み込まれてしまう。