森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。12月号の「時評」欄では、都市の農地である生産緑地が直面する問題点を、京都学園大学教授・京都大学名誉教授の森本幸裕さんが論じています。
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「2022年問題」をご存じだろうか。生産緑地法に基づいて市街化区域内に維持されてきた農地の多くが指定後30年を迎え、農業従事者に事故がなくとも、市区町村による時価での買い取り請求が可能となる年だ。農家の後継者難から一斉に買い取り請求が行われるかもしれないが、市区町村は買い取りなどできる財政事情にないので、農地以外の用途への転売など、これまで制限してきた行為を解除せざるを得なくなる。とすると、軒並み売りに出されて、地価が大幅に下落することも予想される。
これは、都市環境にとっても重大な問題だ。温暖化を背景にヒートアイランド現象激化、都市型洪水リスクの増加、農的自然の育んできた生物多様性の損失が顕在化する中、身近で多様な自然の恵みを供給してきた民有の都市緑地の問題として考える必要がある。
1969年に現行都市計画法が施行され、市街化区域を定めて農地の宅地転用を促したのは、人口増加の時代だった。だが、並行して進めようとした都市公園整備の方は、一人当たり公園面積が欧米に比べて低水準で推移し、目標を大きく下回っている。一方、農地が宅地に蚕食される「スプロール」は無秩序な自然破壊に見える反面、宅地に住む人びとから見れば、緑が残る豊かな町の姿ともいえる。そこで、一定規模以上で、一定期間は農的自然が保たれる保証がある場合は、市街化区域でも固定資産税は農地並みとし、相続税も猶予して、都市緑地としての機能を守っていこう、というのが生産緑地法の趣旨だ。
確かに雨水の浸透、貯留能力の点からすると、よくある街区公園などと比較して、農地は素晴らしい性能を持ったグリーンインフラ(自然の仕組みを生かした社会基盤)でもある。大雨時に下水排水能力を超えて発生する内水氾濫。これに悩む大阪府守口市の淀川から鶴見緑地にかけての筆者らの調査では、畑地の雨水浸透能力(最終浸透能)は1時間当たり130mmと、造成地である公園の樹林地の55mmよりもはるかに大きいことが確かめられた。
時代は一転、人口は減少に転じた。空き家の増加が課題となってきた現代都市で、生産緑地が宅地転用されるのは理に適わない。そこで国土交通省と農林水産省は今年から都市緑地法等を改正して、2022年問題対応を開始した。買い取りの申し出期間を10 年先送りにしたり、直売所や農家レストランも設置可能にしたり、このために都市計画の用途地域に田園住居地域を創設するなどして、生産緑地の維持を目指している。
しかし、現況でも着実に生産緑地は宅地化している。京都府長岡京市では、ここ10年間の市街化区域緑地減少の最大要因は、生産緑地の主たる従事者の故障に伴う農地転用であった。市区町村が買い取れないとしても、農地の生態系サービスを踏まえて、所有権と使用権の分離も視野に入れた、市民農園やCSA(地域支援型農業)ほか、新たな農地継承の戦略を検討してほしい。